其之拾肆話 凍てつく神楽鈴
そしてその冷氣が今度は、口に吸い込まれていく。それを見た舞美が呟く。
「こ、これって『神氣の息』!?」
舞美は、その光景に驚愕した。何故なら悪霊が目の前で神氣の息を行い始めたからだ。しかもそればかりではなかった……転校生は、両手を大きく両手を広げ、胸の前で大きな音を立て拍を打った。
『パンッ!』
そして呟く……。
「纏……」
称えたと同時に、眩しい光と凍える様な冷たい冷氣が更に激しく転校生を包みこんだ。
そしてその冷氣の渦中から白衣に千早、紫色の緋袴を纏った転校生が現れた。
『シャンシャンシャシャン!』
転校生は、舞を行いながら手に持った神楽鈴を打ち鳴らし、それを胸に当て、言の葉を唱え始めた。そして、再び神楽鈴を打ち鳴らし華麗な舞を始める。
すると転校生の周りの大気が凍て付き、白く霞み始める。
神楽鈴をゆっくりと頭上に掲げるとそれに合わせて冷氣の風が転校生を中心に渦を巻き始めた。
次第に大きくなる渦中で、神楽鈴を打ち鳴らしながら、更に激しく華麗な舞いを続ける転校生。
その激しく回る渦中に幾つもの氷塊が形成されていく。渦中で氷塊同士がでぶつかる音が響き渡る。
『ゴッガギッゴンッバキッッッバリッガギッ!!』
砕けた氷塊は、更に激しい風により削られ、鋭く尖った氷刃となった。
そして転校生が顔を上げ、神楽鈴を舞美の方へ振りかざす!
『シャン!』
その音色とともに、渦中から氷刃が目にも留まらぬ速さで舞美めがけ放たれた!
「茨の鞭!」
『パンッ! パパパパパパパンッ! パパパンッ!』
舞美は「緑珠」を纏い迎え撃ち、鞭で氷刃を粉砕した!
しかし僅かに氷刃を撃ち漏らし、それが舞美の身体を掠めた。その切れ味は鋭く、あらゆる攻撃から身を守る纏が、まるで紙のように切れる程だった。
「纏が切り裂かれた!? くっ!なんて鋭い刃!しかもこの数、多すぎる! こんなの防ぎきれないぃ!」
容赦なく神楽鈴を打ち鳴らす転校生。
『シャン!シャン!シャン!』
音が鳴るたびに、無数の氷刃が放たれ、防戦一方の舞美。そして次第に氷刃の速さも飛んでくる数も増してくる! 戸惑う舞美。
「このままでは……駄目だ!」
そう考えた舞美は、直ぐ様、羅神に攻撃を命じた。
「羅神! お願い!」
羅神は、指示を待っていたかの様に、唸りながら舞美の前へ踊り出た。しかもその身体には、既に雷電を纏っていた。
「ガアオァオゥゥゥ!!」
羅神が激しく吠えると同時に、雷撃を広範囲に撃ち放ち、飛んでくる無数の氷刃を一瞬にして粉々に粉砕した。
そして矢継早に渾身の雷鎚を放つ!
『バリッバリッ……
バァァァァァァァン!!』
転校生に向かって突っ走る一筋の閃光……直撃! と思われたその瞬間、嫗めぐみは神楽鈴を目の前に差し出し、一瞬して冷気の渦が嫗の周りに厚い氷鏡を作り出し、羅神が放った雷鎚を跳ね返した。
『パアァァァァァァァァンッ!!』
跳ね返った雷鎚は、凍てつきながら四方に飛び散り、その一筋が羅神の体をまともに捉えた!
『バァァァァァァァンッ!!』
「ギャワアァァァァァン!!」
羅神は、自分が放った雷鎚で後方へふっ飛ばされ、力無く地上に落ち、そのままぐったりと横たわり動けなくなっしまった。
「羅神⁉……おのれぇぇぇ!!」
舞美は、怒りの感情を抑えきれず獣のように叫び、再び拍を打った!
「黄纏っ!!」
「金色の槌!」
黄珠は、力と皇の纏。手には、黄金に耀く巨大な槌を持ち、氷鏡目掛け正面から突っ込み、力任せにぶっ叩いた!
