【9話】ラルフの街案内③


 とても美味しい昼食を食べ終え、ミレアとラルフはカフェを出た。

 

 その後もミレアは、色々な場所を案内してもらっていく。

 

 着々と時間は進んでいき、気づけば夕方近くになっていた。

 

「次で最後だな」


 最後に案内された場所は、街の中央部。

 噴水広場になっているそこに、ドカンとそびえ立つ大きな建物があった。

 

 街にある建物の中で、まず間違いなく一番大きかった。

 存在感が半端ではない。

 

「大きい建物ですね」

「ここは冒険者ギルドだ」


 冒険者ギルドと聞いて、昨晩の会話を思い出す。

 

 ラルフのような冒険者へ、依頼を発注する場所。

 それがここ、冒険者ギルドだ。

 

 ギルドへ入ると、中にいる人達の視線が一斉にこちらへ向いた。

 

 その多くは男性だ。厳つい顔つきで武器を携えている。

 彼らはみな、ラルフと同じく冒険者をしているのだろう。

 

「おい、見てみろ。SSランクのラルフだ」

「あれがSSランク冒険者か。ただ者じゃないオーラを感じるな」

「連れてる女、めちゃくちゃ可愛いな。羨ましい限りだぜ」

 

 どうしてか、ものすごく注目を集めている。

 彼らが口々に言っているSSランクというのが、注目されている理由なのだろうか。

 

(でも、SSランク冒険者ってどういう意味かしら?)


 ランクというのが冒険者としての階級を表しているのは、何となく予想がつく。

 しかしSSというのが、どの階級を示しているかが分からない。

 

 実際の冒険者ランクは、下から順にF~SSとなっている。

 一番上のランクであるラルフは、注目を集めて当然だった。

 しかし冒険者について詳しくないミレアは、その辺の事情を知らないでいた。

 

(よく分からないけど、これだけ注目を集めているってことはきっとすごいのよね! さすがラルフ様だわ!)


 揺るぎないラルフへの信頼が、ミレアの疑問を無理矢理に解消した。

 

「依頼受付カウンターがあそこで、あっちは酒場だ」


 ギルドの内部を説明してくれているアルフ。

 しかし急に、「すまない、帰ろう」と言い出した。

 

「急にどうしたのですか?」

「会いたくないヤツらがここにいた」

「え?」


 首を傾げていると、二人組の男女が近づいてきた。

 

「パーティーメンバーの俺らに向かって、ひどい言い草だな」


 茶色い髪をした、二十歳くらいの男性。

 全身の筋肉が盛り上がった、とても逞しい体つきをしている。


「そうね、私の乙女心が傷ついてしまったわ」


 男性の隣にいるのは、オレンジ色の髪をした二十歳くらいの女性だ。

 とても綺麗でいて凛々しい顔つきをしている。その上、スタイルも抜群だ。

 

「俺は事実を言ったまでだ」


 男女に対して、大きなため息を吐いたラルフ。

 ミレアを見ながら「紹介する」と、面倒くさそうに口にした。

 

「一緒にパーティーを組んでいるルークとエリザ。共にSランク冒険者だ」

「ミレアです、よろしくお願いします」

「エリザよ。よろしくね!」


 笑顔でフリフリと手を振ってくれる。

 愛想よく、とても感じの良い人だ。


 もう一方のルークは、驚くべき速さでミレアとの距離を詰めてきた。

 驚いている暇もなく、目の前に立たれる。


「僕はルークといいます。あなたのような麗しい方に出会うため、僕は生まれてきたのかも――」

「あんたねぇ」


 ルークの背後から、首に腕を回したエリザ。

 そのままググッと、ルークの首を絞めつけていく。

 

「婚約者の前で他の女を口説くとは、良い度胸しているじゃない」

「冗談だよ! エリザが一番だ!」


 ルークは必死になって、エリザの腕をタップする。

 

 そんな二人に、ラルフは再びため息を吐いた。

 

「根は良いのだが、見ての通りバカなヤツらだ」

「ちょっと、一緒にしないでよ! 私は違うんだけど!」

「そうだ! バカなのはエリザだけだ!」


 三人が睨み合う。

 その掛け合いが面白くて、ミレアは小さく吹き出した。

 

「みなさん仲良しなんですね!」

「まぁ、それなりにはな」


 照れながらラルフが答える。

 

「仲良しと言えばよ、ラルフとミレアさんも随分と仲が良いみたいだな」

「そうね。でもまさか、あのラルフがねぇ」


 エリザとルークがニヤニヤ笑う。

 露店商の店主、ソーヤと同じ笑い方をしていた。


「思った通り面倒臭いことになった。だから俺は、お前らに会いたくなかったんだ。ミレア、帰ろう」

「悪かった、冗談だって! 怒らないでくれよ」


 帰ろうとするラルフ。

 その肩を、ルークがガッと掴んだ。

 

「これから一緒に飯でもどうだ?」

「せっかくだが、今日は遠慮しておくよ」

「そうか。それじゃ、また今度な。ミレアちゃんも、また会おう」

「今度ゆっくり話しましょうね、ミレアちゃん」


 ルークとエリザが笑顔で手を振ってくれた。


「お二人ともありがとうございます」


 手を振る二人に、軽くお辞儀をしたミレア。

 ラルフと一緒に冒険者ギルドを去った。

 


 家への帰り道。

 夕方になって人がまばらになった路上を、ラルフと二人で歩いていく。

 

「面倒事に巻き込んでしまって済まなかった。疲れただろ?」


 ルークの誘いを断ったのは、ミレアの疲れを心配してのことだったのかもしれない。

 

 その気遣いに、ミレアは心の中で感謝を送る。


「いえ、とても楽しい人達でした。今度はもっとお話してみたいです」

「それなら良かった」


 小さく笑ったラルフだったが、すぐに心配そうな表情になる。

 

「ここの人達は基本的に良い人ばかりだが、少しお節介すぎることがある。もしそれで困ったら、すぐ俺に相談してくれ」

「ありがとうございます!」


 心配してくれている気持ちが嬉しい。

 夕日が照らす道の上で、ミレアは笑顔で頷いた。

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