Ex.2. 添い寝
「……もう寝ちゃった。まったくもぉ、早いんだから」
ベッドの下に敷かれた結衣里の布団で眠る兄の寝顔を見て、結衣里は小さく悪態をつく。
ここは、お兄ちゃんの部屋。
たぶんこの世で一番親しい人の場所だけに、この場所で寝ること自体に目新しさはあるものの緊張や不安はない。
あるのは、お兄ちゃんがすぐ近くにいることの安心感と、少しのそわそわだけだ。
部屋が違うだけなのに、どうしてこんなにそわそわするのだろう。
きっと包まれているこの布団が、自分のものではないことと無関係ではないだろう。
「お兄ちゃんの匂い、する」
結衣里を安心させてくれる、大好きな匂いだった。
お母さんの匂いも包まれるような安心感があるけれど、司の匂いはそれとはまた違った意味で安心するものがある。
あの日、濁流に飲み込まれそうな結衣里を必死で抱き留めてくれたお兄ちゃん。
あの光景はとても怖くて、今でも思い出すたびに震えてしまうけれど、同時にお兄ちゃんが命がけで結衣里を守ってくれた大切な思い出でもある。
この人のためなら、人生のすべてを捧げても良いと思えるくらいには。
(って、兄妹でこれは重すぎる気持ちだってことは分かってるけど)
司も男の子だ。
いつかは好きな人ができて、結衣里にばかり構ってくれなくなる時が来ることも、結衣里には分かっている。
兄妹で結婚できるわけでもなし、いずれ一緒に暮らせなくなる日がやって来る。
そうなったら悲しいし、嫉妬心も湧くけれども、お兄ちゃんが幸せなら素直に喜びたいと思う。
こういう気持ちは、世の親兄弟ならば大小なりとも
(でも、今だけは……いいよね?)
結衣里はベッドを降りて、すやすやと寝息を立てている兄の隣に潜り込む。
寝つきが早く、眠りも深いのが司だ。
一度眠ればそう簡単には起きない。
今はまだ司にも恋人や好きな相手はいない、と思う。
そうでなければ、いくら妹とはいえこうして同じ部屋で寝ることを、許してくれたりはしないだろうから。
いつか彼に、結衣里以上に大切なものができて、この想いが淡雪のように溶け消えるその日まで。
(おやすみ……お兄ちゃん)
昨日司がしてくれたように、そっと彼の頭を撫でると、結衣里はほうっと吐息とともに熱くなった体温を逃がして、静かに
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