ヘッドスパ

美容院に行って、髪を切ってもらった後、髪を洗い流してもらう瞬間が僕は好きだ。髪を切ってもらった上に、ヘッドスパ(ヘッドスパに行ったことはないけど)でマッサージされた感覚になれるからだ。

場所によっては違うかもしれないが、僕が座っているリクライニングシートを倒されると、仰向けのままシャンプー台に頭だけが置かれる。そして、白色の薄いフェイスタオルを顔にかけられ、三十八度程度の温めのシャワーが頭にかかる。

真っ白な視界の中、シャワーが流れる音の他に、美容師さんの声が僕の聴覚が捉えた。

「シャワー温度大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

顔にかけられたタオルを震わせながら、答える。

そこから髪全体に温めのお湯が行き渡った後、美容師さんは慣れた手つきでシャンプーを泡立て、頭全体を泡で包んでいく。

十本の指の腹が僕の地肌を優しく、時に強く撫でてくれる。

温めの泡と優しいマッサージが頭の血液の流れを良くしてくれる。

「痒いところありますか?」

「大丈夫です」

これは会話ができているかわからないが、頭の血流が緩やかになっている今の僕には瞬発的な思考はできないため仕方がない。

そして、泡に包まれた髪をまとめると、美容師さんはまたぬるま湯のシャワーを出し、髪に付いた泡を洗い流していく。

シャー、という音がシャワー台を叩き、心地良い時間が流れる。

自分自身は何もしていないのに、頭の皮脂や汚れが落ちていく。

そして、シャンプーの泡が落ち切った後、トリートメントを髪に馴染ませ、もう一度軽く洗い流してもらい、タオルで包み込んで水気を切ってもらう。その時に、タオルの上から頭を軽くマッサージをしてもらい、僕が大好きなシャワーの時間が終わりを告げられる。


だが、頭や顔が大きい僕はこれらの流れをしてもらう時、少し申し訳なくなってしまう。

まずリクライニングシートを倒された時、僕の頭はシャワー台の大きさより少し小さいくらいであり、座り直さないと頭を打ってしまう可能性がある。だから、美容師さんに気を遣われてしまう。

次に顔に白色の薄いフェイスタオルがかけられた時、僕の大きな顔に対応しきれないようで、フェイスタオルから僕の顔がはみ出してしまっている。声を出すと、僕の息でフェイスタオルを吹き飛ばしてしまいそうで、僕は背中から冷や汗が滲み出てくる。

そして、僕の頭が大きいからか、後頭部がリクライニングシートの上に置かれているため、わざわざ頭を持ち上げなければ洗うことができない。白いタオルで目が覆われているため、美容師さんの顔は見えないが、とてもやりづらそうだった。

僕の頭は綺麗な丸ではなく、角があるような形をしているため、どのようなマッサージをすればいいのか困っている様子だった。


以上の四つのことにより、僕は髪を切った後の洗髪は気持ちが良い。ヘッドスパにだって行ってみたい。だが、頭や顔が大きいことで気まずい雰囲気になるのだけは避けたい。

だから、ヘッドスパに行くために、自分の顔が少しでも小さくなるように小顔マッサージを今日も欠かさない。

かなり非効率だ、という真実に僕は目を背ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る