20. 余計なこと
「────うーん、やっぱりあんまり変わらないみたいだね」
巫女服姿の羽畑さんが、手に持ったお祓い用の
「そうか……まあ、そう簡単にはいかないか」
「私もしがない神社の娘だし……むしろこないだ効いたのが『なんで?』って感じだもの」
「それもそうか」
数日前に引き続き羽畑さんの実家、舞月神社でお祓いの儀式をしてもらったのだが、結衣里の身体に変化が起きる様子はなかった。
前回とは違い、なにやら小難しい
「そもそも前回も、ダメ元で試した『おまじない』程度のお祓いだったからなぁ……役に立てなくてごめんね」
「いやいや、試してみて『効かなかった』っていうのも立派な一つの検証結果だよ。こういうのは試行回数がモノを言うんだ」
「お兄ちゃん? 人を実験用のモルモットみたいに言わないでほしいんだけど」
結衣里が不満そうに口を尖らせるが、悪魔化なんていう前例も何もない現象ゆえに、対処方法も手探りしていかなければならないのは仕方のないことだろう。
実験という表現もあながち間違いではない。
場合によっては研究施設に拉致されて、本当にモルモットにされてもおかしくはないのだ。
もしそうなったら、どんな手段を使ってでも取り戻しに行くつもりだが。
「……でも、やっぱり親御さんには相談するべきだと思うな。大事な娘さんのことだもの、心配こそしても、気味悪がったりはしないと思うよ?」
羽畑さんが、至極真っ当な意見を述べる。
未だに両親にはこのことを打ち明けられていないのだ。
父さんは単身赴任中で直接会うことができないから仕方ないにせよ、同じ家で暮らす母さんにまで話していないのはさすがにどうなのだろうとは、司も思っていた。
「それは……そうなんですけど……」
「…………ふむ」
だが、その話をするたび結衣里は渋い顔をする。
それは、単に心配をかけたくないといった遠慮や、受け入れられないことへの不安とはまた違った感情が込められた表情に見える。
「ま、結衣里が話したくなったらでいいさ。相談したところで、何ができるってわけでもないだろうし」
「…………うん…………」
司は努めて何でもないことのように軽い調子でそう言った。
結衣里がそんな顔をして躊躇っている以上、それを押してまで打ち明けるという選択肢は司には無い。
「ご、ごめんね? 家族のことなのに、出しゃばっちゃって」
「い、いえ、いいんです。というか! わ、わたし、ちょっとこの神社を見て回りたいなぁ! 隅々まで探したら、なんか効きそうなパワースポットとかあるかも!?」
結衣里は誤魔化すように急に明るい口調で、何やらまくし立てるように喋りだした。
「そうか? なら俺も……」
「お兄ちゃんは来なくていいからっ! あ〜、なんかたまには一人で散歩するのも悪くない気分かもー。……ってことで羽畑さん、お兄ちゃんをよろしくお願いしますっ! 二人でお話ししてて!!」
明らかな棒読みのセリフとともに、そそくさと飛び出していった結衣里。
「……えっと……」
「……あいつめ」
戸惑ったように
突然訪れた微妙な空気に、司は思わずため息をついた。
「ごめんね羽畑さん。あいつ、何かと一人で暴走しがちなんだよ」
「う、うん……私、追いかけた方がいいのかな?」
「いや、どうだろう」
結衣里の意図は分かる。
要は、お祓い
昼間の司たちの会話を聞いていた羽畑さんも
「ったく。気付いてるっぽいから言うけど、あいつ、俺を羽畑さんとくっつけたがってるっぽいんだよね。俺としては貴重な相談相手と微妙な空気になりたくないから、そんなつもりは全く無かったんだけど。気に障ったなら謝るよ」
「あ、あはは……お兄ちゃん想いの、良い妹さんだね……」
引きつった笑いを浮かべながら、羽畑さんが答えた。
女の子の機微など司には分からないが、引き気味な愛想笑いを見ればさすがに脈無しだと分かる。
そのつもりは無くてもやはり傷付きはするもので、余計なことをしてくれたなと、司は結衣里を問い詰めたくなった。
何とも言えない空気が漂う中、どうにか会話の糸口を探る司たち。
と、そこに────
「────あれ、
「っ!?」
部屋の外から誰かの声がした。
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