38. デート(実践)
「────面白かったぁぁっ!!」
映画が終わった瞬間、
このまま立ち上がって拍手をしそうな勢いだ。
「そうだね、面白かった。息をつかせぬテンポの早さで、見所も多かったね」
「ですよね! 子供向けの側面があるシリーズだからこそですけど、あれだけハラハラする展開を詰め込めるのはこのシリーズならではですよね」
「アニメならではのブッ飛んだ展開とかね。飛行機の上でのバトルなんて、現実的に考えたらツッコミどころしかないけど」
「そこがアニメの良さですよ! 実写作品は実写作品の良い所がありますけど、映像
スクリーンを出て歩きながら、乾さんは興奮冷めやらぬ様子で
こういうアニメ談義は結衣里相手に慣れているが、彼女の熱量は結衣里にも劣らぬ相当なもののようで、さすがの司も
「あ……もしかしてボク、テンション高すぎました?」
「あはは、今さら気にしなくても。良いことだよ、誰にも負けない好きなものがあるってのは。語らせたら何時間でも喋り続ける奴は身近に結構いるし」
ふと我に帰って気を遣い始める乾さんに、司は問題ないよと笑って首を振った。
結衣里は言わずもがな、忠治だってこの手のことはいくらでも語りまくってくれる。
一緒に聴いているヒカルのうんざりした顔が思い浮かぶようだ。
司としては、自分ではそこまで深くのめり込むことができないと自覚しているだけに、少し羨ましくもある。
「例の、ライバルなアイツの真相とか……アレ、今までにも仄めかされてたんだっけ?」
「あ、はい。公然の秘密みたいなものだと思ってたんですけど、まさかこういうカタチで言及してくるなんて!」
司が続きを促すと、乾さんは再び語り始める。
熱く語る乾さんの横顔はキラキラしていて、ボーイッシュながらも可愛らしい彼女の魅力をさらに引き立てているように感じられた。
結衣里と遊ぶときもそうだが、男女というよりもむしろ友達同士で遊んでいるような気軽さがあって、一緒にいる時間がとても楽しく思える。
デートとは相手の好きなもの、喜ぶことを探して楽しむもの。
結衣里との練習の成果が、さっそく実践されている。
ただ乾さんの生き生きした様子を見て、つい「結衣里と気が合いそうだなぁ」などと思ってしまうのは、もはや司の
我ながらどうしようもない兄バカだなと、心の中で苦笑するばかりだ。
「…………ん?」
「え? どうかしましたか先輩」
映画館を出たところで、ふと何かを感じた司が立ち止まった。
「ああ、いや……何でもないよ」
「?」
「それより、これからどうしよう。ここですぐに解散ってのも寂しいし、何処かに寄っていく? 喫茶店とか。いや、値段的にはフードコートの方がいいか」
「あ…………えと、その、はい……」
司の言葉に、さっきまでの饒舌さはすっかり鳴りを潜めて、顔を赤らめてしおらしく俯く乾さん。
「…………行こうか」
「……はい」
急にデートらしい雰囲気になり始めた二人は、どちらからともなくおずおずと歩き始めた。
◇ ◇ ◇
「────ねえ、あれ……ホントにデートっぽい?」
「ですよね…………」
司たちから少し離れた所で、二人の少女がひそひそと声を潜めて話し込む。
誰あろう、結衣里と四乃葉だ。
「お兄ちゃん、ホントに女の子を誘ったんだ…………」
「もう。せっかく、結衣里ちゃんの目が届かない学校では女の子に手を出せないようにしたのに。司くんがこんなにフットワーク軽いなんて」
二人そろって、はぁ、と深いため息をつく。
「なんか、あの子の同じ学校の子同士のケンカを仲裁して助けたって言ってました。…………そういうとこは、お兄ちゃんらしいかな」
「結衣里ちゃん、ちょっと誇らしげだね。まったく、そういうカッコいいとこ見せるのは結衣里ちゃんの前だけにしておかないとなのに、司くんってば」
「あれでお兄ちゃん、お人好しですから。一人ぼっちで辛い目に遭ってる人は、見逃せないんだと思います。四乃葉さんの時もですけど、わたしの時だって……そうでしたから」
「いやだって、結衣里ちゃんは妹だし…………ああもう! 司くんのバカ!」
四乃葉は不服そうな様子で吐き捨てる。
「移動するみたい。行こ、結衣里ちゃん!」
「え?」
「
「それは…………」
少し
「行かないなら、私だけでも尾行するから」
「わ、わたしも行きますっ……!」
四乃葉が先行し、司たちを見失いそうになったところで、あわてて結衣里も兄たちを追いかけ始めた。
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