其之拾参話 敵か味方か……嫗めぐみ
雲一つ無い青空が広がる心地良い月曜日の朝だった。
朝、登校して教室へ入るといつもと様子が違う。いくつかのグループに分かれ、何かを話し合っている。何だかクラスの全員がザワついているようにも感じられた。
舞美は、この様子を不思議に感じながらクラスで一番仲の良い橋田夏美に問いかけた。
「おはよう夏美。ねぇなに、この騒ぎは? 何かあるの?」
すると夏美は怪訝な顔をしながら言い返してきた。
「まぁみぃぃ、何いってんの⁉ 今日はこのクラスに転校生が来る日だよ! 何日も前から楽しみだねって二人で話してたし、昨日もその話をしたばっかじゃん!」
「そんな……話……したかな?」
「したした! したよ! おぉぉい……大丈夫かぁ舞美!?」
まったく覚えがない転校生の話。しかしクラスメイトの皆、今日転校生が来る事を知っていた、知らなかったのは舞美だけだった。
しかしその時は『聞き忘れかな』と思いあまり気にしなかった。
そして夏美はと言うと……。
「女子かな⁉ 男子かな⁉ 男子希望! そしてイケメンだったら超最高だよねっ舞美!」
そう言いながら身振り手振りを入れ、一人でかなり盛り上がっている。
そして始業のチャイムが鳴り、朝のHRの時間がきた。
ガヤガヤと皆席に着き、転校生が来るのを緊張した面持ちで待つ。
すると……。
『ガラガラガラ……』
教室の引き戸が開き、そこから少し笑みを浮かべた教師が顔だけを出した。そして室内をキョロキョロと見渡した後、ニ、三歩教室内に歩みを進め、話し始めたと同時に廊下の転校生へ向けて手招きをした。
「皆、知っていると思うが……めぐみさん、入りなさい」
「はい……」
廊下から聞こえてきたか細い声。そして教師が『めぐみ』と口にしたのが聞こえた途端『ガタンッ』と机を叩くような音が後から聞こえた。
驚いて振り返ると夏美が、がっかりして力なく机に塞ぎ込んだ音だった。
「め、ぐ、みぃ〜? 女子かよぉぉぉ……あぁぁあ……」
そして教師に呼ばれた転校生が、静々と教室に入室してきた。
その転校生、見た目は色白で髪の長い小顔の女子。その出立は、まるで日本人形のような和風美人、しかし何処か妖しげな雰囲気を醸し出していた。
そして教卓の横に立つと一礼をして自己紹介を始めた。
「嫗……めぐみです……皆様どうぞよろしくお願い致します……」
物静かな口調で、自己紹介が終わるとゆっくり頭を下げ、深々とお辞儀をした。
その挨拶を聞いた後ろの席の夏美が、舞美にこっそりと耳打ちをする。
「『よろしくお願い致しますぅぅ』なんて普通のJKが言うかぁ? この娘(こ)只者じゃないね!」
そう言いながら二人でクスクス笑った。
「じゃぁ……東城の隣にいいか?」
「はい……」
教師に促されるとその転校生は、教室に入ってきた時と同じように静々と歩み、舞美の隣の席に座った。
舞美は転校生をずっと目で追って、席に座ったと同時に声を掛けた。
「東城舞美です、よろしくね!」
その声掛けに転校生は……
「嫗めぐみです……よろしくお願い致します……」
にっこりとほほ笑み、丁寧な挨拶を返した。
「『おうな』って珍しい名前だね!」
「ええ……よく言われます……」
舞美は、会話の糸口を探して話しかけたが、即答され秒で会話が終わった。
しかし、ここであまり喋らない寡黙な彦一郎が、頭の中で語りかけてきた。
(舞美……)
(何?)
(あのなぁ……舞美ぃ……だからなぁ舞美ぃ……)
(だから何? 彦一郎……)
何かを言いたげだった彦一郎。しかし、しどろもどろで何を言いたいのか分からない。
いつもと様子が違う彦一郎を舞美が心配していると、何故か他のオジイ達は……
『プッ……クックッ……クッ……』
今にも笑い出しそうなのを我慢しているような感じだった。
そして放課後……。
部活動が終わり、帰路に着いた舞美。辺りは、すっかり日が落ちて薄暗くなった帰り道。
(今日のオジイ達……様子がいつもと違ってた。何かあの転校生が関係しているのかなぁ……)
そんな事を色々考えながら歩いていると、前を歩く羅神が急に立ち止まり、姿勢を屈めて唸り声を上げ始めた。
『ウゥゥゥゥ……』
明らかに前方に居る何かに……警戒している。
「どうしたの羅神?」
薄暗い住宅街の路地、街灯の明かりが届いていない暗がりの中。
何かいる? いや、誰かいる……その誰かが街灯の下へゆっくりと歩み出てきた。
街灯の明かりに照らされた人影、舞美と同じ学校の制服、髪の長い女性。
「嫗……さん?」
その人物は転校生、嫗めぐみだった。
舞美は安心した。何故なら悪霊だと思っていた者が、転校生の嫗めぐみだったからである。
「嫗さんかぁ! びっくりしたよぉ。奇遇だね! どうしたのこんな所で? 家この辺なの?」
そう声を掛けたが返事がない。何か転校生の様子がおかしい。
しかも羅神が警戒を解かない。ずっと姿勢を崩さず、嫗めぐみを睨み唸り声を上げている。舞美に近づいて来る転校生に、益々警戒を強める羅神。舞美もこの状況の異変に気付き、右手を胸にかまえる。
「嫗さん……あなた何者なの?」
そう舞美が問いかけると、恨めしそうな声で静かに呟いた。
『やっと……やっと……見つけた……』
明らかに人ではないこの異質な氣。
(この人やばい! 何かに取り憑かれてるのっ⁉)
そう感じた舞美はすぐに『神氣の息』を始め、纏う用意をした。
(悪霊に取り憑かれてるのならば白珠の力でその身体から追い出してやる!)
舞美は大きく手を広げ胸の前で拍を打ち、白珠の力を纏う……つもりだった。しかし……
「白纏……」
「……………………」
「白纏!」
「…………………………」
「えぇっ? なんでえぇ? こら! 彦一郎! なに拒否ってんのよ!」
どうしても白珠が纏える事ができない舞美が、あたふたとしていると、立ち竦む転校生の周りで、凍えるような冷たく白い冷氣が渦を巻き始めた。しかも尋常ではない力が交わった冷氣だ。
そして転校生は、目を閉じゆっくりと息を吐いた……その息は、白く凍てついている……。
『ヒュゥゥゥゥゥゥゥ……』
渦巻く冷氣が音を立てながら徐々に嫗めぐみの周りで大きくなってゆく。
そしてその冷氣が今度は、口に吸い込まれていく。それを見た舞美が呟く。
「こ、これって『神氣の息』!?」
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次回予告
『其之拾肆話 凍てつく神楽鈴』
「こ、これって『神氣の息』!?」
舞美は、その光景に驚愕した。何故なら悪霊が目の前で神氣の息を使い始めたからだ。しかもそればかりではなかった……転校生は、両手を大きく両手を広げ、胸の前で大きな音を立て拍を打った。
『パンッ!』
そして呟く……。
「纏……」
称えたと同時に、眩しい光と凍える様な冷たい冷氣が更に激しく転校生を包みこんだ。
そしてその冷氣の渦中から白衣に千早、紫色の緋袴を纏った転校生が現れた。
『シャンシャンシャシャン!』
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