其之弐拾漆話 惡の権化 蛇鬼
洞窟での死闘 半刻前……。
涼介は洞窟の中にある巨岩の上に座し、天井岩の隙間から差し込む月光を体に浴びていた。
そしてその青く輝く月を臨みながらひとり呟いた……。
「舞美さん……ここに…僕の元にたどり着けるのでしょうか……呪木の森に舞美さん達がやられはしないだろうか…………そうだ!舞美さん達が来る前に僕が呪木の森を焼き払えば……いや…だめだ……それでは…剱が強くならない。僕の中にある…兄者の破片で作られた破蛇の剱が……」
『兄者の破片』それは涼介が蛇鬼と対峙した際、涼介の体内に残された蛇鬼の角の事。破蛇の剱はその角から作らた剱だった。
この剱は涼介の命、鬼の惡力を糧に強く鍛えられる剱だった。
「舞美さん……出来る事ならあなたに祓われてあげたい、そしてこの剱を貴方に渡してあげたい。でも…それでは駄目なんです。この剱は、僕が悪しき力を使う程、鍛え上げられる剱。そして、この剱に舞美さんの『清い力』が加われば更なる強力な…邪氣を祓う強力な刀になる。兄者を、すべての悪を討ち祓う月の光を纏った刀『月下の刀』に……」
そして涼介は立ち上がり何かを決意した顔で呟いた。
「舞美さん、早く…早くここに来てください。僕は…僕は、舞美さんの為に、死力を尽くして貴方達を倒しに行きます…」
舞美は、大蛇との戦いに勝った。しかし大蛇の正体は舞美が想いを寄せる人、神谷涼介だった。
舞美との戦いに敗れた涼介は、白く輝く剱と縁日で揃えた青い風鈴のキーホルダーを残し、泡のように消えていった。
風鈴を握り締め、蹲って泣き続けている舞美に嫗めぐみが語りかける。
「舞美……まだ終わりではありません。さぁ剱を取るのです……」
無表情で冷たく言い放つ嫗めぐみ。しかし彦一郎との悲しい別れを経験しているめぐみは、舞美の気持ちが痛いほど分かっていた。
そして歯を食いしばり涙をこらえて剱を出にした。
そう呟き、剱と風鈴を手にとった。破蛇の剱、それは白く輝き大きさの割には、軽く鍔に竜の模様が刻んであった。
「涼介君……ありがとう」
そう呟いたその時、突然地響きが起こり地面が砕け始めた。
『ドドォォォン!ゴゴゴゴゴゴゴドドォンドドドドドドドォォォンゴゴゴゴドドドォン!』
凄まじい音と共に壁が崩れ落ち、土煙が凄まじい風圧と共に洞窟内に広がり充満する。そして静まり返ったその土煙の中から『コツコツコツコツコツ……』と靴音が聞こえ、その音が次第に舞美達の元へ近づいてくる。
そして低く不気味な声が舞美達に語り掛けて来た。
「私は……月が輝く夜が嫌いでね……。この時を待っていたよ、五珠の力の使い手、舞美……。お前が破蛇の剱を手に入れるこの時を……」
そして土煙が晴れ、声の主が現れる。そこに居たのは、黒いヘルメットをかぶりボロボロの服を着た男。どこかで見たことがあるこの男。
そう、この男は舞美とバイクでぶつかった男、舞美の目の前でどす黒い煙に包まれて消えた男だった。
この男はオジイ達から舞美と事故を起こすように利用された男で、本当ならば二人とも同じ病院へ運ばれ、男は軽傷で済むはずだったのだ。
しかし事故の後、この男は行方知れずになっていた。
やはり邪鬼はずる賢い奴だった。月光下では動けない邪鬼は、この男の体を乗っ取り、舞美達の動きを監視していた。
事故を起こしたこの男は、舞美の目の前で邪鬼に体を乗っ取られた。そして蛇鬼は、その男に成りすまし、人間社会に紛れていた。
「私はね……舞……」
『ビシビシィビシッドドォォォン!』
邪鬼が口を開いたと同時に、男が氷の塊になり、そして大爆発を起こし身体が粉々に飛び散った。
舞美が後ろを振り返ると、嫗めぐみが怒りの形相で術の言の葉を唱えている。
「舞美、そこをどいてください! 氷裂刃……」
『シュバッ!シュバシュバシュバッ!シュバシュバシュバシュバッシュッシュッシュッシュバッ!!』
最初の攻撃で舞い上がった土煙の中に向け、更に術を仕掛ける嫗めぐみ! 無数の氷刃が土煙の中に向けて一斉に放たれた!
