第4話 私と身体

夜は、どうしても気持ちが昂ってしまう。

――人肌が、恋しくなってしまう。


「誰かに、連絡しようかな……」


スマホの連絡先の画面を立ち上げては、やっぱり消すことを何度も繰り返す。


でも、私は同じ人と何度も会うのはあまり好きじゃない。


いつもは相手から次の約束をされたとしても私の方から離れていくし、それを無視してそれっきりにすることばかり。


会う相手も、そのことをある程度察してくれてる風でもある。

私は私で、察してくれてるだろう、というのを前提にしている。


寂しくなった時だけの関係。

それが、男であっても、女であっても。


私にとっては、同じだ。


追いかけられると、どうしてなのか分からないけど冷めてしまう。

身体以外のことを求められると、なんだか煩わしく思ってしまう。


きっと普通は逆なんだと思う。


でも私は、身体だけは私を求めてほしいと思ってしまう。

求められている瞬間は、私は男だということを、ほんの少しだけ忘れさせてくれるから。


綺麗だと言ってほしい。

美人だと、そう言ってほしい。

私の劣等感が、コンプレックスが、満たされるから。


『あの場所』に行けば――『あの場所』の人たちは、刹那の関係というのを、よく分かってる気がする。

しつこく追いかけてこないし、電話番号を聞き出そうともしない。

ああいうことは、閉ざされた特殊な空間だからこそできることなんだ。

みんなが暗黙のルールを守るからこそ、お互いが安心できる。

それを、外の空間でも求めることに対しては、やっぱり私は嫌だと思ってしまう。


『あの場所』の外にいる現実の私は、誰にも本当の意味で向き合えないまま、ただ虚勢を張って生きている気がする。


――きっと、あの空間の外にいる現実の私は、私自身を受け入れられていないんだ。


だから、生身の私と他人が何かの関係を築くことを、それによって拒絶されることを、恐れているのかもしれない。


だって――私はずっと、拒絶され続けてきたから。


私は、私のままでいいんだと、思えない日々が続いたから。


周りと違う自分に戸惑っても、大人は誰も理解してくれなかった。


自分を押し殺しているしかなかった。


でも、それにも限界があって――


自分を表現したいと思うようになり、でもそれも周りからは馬鹿にされて。


どれだけ、違う性別に生まれたかっただろうか。


こんな体で、こんな顔で生まれなければ、どれだけよかっただろうか。


それでも私は、現実の私と折り合いをつけながら、もがきながら生きている。


「――こんなに嫌な思いをしてるのに、欲だけはいっちょ前か。はは……」



時計を見ると、まだギリギリで『あの場所』が開いてるのが分かった。


少し派手めの露出の高い服をバッグに入れて、家を出た。


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