顔が大きいメリット
ここまで僕は顔や頭が大きいことのデメリットばかりを書き連ねていたことだろう。
だけど、メリットはある。
大学生の時、僕は四年間スーパーマーケットで週に三回程度でアルバイトをしていた。しかし、一つのアルバイトだけで生活費を賄えない時期があった。だから、僕は短期で、それも一日でお金が稼げるようなバイトを探すために、短期アルバイトを募集しているアプリをインストールしたが、僕ができるようなアルバイトはあまりなかった。
どうしようか、と悩みながら、大学の構内を歩いていると、掲示板に貼られたチラシが目に入った。
『オープンキャンパスのアルバイト募集』
と、チラシの一番上に大きく書かれたものであった。
その時、大学でサークルも所属をしていなかったため、とりあえずやってみるかと思い、チラシに書かれたQRコードを読み込んで、応募した。
アルバイトをお願いする人は抽選となります、と書かれていたため、きっと倍率が高いのだろうと思っていた。
しかし、応募した次の週には結果が届き、オープンキャンパスのアルバイトに合格した。
じりりと蝉が鳴き、アスファルトの上では陽炎がゆらゆらと揺れている頃。僕は大学から最寄り駅で大学への道順を案内する係として、駅の改札前に立っていた。
『〇〇大学のオープンキャンパスはこちらです』と書かれた自立できない立札を持ち、駅の改札から出たり入ったりしている人たちをぼんやりと眺める。
駅の改札前ということもあって、日陰で冷房も少しだけ効いている。だが、それでも暑い。
額から流れ出てくる汗を何十回目かわからないくらい拭った後、顔を上げると、一人の女性と学生服に身を包んだ男の子に声をかけられた。
「すみません。大学にはどのように行けばいいのでしょうか」
その女性は僕に一枚のメモ紙を差し出して、僕に問いかけて来た。女性の物腰柔らかな様子と、最寄駅から大学が少しだけ遠いこともあり、僕はスマホのマップアプリを起動させて、細かに説明をした。
「ありがとうございます。暑い中ですが、頑張ってくださいね」
と頭を下げた女性と男の子は、その場は後にした。
そして、僕がそんなことをした数か月後。
もうすっかり季節は秋になっており、ひやりとした風が素肌を晒している顔を叩く頃、僕はまた大学のオープンキャンパスのアルバイトに参加していた。
前回とは違い、最寄り駅の案内ではなく、大学構内での受付の担当になった。何人もの学生や親御さんと関わっていたが、その時、見たことのある学生と親御さんが僕の前で足を止めた。
「前回のオープンキャンパスでは丁寧に案内していただきありがとうございます」
その言葉に、前回のオープンキャンパスのアルバイトの時を思い出した。あの最寄り駅の改札の前で案内をしたあの親子だった。
覚えられていたのだ。
僕はとても驚いていたと思うが、嬉しさのほうが勝っていたと思う。覚えやすい顔だったのかなと思うことにした。
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