「おおおりゃぁぁぁぁぁ!」
『ガッゴオォン!』
叩かれた氷鏡は鈍く野太い音をたて『ピシッピシッ』っと僅かにヒビが入った。
「そらぁー! もういっちょおぉぉ――!」
そう叫びながら今度は、上空に高く舞い上がり、頭上から一撃を放つ!
『ガッゴオォォォォォン!』
『ピシッピシッピシッ……パリィィィン!』
凄まじい勢いで氷鏡の壁が粉々に砕けちり、その衝撃破が強大な風の渦となり、転校生を上空へ激しく巻き上げた。
「キャァァァァァ!」
吹き上げる凄まじい突風に揉まれながら、飛ばされた転校生に成す術はなかった。
舞美は、間髪入れず赤珠を纏う。
「赤纏!」
纏が仄かに赤い光を発し、続けて槌が漆黒の弓矢へと変わる。
「焔の破魔弓!」
漆黒の弓に、燃え盛る破邪の矢を装填する。そして上空高く巻き上げられ、錐揉みしながら落ちて来る転校生に狙いを定めた。
「悪霊ぉぉ! こぉれでぇぇ! 消えちゃえぇぇ!」
悪しき者を一瞬で焼き尽くす火焔を纏った破邪の矢! 力いっぱい弓を引きとどめの一撃を放とうとした、その時!
(舞美!止めてくれ!撃たないでくれ!)
突然、彦一郎の叫び声が頭の中に響いた!
(えぇぇっ⁉ 無理ぃぃもう止めらんなぃぃ!)
そして破邪の矢が舞美の手を離れる!
『シュパッ!シュッパァァァァァァァァァ!』
しかし放つ瞬間、少し、ほんの少しだけ身体が右にズレたので矢は、転校生の僅か右に逸れた。
燃え盛る破邪の矢は、赤い軌跡を残し、遥か空の彼方へ消えていった。
「ふうぅぅぅぅぅぅ……」
安堵のため息を吐いた舞美、そして直ぐ様、彦一郎に問いただした。
(どういう事よ? 彦一郎さん……)
(詳しいことは、後ほど話す……まずは、儂を纏ってほしい……)
(……分かった! 白纏……)
彦一郎の願い通り、舞美は白珠を纏った。そして気を失い、上空から力なく落ちてくる転校生をそっと空中で受け止め、ゆっくりと地上に降り立ち、地面に寝かせた。
「生命の指嵌……」
『指嵌』の力で転校生の氣と傷を治し、気が付くまで待つった。そしてその間に、彦一郎が語り始めた。
(この娘は……いや、嫗は私の女房だった人だ……)
「……えっ!?……えぇぇぇぇぇっ!! に、女房ぉぉ!?」
ひっくり返るくらい舞美が驚きの声を発すると同時に
(ワァァハッハッハッハッ!)
オジイ達が大笑いしながら舞美と転校生の周りに現れた。
(とうとう摑まりおったわい!)
(いい加減観念せい!)
(これも運命(さだめ)……)
(じたばたするな! 阿呆が!)
その途端、彦一郎は皆から一斉に激を受けた。
オジイ達だけで『ワイワイ』と話が盛り上がり、この状況がどうなっているのかさっぱりわからない舞美。
「もう! なによ! 何なのよ! 自分達ばかりで盛り上がって! 私にもこれがどういう事か教えてよ!」
舞美はジタンダを踏みながら叫んだ。
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次回予告
『其之拾伍話 嫗千里乃守と彦一郎』
(おおぉ、すまん。この娘はなぁ彦一郎の女房じゃ)
「!? はっ!? 今なんて言った!?」
(だから嫗めぐみは、彦一郎の妻じゃ)
「はぁぁぁ⁉ 私!……私彦一郎の奥さんを破邪の矢で射ようとしていたの⁉」
ド肝を抜かれた舞美。自分が矢で射ろうとしていた相手の事を知り、恐ろしく思うと同時に、彦一郎に申し訳ないという気持ちが湧き上がってきた。
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