『ガキンッッガガキンッ!ガキガキンッガキンッガキガキンッ!ガキンッッガガキンッ!』
土煙の中で金属同士がぶつかるような甲高い音が鳴り響く。
そして次第に視界が開け始めると、その中に大きな…大きな塊が見え始めた。
そしてどこからともなくと入ってきた風が、『ゴォッ』っと土煙を流した。
そこに立っていたのは鬼。全身どす黒い鱗に覆われた巨漢の鬼、蛇鬼が泰然自若と立っていた……そしてゆっくりとした口調で話し始める。
「嫗の子よ……鬼の話は、最後まで聞くものぞ……。私はその『破蛇の剣』を発している。舞美……それを私に渡してはくれまいか? 私はお前と争いたくはないんだ……。その剱を渡してくれたら私はここから立ち去りお前たちの前には二度と現れない、どうだ、んっ?」
低い声でゆっくりと、しかも丁寧に語り掛けてくる蛇鬼。しかしその身からは明らかに凶悪な、今にも襲い掛かってくるような鋭い殺気が感じられている。
勿論、舞美達がその言葉を聞き入れる筈がなかった。舞美は、破蛇の剱を鞘から抜き、剣先を蛇鬼に向け声を荒げた。
「蛇鬼!日ノ本を脅かす惡の権化!お前のせいで苦しんだ沢山の人の為に、私はお前を絶対に許さない!そして涼介と約束した!お前を必ず祓うと!」
蛇鬼は、目を閉じ俯いて『フッ』と鼻で笑った。そして……。
「ならば…………ここで死ね!」
そう叫びながら右手を上げた。激しい稲光が右手から地面に向かって放たれた。すると蛇鬼の周りの地面から黒い蛇のようなものが無数に湧いて出た。
それがグニャグニャと粘土の様に形を変え真っ黒い猿のような獣になった。
「さぁ!お前達、遠慮はいらん!その者達を喰らうがよい!」
その声と共に獣の口が蛇のように『グワパッ!』と大きく開き、舞美達に襲い掛かってきた!それを見ためぐみが叫ぶ!
「舞美!そいつ等に触れてはいけません!羅神、雷撃を!」
羅神が舞美達の前に出る! 低く唸りながら構え、そして吠える!
『ワオォォォォォン!』
『ドジャヤァァッァン! バチバチバチバチッドジャヤァァッァン! バチバチバチバチッ!』
無数の雷撃が舞美達を囲むように獣を焼き尽くした。
(舞美!どうやらこいつ等は毒の塊じゃ!剣で切ったら弾けて毒を浴びてしまうぞ!)
「舞美……一旦下がります」
「はい!」
舞美と嫗と羅神は一旦、蛇鬼と距離を取るために後方へと下がった。
「舞美…先ずはあの毒獣をどうにかしなければなりません…広範囲に攻撃できる赤珠を纏いなさい…私は羅神を纏い、毒獣を祓いながら蛇鬼の懐に入ります…」
「でも……」
「大丈夫……うまくいきます…では行きましょう…」
そして舞美は、破蛇の剱を腰に戻し赤珠を纏い、嫗は雷珠を纏った。二人は協力して距離を取り毒獣を一掃する戦法を取る。
舞美が火焔剱を、一振りする!
「炎走激斬波ぁぁ!!」
『ブアァァァォォォォォォォン!!』
炎の波が地面を走り毒獣を焼き尽くした!
嫗は、雷を帯びた氷の刃を雨のように降らせた!
「雷撃…氷雷雨…」
『バシャバシャシャシャシャシャン!!』
毒獣氷刀で切り刻まれながら凍りつき、電撃によって砕け散る毒獣!
二人の激しい攻撃により毒獣が一掃されたと同時にめぐみは『氷雷刀』を構え一瞬にして蛇鬼の懐に飛び込んだ。
それは舞美にも見せた事がない、まさに目にも止まらぬ電光石火の速さだった!
「えやぁぁぁぁ!」
『ブォン!』
蛇鬼の喉元目掛けて剣を振り抜いた嫗めぐみ。しかし手応えがなく凄まじい音を立て空を切る氷雷刀…
逆にめぐみは、蛇鬼に後ろを取られていた。
めぐみがそれに気付いた時には、蛇鬼の容赦ない強烈な蹴りが、既にめぐみの体を捉えようとしていた。
「残念……」
の声と共に蛇鬼の蹴りがめぐみの腹を捕らえられる!
『ドゴッガッ!』
「キャァァァァ!」
『ドォォン!』
激しく岩壁に叩きつけられた嫗めぐみ。
その衝撃で纏が解かれ、羅神と共に激しく地面に転がり落ちた。嫗はこの攻撃で深手を負ってしまったのか動けないでいた…そこへ……。
『ジャリッ……ジャリッ……ジャリ……』
ゆっくりと嫗めぐみの下へ歩み寄る蛇鬼。
「ふふっ…残念だ…実に残念だ……嫗の子よ……」
蛇鬼は、嫗めぐみを見下しながら呟き、鋼鉄のように硬い爪を長く伸ばした。そしてその手を振りかざし、とどめを刺す一撃を繰り出した!
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