其之拾弐話 未熟者への罰

 周りを高い山々に囲まれた街、某県榊市。この物語の主人公、東城舞美が暮らす街である。この街に暮らす人々にとっては何の変哲も無い、いつもの退屈な日常……。


 しかし、退屈でもいいから早くいつもの日常を取り戻したいと、切に願う舞美であった。





『五珠の力』を得、日ノ本に差し迫る脅威に立ち向かおうと、日々修練に明け暮れる舞美。


 というのも『五珠の力』を得たのはいいが其の力を十分に使いこなせない舞美。


 その事に焦ったオジイ達から連日、連夜、厳しい稽古を受けていた。


 今夜も家を抜け出し、オジイ達が悪霊に成り代わって舞美を襲い、それを迎え撃つという掛り稽古を行っていた。


(舞美! 複数の悪霊に囲まれたぞっ!)


 舞美の周りを巨大な鬼の首の悪霊が取り囲む!


「綠石の斧!」


(馬鹿もん! こんなに多くの悪霊に囲まれたら斧では対応し切れんぞっ!)


「ならば! 茨の鞭!」


(そうじゃ! 鞭ならば使い方によっては一掃できる筈じゃ!)


「おりゃぁぁぁぁ!!」


『バシッバシッバシッバシッバシッバシッバシッ!!』


 鬼の首を鞭で難なく薙ぎ払った。


 (舞美! 下からとてつもなく大きな奴が攻め入ってくるぞ!)


 その声に下を見ると、山の中腹から巨大な竜が現れ、大きく口を開け、舞美目掛け激しく炎を吐いた!


「赤纏! 火焔の剱!!」


 素早く赤珠を纏い、剱を振りかざして竜の炎を弾き返した!


「だあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


(ほれ、舞美……防御がおろそかになっとるぞ、それっ!)


『ドガッッ!! バガッ!!』


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 痛ったぁぁぁぁぁぁぁい!!」


 真横から竜の尻尾が舞美を跳ね飛ばす!

 

(遅い! 遅い遅い遅い遅いぃぃ! もっと早く対応せんか舞美!)


「白纏!」


(馬鹿たれ! あの様なでっかい悪霊に白珠でどう対応するか!)


「赤纏!」


(違う!! ここは、力技じゃ!!黃珠を纏えっ!)


(いや! 赤珠だ!)


(青!……浄化!……黃珠!)


 様々な悪霊にオジイ達が扮して襲い掛かる。しかも稽古とは言え、攻撃の破壊力は絶大だ。舞美にオジイ達から激しい激が飛ぶ。


 しかし稽古の途中から、次第にオジイ達五人の意見が噛み合わなくなり、最後には、皆苛立って言い合いになって稽古が終わると言ういつものパターンである。


 今日もいつもと同じように言い合いが始まろうとしていた。


 その様な稽古に緊張感が全くなくなってしまった舞美。


 退屈な訓練に飽きたのか意気揚々とオジイ達に意見を言い出した。


「ねぇオジィ! 今日は羅神を纏ってみたい!」


 舞美の突拍子のない意見にオジイ達五人は、驚き促した。


(何を言っとるか! まだじゃ舞美!)


(そうだ! お前は我ら五珠の力さえ完全に使えておらんのだぞ!)


(それに羅神の力がどれ程のものか儂らも判っておらん! それなのにいきなり雷珠を纏うなど以ての外だ!)


(そう……時期相応……舞美、お前の身が心配だ)


「いいって、いいって! 大丈夫! 何とかなるさ!」


 舞美は、オジイ達の必死の忠告に軽く返事を返し、山の巨石の上で寝ていた羅神を呼び寄せた。


「羅神! おいで!」


 舞美の声に羅神はすくっと起き上がり、あくびをしながら体をググッと伸ばし耳の辺りを後ろ足でボリボリ掻いた後、舞美の方へ飛び立った。

 

 神氣の息で心身を整え、飛んでくる羅神に背を向け拍を討ち称えた。


「雷纏!」


 羅神の体が輝き一筋の光の矢にかわる。そして後方から舞美に交わった。


 その途端、激しい閃光と雷鳴が辺りに響き渡り、一閃の雷鎚が舞美を貫いた!!


『バアァァァァン!!』


『パンッッ!バジッジィバジィィィバジッィィ!』


「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…………」


 強烈な雷鎚をまともに受けてしまった舞美の意識は、遥か遠くへ飛んでいってしまった。


(ほうら、言わんこっちゃない……)


(調子に乗るからじゃ未熟者め!)


(おい舞美、大丈夫か?)


 暫く気を失った舞美は、空が朝焼けで赤く染まり始めた頃にようやく目を覚ました。


 ゆっくり目を開けた舞美。すると五人のオジイ達と羅神が心配そうに自分の顔を覗き込んでいた。


 目を覚ました舞美を前に虎五郎が語る。

 

(羅神……雷珠の力は我等が思った以上に強力みたいじゃ……)


(うむ……今の未熟な舞美には到底手に負えぬ力だな)


 (しかし雷獣のこの破壊力、山をも消し飛ばすとは満更、大袈裟ではない話だったな!)


 暫く仰向けで空を眺めていた舞美。


 そしてすくっと起き上がり、一旦羅神を抱きしめ、そして『ガツッ』と顔を掴み、頬を撫でながら嬉しそうに語りかけた。


「羅神! お前凄いな! 雷珠の力、絶対! ぜぇぇぇったいっ! 纏えるようになって見せるからねっ!」

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