第5話 ミーティング
「1年は初めてだからよく聞いておけよー」
マネージャーを兼務する宮本先輩の仕切りで箱根駅伝予選会に向けた最後のミーティングが始まった。
いよいよだ。この日の為に今まで過ごして来たと言っても過言ではない。俺はこの1年を思い出していた。
山津と一緒に参加した『東常経済大学陸上大会』は表向きは「高校生のうちに大学のレースを経験してみては?」というオープンキャンパス内のゆるい企画だったが、本来の目的は、目に留まる生徒がいれば他の大学に取られる前に確保するという、いわゆる青田買いだった。今時はどこの学校もやっている。
俺と山津は5000メートル走に出場し、2人とも15分台で走った。あとで知った事だが箱根駅伝の参加資格が「10000メートル34分台」だったので、大学側からすれば最低条件は満たした人材という事になる。もう一つのレースで結果を出した飯田と共に3人が内定をもらった。
俺と山津の内定を学校で聞いた時の斉藤の喜びようは凄かった。
「だから言った通りでしょ!」
と大はしゃぎだ。何を言ってたっけ?
斉藤は入学テストまでの期間、勉強を教えてくれた。俺はこの時だけは『速く走れる体に産んでくれてありがとう』と本気で親に感謝した。
入試が済むと俺は入学式前から駅伝部の練習に参加した。
山津は『熱烈なオファーだった』と言っていたが杉浦監督は寡黙な人で、「主役は君達なのだから責任も君達で」と練習内容などに口を挟む人ではなかった。誰でも入れたんじゃないか。
主将は4年の高野先輩。エースの3年広澤先輩は全国大会にも出場していて、ランキング30位以内に入っている。あと3年は宮本先輩と大柿先輩。2年が小柄な
しかし事件が起きた。エースの広澤先輩がクロスカントリーで練習中に木の根を踏んで足を捻ってしまった。
「俺は走れますよ。走らせてください。」
「将来がある君に無理はさせられません。」
「でも監督、俺らはこのために頑張ってきたんですよ。ここで走れなかったら、何のためにやってきたんですか。高野先輩に顔向けできません。」
監督と先輩のそんなやりとりを俺たちは見ているしかなかった。しかし監督は意志を曲げなかった。
予選会は12人まで走る事ができる。そのうちの上位10名の記録で勝敗が決まることになっていた。
俺たちの登録選手は11人。持ちタイムは広澤先輩が1時間を切り、他の9人は平均で1時間4分前後。前回大会の成績に当てはめると順調に行けば予選会の上位で通過出来るはずだった。
しかし広澤先輩が出られないとなると11人目から10人目になった大柿先輩のタイムが重要になる。大柿先輩のタイムは広澤先輩の持ちタイムより15分も遅かった。全員が自己新記録を出しても当落線上という戦いに変わった。
「四ツ谷、おい四ツ谷!」
宮本先輩の声で我に返る。
「今回は各校が5人ずつ2列に横に並ぶんだ。お前はインコースとアウトコース、どっちがいい?」
少し考えて「インでお願いします。」と答えた。
少しでも距離は短い方がよい。
距離はハーフマラソン。コースは自衛隊の滑走路を3周し、市街地へ、最後の7キロは公園内を走る。
それから荷物の置き場や給水ポイントなどが確認された。
「よし!じゃあ解散だ。明日は現地集合だ。みんな頼むぞ。」
高野主将の一言でミーティングは終了した。
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