第7話 舞美の怒り
そう思った瞬間!
『舞美!』とオジイの叫び声に振り向くより先に劔を垂直に立て、盾にして防御の行動に出た。
(普通身の危険を感じれば視覚で確認しようとするが舞美は視覚より先に体が動いた)
すると暗闇の奥からブンブンと大きな音を鳴らしながら無数の何かが飛んできた。
一撃目は、劔を盾にしてはじき返した。そして何が飛んできているのか、纏っている舞美には暗闇でもはっきり見えていた。それは、遠く離れた鎮守の守にある大木から伸びる枝の鞭だった。離れた所から何本もの鞭が舞美を執拗に攻撃して来る。これでは悪霊本体の大木がある鎮守の守に近づけない。
『どうする?』
舞美は、ここで大木の攻撃をかわしながらある事に気が付いた。御霊達の歩き方が皆、片方の足を引きずっているのだった。その引きずっている片方の足首に何かが巻き付いている、よく見ると病院の地面から紐のようなものが無数に生え出てていて、み魂の足に巻き付いている、更によく見るとこの紐のような物は木の根だった。離れた大木から木の根が御霊達をここ(病院)に縛りつけ、更にこの根から御霊の気を吸い取り自分の養分にしていたのだった。
「舞美! 鞭に気をつけなされ、この鞭に捕まれば御霊のように力を喰われますぞ!」
衰えることなく何本もの無数の鞭が容赦なく四方八方から攻撃してくる! 鎮守の守に近づくどころか避ける事だけで精いっぱいの舞美。その時、頭の中に虎五郎の声が聞こえた。
(舞美、儂を使え!)
舞美は、考える間もなく
「赤纏!(せきてん)」
と唱え瞬時に焔の千早を身に纏った。
すると悪霊が放つ鞭の動きが遅くなり簡単に避けられるようになった。実際は、鞭の動きが遅くなった訳ではなく、赤珠の力で動ける速度が格段に上がったからである。
『いける! 鞭の動きが見える!』そう思った舞美は、鞭を切り裂きながら、大木の懐に潜り込み劔を突き立てた。
すると大木から『グワッ!』っと叫び声が上がり太い幹の部分がバックりと割れ、そこからどす黒い煙のようなものが立ち昇ってきた。その煙が次第に人のような、獣のような異様で巨大な者に変化していった。
「これが悪霊の正体……くっっ!」
その姿を目の当たりにした舞美に怒りの感情が沸きあがってきた。亡くなった人の魂を……亡くなってまで苦しく悲しい思いを……させるなんて絶対に許せない! 舞美の怒りが纏いに増長されまばゆく光り輝く!
「おおおおぉぉぉぉ!」
気合とともに舞美の劔が、真っ赤な焔に包まれ一太刀振り上げれば一つの火焔の竜となり、二太刀振り上げると無数の火焔竜が現れ舞美を守るように囲む。
大木は舞美の正面と後方から数えきれないほどの無数の鞭で、舞美を一斉に攻撃し始めた。しかし舞美は落ち着き払い、釼先をゆっくり下ろし一旦下段の構えを取った。そして再びゆっくりと釼先を頭上高く掲げる、すると火焔の竜が舞美の周に激しく焔の渦を巻き、一瞬にして鞭を焼き尽くした。そして劔を顔の横に構え、雄たけびを上げながら大木の一番太い幹の部分に突っ込んでいく!
「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『グサッ‼ バキッバキッバキッ‼』っと鈍い音を立てながら火焔の劔を大木の懐に深く突き立てた!
「ギヤァァァァッ!」
突き立てたと同時に真っ赤で巨大な焔に包まれた大木の悲鳴が上がる! さらに追い打ちをかけるように、火焔の竜がどす黒い悪霊に絡みつき燃やし尽くす。もがいても消えない真っ赤な火焔の竜、ここで舞美は、さらにえぐるように劔を深く深く突き立てた!
「えやあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ギヤァァァァァァァァァァァァァッ!」
悪霊は更に大きな断末魔をあげながら、真っ赤な炎に焼き尽くされ消えていった。あたりに静寂が訪れる、その中を無数の光の泡が空へ登っていく
(ありがとう……)
(舞美、ありがとう……)
(ありがとうございました……)
(舞美ちゃんありがとう……)
(舞美さん、ありがとう……)
大木に囚われていた御霊たちが解放され空へ登っていく。舞美への感謝の言葉が沢山聞こえてきた。皆が光輝きながら朝焼けの空に昇っていくのを見ていると何故だか涙が出て止まらなかった。
そして舞美は朝焼けの中、光の粒が昇っていくのをしばらく見上げて佇んでいた
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