第4話 援軍

 熱く語る山津の後ろから急に人影が飛び込んで来た。


「ね!ね!今、聞こえたんだけど、四ツ谷君と山津君って、箱根駅伝を目指すの?」


 セーラー服の上に薄いコートを羽織りながら斉藤が山津と俺の間に入って来て椅子に座った。急に俺の体温が上がる。


「えー!私、小さい頃からずっと箱根駅伝を見てきたんだよ。知り合いが出たら絶対応援するし、自慢しちゃうよ!」


「だろー!応援してくれるよな?俺は箱根を目指すつもりなんだけどコイツがさ…」


 山津が俺に向かって顎を突き出す。


「えー!四ツ谷君は目指さないの?」


 髪の毛を耳にかけながら斉藤が俺の顔を覗き込む。距離が近いんだよな。


「だって元々走るのは高校までって決めてたし。」


 思わず口から出た。まぁ嘘ではないが。考えてみれば斉藤に限らず、女子としゃべるのは久しぶりだ。今までは授業と練習の往復で、空いた時間は漫画と向き合うオタク気質丸出しだった。


 えー!勿体無いなぁと斉藤が口を尖らせる。斉藤からも説得してくれよと山津が援軍を頼んだ。


「いい?四ツ谷君。箱根はね、誰でも走れるわけじゃないんだよ。一握りの人しか走れないの。そのチャンスがあるのにさ、走らないの勿体無くない?」


 説得するのが使命のように斉藤が言う。


「あのな、だいたい大学だってトライアルを受けて受からないといけないんだぜ。無理だろ。」


「そんな事ない。対抗駅伝の四ツ谷君、凄かったもの。トライアルだって受かるよ。」


 斉藤がにじり寄ってくる。耳の上からドキドキが聞こえる。周りにも聞こえているのではないか。


「私、絶対応援しちゃう!勿体無いよ、ねぇ!」


 斉藤が俺の膝の上に手を置き、揺さぶる。ちょっと耐えきれない。


「わかった!」


 思わず言ってしまった。


「い…、行くよ。」


 えー!本当?やったー!絶対応援しちゃう!と喜んでいる斎藤の後ろの窓ガラスには、背中を向けていた山津のニヤついた顔が写っていた。


 山津にしてやられたな。ため息をつきながら窓から見える鰯雲を眺める。スチール性の手摺には数匹の赤トンボが留まっていた。

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