『夜の魔王と不眠姫』

@Nantouka

1

今よりもずっと昔の話

世界には昼しかありませんでした

太陽による豊かな恩恵が永遠に食べ物を育み、

人々は毎日、毎日、お祭り騒ぎです、

ある所に一人のお姫様が居ました。

そのお姫様はとても耳が良く、外で騒ぐ人の音が煩わしくて毎日が眠れません

王様はそんな姫に高塔を与え、そこに住まわせました

しかし、人は飲めや歌えの大騒ぎ、数が増え続ける一方です

そして高塔はぐんぐんと高く、高くなっていきました

ぐんぐんと高くなった高塔で姫はある時、気づきました

王国が既に滅んでいる事を、

姫はたまったものじゃありません

人が増え続けるばかりなのに、遠ざける高塔はこれ以上高くならないのです

姫は意を決して、高塔から外の世界に出ました

眠れない姫は年を取りません。

だから耳が冴え、手で塞いでも、増え続ける人の音が頭をトンカチで殴ってくるのです

不眠姫はさっさと人々から離れたく、そそくさと森の方に駆け込みました

よう

耳を抑えても不眠姫には聞こえました。声がしたのです

よう、お前、昼は嫌いか

不眠姫は頷きました。音が頭に響いて痛かったのです。どうでもよかったのです

そうか、俺も嫌いだ

すると影が姫の前にひらりと回ると、黒いマントに身を包んだ悪魔が現れました

不眠姫は殺されると思いました。

でもどうでもいい事です、ずっと眠れていないのだから

すると悪魔は黒いマントを両手で広げ、姫を包みました

不眠姫はぎゅっと目を閉じています。

ふと不眠姫は気づきました。音が全く聞こえないのです

悪魔は黒いマントで不眠姫を包みながら言います

俺は夜の魔王だ。

人々が喜ぶから昼の世界を放っておいたが、少々数が増え過ぎた。

音が俺の耳まで届いて、不愉快極まりない

お前はどうだ

夜の魔王がマントの中の不眠姫に聞きます。

不眠姫は答えません、何故なら涙があふれ、そして小さな口でひっく、ひっくと

嗚咽しながら、生まれて初めての静寂と安堵感に包まれていたからです

夜の魔王はマントの中の姫を不憫に思いました

そして、マントで姫を包み込んであげると、ばっと両手を広げました

マントに包まれた不眠姫は身を縮めて横になりました。

その小さな胸が上下に穏やかに動いています

夜の魔王は空に両手を掲げると太陽に向かって言いました

これより、此処からは夜とする

その瞬間世界が真っ暗に染まりました。

起きて騒いでいる人や動物はその場で死に絶え、

寝ているモノや、静かなモノには静寂と安寧を与え、

人々の数は半分になりました

夜の魔王はほくそ笑むと不眠姫を包んだマントと共にどこかへ消えていきました

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