第2話 変態、スキルを使う

 勢いよく駆け出したものの、全く森の中から抜け出せない。



「さすがに喉が渇いたな」



 そう呟いた時、遠くから水の流れる音が聞こえてきた。


 しばらく歩くと川が流れていて、その川の水はかなりの透明度があり、美しかった。



「ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ…無茶苦茶美味い!!」



 乾いた喉が潤い『ふっ』と水面を見る…と、そこには見た事の無い、美少年の顔が映っていた。



「んっ!?」



 意味が分からず唖然として水面に映った顔を見つめる。



「俺の顔か!?」



 確認の為に手で顔を触ってみる。当然、水面には顔を触る手も映し出された。



「本当に俺の顔の様だ。神様、グッジョブ!!」



 正直に言うと、こんなに心が躍るような気持ちになった事が無い。俺の顔がまるで美少女にも見える様な美形に生まれ変わっていたのだ。



 教師時代に生徒達に言った言葉を思い出す。



「人間は顔ではないよ。内面が大事だからな。大人になれば嫌でも分かるぞ」



 そして思う。



(悪い、あれは嘘だ!!美形に生まれただけで、かなりの確率で人生のアドバンテージになっているのは間違い無い。世知辛いがこれが現実だ。受け入れて生きていくしかない)


 

 俺は自分が超絶イケメンになっていた事で、今まで言っていた事を完全に否定をする。我ながら酷い変わり身だとは思う。


 しかし、俺はこれから始まる異世界での人生を思い、期待感で胸が一杯になっていた。


 そして…



「ふふふっ、見た目は16歳の超絶美少年、中身は変態!!」



 俺は一人、森の中で叫んだ。




 時間が経ち、今の状況にも慣れてきた。もう気分が高まり、走り出したりはしない。落ち着いて森の中を進んでいく。



「日が落ちる前には何とか人里を見つけたい。神様も考えて、この森に転移させたのだと信じたいよ」



 少し愚痴交じりに呟いた。


 その時



「ん!?」



 生き物の気配を感じて目を閉じ、耳を澄ました。



(人の声!?動物の唸り声か!?)



 俺は一瞬迷ったが、音がする方向に駆け出した。


 間違いない!!人がいる…動物と戦闘になっているのか!?



(ふふふっ、いい機会だ。一騎当千の力を試すとしよう)



 俺は戦闘経験など一切無いが、気持ちが昂る。もう一度、死んでいるのだ。『何とかなるやろ』の精神で突っ込む事にした。


 急に森が開け、街道に出た。


 しかし、そこには…3メートルは超えると思われる…ヒグマのような猛獣が…しかも三頭も…。そして十数人の騎士の様な人達を襲っていた。



「やべっ!?」



 俺はUターンを決めて逃げようとするが、猛獣さんに見つかってしまった。


 当然『あっ、俺、関係ないですから!!』と言っても見逃してはくれ無さそう。やるしかない!!


 俺は猛獣達が迫って来るが考える。



(このままでは確実に負ける。体の大きさが違うので、腕のリーチの差がありすぎる。俺が拳を当てる前にやられるのは目に見えている。それが三頭も…どうしたものか。スピード…動きを極限まで速くして、コイツらの懐に潜り込み、拳をぶち込んでいくしかないだろう)



 俺は覚悟を決め、そのまま突っ込んで行く。



「疾風迅雷!!うおぉぉぉ~~~!!」



 俺の体の動きが急に速くなる…どころでは無い。瞬間移動でもしたのかというくらいの速さだった。


 一瞬で猛獣の懐に潜り込むと、そのスピードを生かして拳をぶち込んでいく。



「……………」



 自分のあまりの強さに言葉を失う。


 三頭の猛獣は吹っ飛び『ピクリッ』ともしない。間違いなく絶命している。


 しかし…あまりにも威力が強すぎたために、俺の拳もボロボロになっていた。


 すぐに激痛が襲ってきた。よく見ると骨が飛び出している。



「くっ!?い、痛い!!」



 しかし…問題はない!!



