第3話 古の神守 東城家に生まれし「清い力」を持つ乙女

 「まずお主にこのような目に合わせてしまい申し訳ないと詫びなければならぬ。しかしどうしても儂らは、お主と……舞美と話をしなければならなかったのじゃ」

オジイ達は虎五郎に合わせて頭を下げ、詫びの姿勢をとった。そしてしばらくの沈黙の後、頭を上げ話の続きを始めた。


 舞美、お主は聞いた事がないじゃろうか……。東城家は儂らの時代、そう、現世からすれば遥か昔の事。東条家は神守、すなわち神に仕える事を生業にしておった。神に仕える者として神が御座す処を清めるばかりではなく、民に降りかかる災いを祓い、そして時には悪霊をも祓い常にこれと対峙してきた。しかし我等人の命は短い。そこで3代目当主、東城右近が編み出した自らの魂を守護の珠に変える術『御魂の術』によりそれぞれの属性を得た珠となり、神に仕える者として東条家に代々受け継がれていくようになったのじゃ。しかし『五珠の力』を得て強力な祓い清める力を授かった9代目当主、東城勘九郎の事を良く思わぬみやづかさ(宮司)や呪術師、他の神守達が異議を申し立て始めた。そしてある時、九代目が祓うべき悪霊を其奴らからの妨害によって取り逃がし、そのせいで村人が何人も犠牲になってしまった。東城勘九郎はその事で酷く咎められ、挙げ句に『御魂の術』は禁忌とされ東城家は神守の生業を追放されてしまった。


 そこからじゃ、東城家が神守を追放されたと知った悪霊のみならず、みやづかさ(宮司)や寺坊主、呪い師までもが儂ら『五珠の力』を我物にしようと九代目を執拗に襲って来た。特に悪霊どもは時と場所を選らばず、あらゆる手段を用いて襲って来る。

 ついに勘九郎1人での攻防にも限界が訪れ儂らは、みやづかさ(宮司)共の手に堕ち、封じの壺に囚われてしまった。しかしその後、一瞬の隙を突いた九代目は、みやづかさ(宮司)らをたばかり、捕らわれた儂ら五人が封じられた壺を壊し五珠を取り返すことが出来た。そして追ってを振り切りたどり着いたのがここ、榊の村、現世の榊市じゃった。そしてこの地に九代目が強力な神隠しの結界を張り、我等はそこで安らかな眠りにつくことができておった。


 ところが長い年月が経ったある時、眠っていた儂らの封印が易々と解かれ、何処からか現れた若者が儂らの『五珠の力』を纏ったのじゃ。 儂等を纏った若者の前に現れたのは醜い鬼。そう、それは我ら神に仕える者が長年対峙して来た憎っくき鬼じゃった。その邪悪な術と力は凄まじく、みやづかさ(宮司)達も彼奴らには手を焼いていた。この鬼は儂らの『五珠の力』を我が物にしようとこの地に来たのであろう。

 しかし儂等を纏った若者は強かった。邪悪な鬼の術も怪力も物ともせず、軽く退け強力な術と剱でいとも簡単に祓ってしまった。そして戦いが終わり纏いを解いたその若者が儂らに語った」


『五珠の御魂達よ。今から幾年か先、遠く東の方角から恐ろしく強大で凶悪な力を持った者が日ノ本の國を我が物にせんとするが如く現れる。しかし神に仕えるみやづかさ(宮司)達によってその者は打ち倒されるであろう。しかしその幾百年後、彼奴は兇悪な力を得て再び復活する。五珠の御魂達よ、その者が復活する前に何れ東城家に生まれ出づ『清い力』を持った乙女に『五珠の力』を授けるのです。『清い力』を持ったその者であればその悪しき者をあるい祓う事が出来るかもしれぬ』


 そこまでの話が終わると舞美が不思議そうにオジイに問い質した。

「その若者は、誰だったの?」

「儂らにも分らんのじゃ。『五珠の力』を纏うことが出来るという事は、東城家の血を引く者であるのは確かじゃが……若者はそう言い残した後、名乗りもせず忽然と消えたのだ」


「儂らは、その若者が伝えた『清い力』を持つ乙女が東城家に生まれ出づる幾百年を待つ為、榊の山深くに自ら守りの結界を張り再び深い眠りについたのだ」

そして次に言葉遣いか少々悪いオジイが語り始めた。

「しかしだなぁ『清い力』生れ出た気配に儂らは目覚め、お主を探し出したまではよかったが、時の流れか東城家に生まれし者、神守の力を使えるどころか儂らと話せる者すら居なくなってしまっていた。しかも東城家が神守を生業としていたことすら忘れ去られてしまっている。現にお前も知らなかったじゃろ?」

舞美は大きく頷いた(確かに父や祖父からもそういう話を聞いたことがなかった)

 「そこで困った儂達は、少々荒療治だったがバイクの男を使ってお前の魂と話せるように事故を仕向けたのだ!」


「私の祖先が神守、神に仕える者だったなんて……」

 知らされた現実に戸惑う舞美。しかし舞美は子どもの頃、不思議な事を幾度となく経験した事を思い出した。どこからともなく声が聞こえて危ない所を助けてもらっていた事を。


 舞美は、続けて虎五郎に問いかけた。

「私達に、日ノ本に迫っている強大で凶悪な者って誰の事?」

 「今はまだ分からん。しかしあの悪しき鬼を一瞬で祓った若者が儂らを纏っても祓えないと言う位だからのう、余程の力を持った者には違いない」

 

「舞美、儂らの力は『五珠の力』といい五人がそれぞれ異なる力を持っておる。一つ一つがとてつもなく大きな力じゃ。しかし、この『五珠の力』を現世で使うには、特別な霊体を持つ者以外、器を介さなければ神(しん)の力を出す事ができん。そこで舞美、お主に儂らの器になってもらいたい、そして五珠の力を纏い日ノ本を守って欲しい」

舞美は、まだオジイ達が言っている事が理解できなかった。

「器って何! 大体なんで私なの? そういう悪霊退治とか何かと戦うとかは男の子でしょ! 弟が……恭次郎がいるじゃない!」

 五人は顔を見合わせ一人のオジイが頭を掻きながら言い難そうに語った。

「恭次郎はなぁ……根性が足りんのでなぁ……あやつは……」

 さっき怒っていたオジイが言い放った。確かに恭次郎は、舞美と違い控えめでおとなしい男の子だった、魔物を見ただけでも気を失ってしまうかもしれない。

 虎五郎が続けて語る。

「お前自身まだ気づいておらぬようじゃが。舞美よ、お主こそがあの若者が言っていた東条家に生まれし『清い力』を持つ乙女じゃ」

「私が?……『清い力』を持つ乙女?」

「そう、清い力。この世のあらゆる悪を清め祓う力。この世の悪……邪悪、姦悪、醜悪、兇悪。そして人の心の奥底に潜む悪……妬み、辛み、恨み、憎しみ、これを清め祓う力」

「私に……私にそんな力があるの?」

舞美は、自分の両手を目の前にかざし手の平を見ながら呟いた。

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