其之拾壱話 雷獣 羅神
ここ暫く、悪霊の姿も鳴りを潜める日が続いていた。舞美に引き寄せられるように、この辺りに巣食っていた悪霊もどきも、羅神が食べ尽くしてしまったのか、殆ど見なくなった。
生態のしれない獣魂、羅神だったが舞美と行動を共にする事でその特性が徐々に分かってきた。まずとても賢い、そして普段は狼犬程の大きさなのだが、それを自らの意思で自在に変化する事ができる。
その身体能力は羅神の名に恥じない程凄まじく、本気を出せば纏った舞美の目ですら追いきれない程の速い動きが出来る、しかも空を駆けるように飛ぶ事も出来るのだ。
その羅神、常に舞美の傍らに着き、学校にも毎日のように付いて来ていた。どうやら羅神の目的は、学校に巣くう悪しき物を喰らう事だった。羅神に聞いた訳ではないが喰らう者の『惡力』が強ければ強い程、美味らしい。
たまに血だらけの侍の生首を嬉しそうに咥えて舞美に持ってきたりするが、その度に『そんなの拾ってくんな!』と怒られている。
そんな羅神、暫くすると学校に居る全ての食料(悪しき者)を喰らい尽くしてしまったのか舞美に付いて来なくなった。
そしていつも舞美の傍らに居るはずの羅神が、早朝から何処かに出掛け、見当たらなくなる日が暫く続いた。
舞美は、『何処かに散歩に行っているのだろう』とその時は、気にもしていなかった。
【雷獣覚醒】
ある日の午後の授業が始まる。この時、舞美は睡魔という名の悪霊と戦っていた。
昼食後、お腹が満たされた直後の授業。
ゆっくりとした口調で教科書を読み進める教師。しかも苦手な数学。
日差しが穏やかで、窓から吹き通る風が、心地く感じる気持ちの良い日和。
それは舞美を眠気へと誘うすべての条件が揃っている午後だった。
(眠い……眠いよ……眠すぎるぅぅ……)
一瞬でも気を抜くと、意識がすぐにでも『眠り』という名のブラックホールに吸い込まれそうだった。
しかし、ただでさえ数学の成績が芳しくない舞美。この時間絶対に居眠りをする訳にはいかない。
『ここで寝てしまったら確実に単位を落とされる!』
と必死に自分に言い聞かせ、何とか目を閉じないように必死に藻掻いていた。
そしてこの耐え難い眠気を覚ます為、大きく息を吸い、五階から見える遥か遠くの山々へ視線を向けた。しかし眠気のピークを迎えていた舞美。
(もう……無理……限界かも……しれ……な……い)
意識が遠のき、瞼が落ちていこうとする。すると遥か向こうから建物の屋根伝いに何か白い生き物が飛び跳ねてくるのが見えた。
それは羅神だった、羅神が建物の屋根を『スタッ、スタッ、スタッ』とリズムよく飛び渡り、舞美のいる学校へ向かってくる。
舞美は、落ちそうになっていた瞼を開け、その光景に見入った。
そして羅神が、ひときわ高く飛び上がると、舞美からよく見えるであろう、グランドのど真ん中に降り立った。
『お座り』をして顔を上げる羅神。よく見ると口になにかを咥えている。
それは『悪霊もどき』だった、五匹の悪霊もどきの尻尾をがっちりと口で捕らえている。
(悪霊もどきを咥えてる……どうするんだろぅ……)
すると、羅神が咥えている悪霊もどきをグランド『ポイっ』っと放りだした。
一斉に逃げ惑う五匹の悪霊もどき。四方に広がりなかなかの速さで逃げていく。すると羅神は姿勢を低くし唸り声を上げ始めた。
「ガァァゥゥゥゥゥ……」
唸り声とともに雷雲が羅神の頭上に渦を巻く。
『ゴゴゴ……ゴロゴロゴロ……』
そして空気が震える程の低く大きな一吠えを発した!
「ガアォウ!」
その瞬間!
『バァン!バババババァァァァンバチバチバチバチッ!!』
雷雲から物凄い雷鳴と共に閃光が放たれ、稲妻が五匹の悪霊もどきを貫いた!
『パァァァァァァァァン‼』
稲妻に貫かれた悪霊もどきは粉々に粉砕され、真っ赤な炎を上げ、跡形も無く焼き尽くされた。
舞美は、突然の出来事に……、
「ううわっっ!」
『ガダダンッ!』
驚きの余り席から勢いよく立上り、その勢いで椅子を後ろに転ばしてしまった!
「こらぁ! 東城ぉ! 何寝ぼけてんだ! 目を覚ませ!」
睡魔と戦っていた舞美の事を、教師は分かっていたらしく鋭い激が飛んだ。
「すす、すいません……」
思わず頭を下げる舞美、しかしそのおかげですっかり、目が覚めた舞美。
その光景を見た又二郎が頭の中に語りかけてきた。
(ほう、今の雷鎚は雷獣の力。本来、その力は従えている者が教え込むのだが……何処で覚えたのか判らんがこ奴相当賢いぞ!)
(雷獣!! これは好機! 此奴が居れば悪霊退治も百人力じゃ! なにせその雷撃は、山をも消し飛ばすとも言われているからな!)
(羅神が雷獣?)
朝から行方がわからなくなっていたのは、この力を舞美に見せる為、近所にはいなくなった悪霊もどきを捕まえに行っていたからだった(らしい)
雷鎚を自在に操る雷獣羅神、雷珠として纏う事も出来るとオジイが教えてくれたが……。
「今の未熟な舞美の力では、到底纏う事はできぬじゃろう。もっと精進しなければなぁ舞美よ」
舞美が纏う事が出来ないほどの強大な力。しかし舞美にとって頼もしい愛犬、いや相棒ができた事に変わりはない。
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