「き、起死回生!!」



 俺は顔をしかめ、激痛に耐えながらスキルを発動させる。


 すると…金色の光が俺の拳を包み込んだ。


 そして光が収まると、何事も無かったように、綺麗な指に戻っていた。当然、痛みも消えている。



「ふ、ふふっ…ふはははっ!!凄いよ、神様!!とんでもないスキルだ!!」



 俺は初めてスキルの効果を目の当たりにして、大声を出して笑った。



「た、助けてもらい礼を言う。ありがとう」


「んっ!?」



 不意に声をかけられ振り向くと、そこには絵に描いたような『クッコロ女騎士』が立っていた。


 プラチナブロンドの長い髪を後ろで束ね、凛とした立ち姿は、まさに俺の理想の『クッコロ女騎士』。意志の強そうな美しい顔に一瞬で心を奪われ、俺は彼女の澄んだ瞳に吸い込まれそうになった。


 そして俺は思う。



(彼女に『くっ!!貴様に辱めを受けるくらいなら、私は躊躇なく死を選ぶ!!殺せ!!』と言わせてみたいな…と)



 俺は彼女に強い興味を持ち、詳しい情報を知りたいと思った。



(少し失礼をして…成功すれば助かるけど…どうかな?鑑定!!)



 アリアルーナ 女 21歳 魔力5


 173㎝ 51kg 


 B83 W59 H85 処女


 戦闘力A 政治力D 生産力E 


 統率力A 魔法力F 人間力S


 スキル



 頭の中に女騎士さんの情報が浮かんできた。



(よし、成功だ!!アリアルーナさんというのか…21歳、美しすぎる!!しかも、俺の情報より詳細に…スリーサイズまで!!鑑定さん、グッジョブです!!)



 自分が鑑定されているとは思いもしてないアリアルーナさんが俺に向かい



「お礼をしたいのだが…。私の主があの猛獣達に襲われて…申し訳ない」



 と彼女は、見た目はまだ少年の俺に、深々と頭を下げて謝った。



「大丈夫なんですか?」


「………傷が深すぎて…もう…」



 俺の問いかけに、彼女は悲痛な表情で答えた。



「もし許されるのなら、俺が診てみましょうか?」


「…高ランクの治療魔法が使えるのですか?」


「高ランクかは分かりませんが、ある程度の効果は見込めると思いますけど…」



 彼女は眉間にしわを寄せ考えている。この憂いを帯びた表情もたまらない!!



「頼みます。もし助ける事ができたなら、あなたの望みを何でも一つだけ叶える事を約束します。助ける事ができ無くても…少しでも苦痛を和らげて欲しい…」


「わかりました。全力を尽くします」



 俺は彼女にそう答え、主の元へ連れて行ってもらうのだった






【アリアルーナ視点】


「くっ!!私達の力では、この猛獣三頭の相手は厳しい。しかし、女王陛下が…。早く治療をせねば…手遅れになってしまう。足を狙え!!動きを止めなさい!!」



 女王陛下を守るため、この猛獣に怯む者などいない…が、パワーが違いすぎる。思うように動きを止める事ができない。


 早くコイツらを退け、女王陛下の治療をしなければ…。気持ちは焦るばかりで、スタミナが削られていく。



(このままでは…全滅)



 そう思った時、森の中から一人の少年が飛び出して来た。


 その少年は無謀にも猛獣達に突っ込んで行く。



(無理です!!倒せるわけがありません!!)



 私は少年に向かって『止まりなさい』と叫ぼうとしますが、瞬間的に少年の姿を見失ってしまいました。



(き、消えた!?)



 そう思った次の瞬間、三頭の猛獣が次々と吹っ飛んでいきました。


 私は少年の美しい顔や身のこなし、そして圧倒的な強さに一瞬で心を奪われてしまいました…が、そうも言ってはいられません。


 女王陛下が…危ない。爪でお腹をえぐられ、今は天幕の中…正直、厳しいですか…。高ランクの回復魔法を使える者は、わが国にはいない。ましてポーションで治る傷ではないと思われます。


 本来なら、丁重にお礼をしなくてはなりませんが、今はそれどころではありません。絶望感が私の心の中に広がっていきます。


 しかし…少年が言う。



「もし許されるのなら、俺が診てみましょうか?」



 …と。


 本来なら、身元が不明な者を女王陛下に合わせるわけには参りませんが、私には、この少年なら…と思わせる雰囲気が漂て見えたのです。


 私はもし女王陛下を助けてくれたのなら、どんな願いもかなえると約束をして、彼に診てもらう事を決断をしました。



(全責任は私がとります。お願い…どうか女王陛下をお助け下さい!!…出来ぬなら…せめて痛みだけでも和らげて…)



 そう決意し、私は彼を天幕の中へ連れていくのでした。



 



 

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