第8話 彷徨う獣魂(憑いてくるよぉ困ったなぁ) 

 『子どもの頃の話である。ある日、お父さんが家に子犬を連れてきた。黒と白色でまるでパンダみたいだった。両耳が垂れてて、耳と目の周りが黒くて毛がふさふさで毛玉みたいに丸々でとても可愛かった。しかも、とても賢かった。散歩は、主にお父さんが朝夜、行っていたけど時々私もついて行っていた』

 

 病院の戦いから一ヶ月が過ぎた。大怪我からようやく普通の生活に戻れた舞美だったが『面倒くさい体質』のおかげで本当に面倒な毎日になっていた。どういう風に面倒かと言うと


「うわっ、今日もいる!」


『いる』というのは、ほらそこの電柱の後ろ。血だらけのおじさんがこっちを見てニヤニヤしている。

あっちのお地蔵さんの横には、体操座りをしてブツブツ独り言をつぶやいているお兄さんが見える。そう、面倒くさいとは、普通の人には見えないこの世の方達ではない者が見えるようになった事だ。しかも見えるだけではなく自分達が見える舞美を面白がっているのかついて来たり脅かしたりするのだった。最初の頃は、怖くて泣いてしまいそうだったが慣れというか今では、全然なんとも思わなくなった。

 しかしこれとは別に舞美を悩ませているのは、そこらに浮遊している小さくて力の弱い『悪霊もどき』だ。普段は、ふわふわ浮いているだけの紫がかった色の人魂のような霊魂だが舞美が近づくと、その気配に引き寄せられるように、ものすごい速さで舞美に突進して来る。

 そして悪霊もどきは、霊力の強い舞美の体に触れた瞬間、はじけて泡のように消える。しかし当たった瞬間がものすごく痛いのだ。例えるなら同じ年の男子がドッチボールを全力で投げた位だ。だからと言っていちいち祓うのも面倒なのでオジイ達が代わるがわる結界を張ってくれているが、これが意外と霊力を使うので長くは張れない。なので悪霊もどき居る道は避けて通ったり、こつらに見つかる前に、走って逃げるようにしていた。


「ははあぁぁぁ……もう逃げ回るの疲れちゃった……いっそのことこの町ごと赤珠の力で焼き払っちゃおうかな(笑)」


「こら! 舞美!」東城彦一郎が戒めた。


「ははっごめんなさい、冗談です……」


「冗談でも言っていい事ではないぞ舞美!」そう言う彦一郎は本気で怒っていたが舞美は「はい、はい、御免なさい!」と軽く返事を返してその裏で舌を出した。


 学校が終りいつも通る道を曲がると何匹もの悪霊もどきがボールのように固まって蠢いているものが転がっていた。(うわっ気持ち悪い!)と思いつつ避けて知らんぷりしていこうと思っているとボールの中から何かのうめき声が聞こえてきた。(人? いや動物、犬、子犬の声だ……子犬が食われている?)舞美は、躊躇せず纏った。

「青纏」「浄化の鞭!」

 瞬く間に変身を終えた舞美は、浄化の鞭で悪霊もどきが蠢く塊をしばいた。

「あっちいけ、あっちいけ! しっしっ!」

 悪霊もどきは、浄化の鞭の力で浄化され泡のように消えていった、そして中心には白色に輝く球が残った。(犬じゃなかったんだ、よかった)と思いつつ球を見た。(何かの魂? 今にも消えそう……)その輝きは弱々しいものであったが舞美が優しく手の平で包み込むように触るとほのかに温かった。

舞美は、以前、瀕死の魂を治癒したことを思い出しその白く光る玉を腕輪をはめている右手に乗せてみた。すると弱々しかった光が『ポポォ』っと輝きを取り戻した。そして舞美の頭上にふわふわっと舞上がりクルクルクルと跳ね始めた、まるで喜びを表現しているかのようであった。

 その輝く白い球を見て又二郎が語った。


「ほほう、珍しや。こ奴は獣魂じゃ久しぶりにみたのぉ」


「獣魂?」


「獣魂、すなわち獣の魂じゃ。獣は、普通命尽きると魂が現世に残ることなく、跡形もなく消えてしまう。しかし、ごく稀に現世に残ることがあるのじゃ。こ奴に邪気は感じられん、おそらく命ある時に余程未練残ることが現世にあったのじゃろう」


 舞美は、その白い球を愛おしくなでながら


「お前は自由だよ、どこにでも好きなところにお行き」


 と言いながら空に返し帰路に着いた、しか憑いてきたしそれは舞美の傍を離れようとはせず

ふわふわと漂いながら舞美の後を憑いてきた。


「邪気はないとはいえ……憑いてくるよ……困ったなぁ」

 

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