第50話

『達人の自室にて』

 

 俺がログアウトすると夕日はすっかり沈んでおり、代わりに大きな月が月光を輝かせながら闇夜を照らしていた。


「闇ドル…」


 俺がその眩い月光を見ては、いつも明るく輝いていた彼女闇ドルの様な存在だなぁと思っては眺めていた。その時だった。


 ブー! ブー! ブー!


 突然、机上に置いていた携帯がバイブレーションと共に揺れ始めた。


 時間は20時を過ぎていた…。


「こんな時間に誰だろうな…」


 俺はそう思いながら、携帯に手を伸ばした。


 すると。


「武田さん?」


 電話主は女優兼モデルの浜辺武田さんからだった。


「(なんのようだろう…)はい。もしもし…?」


「達人殿!いや!伝説のプレイヤーNEET駅前殿! 貴殿の活躍、実に見事でしたぞ!!」


「ありがとう武田さん。それで、要件は?」


 俺は有名人と、リアルタイムで電話をしているというのにも関わらずあまり気分が乗らなかった。まぁ理由なら自分でも分かっている。


 そうだ…。闇ドルの事が気になって仕方がなかったからだ。


 どうやら俺は…彼女闇ドルの事がいつのまにか"好き"になってしまっていたらしい。


 俺はこの時、初めて自分の気持ちに気が付いたのだ。


 そして、俺の冷徹な言動に武田さんが取り乱す。


「ちょ!達人君!? そんな風に冷たくあしらわないでよ〜!?」


「あれ? いつもの口調は?」


「え? あっ!いや! あっははは…。それはそうと!今日は達人殿に1つお願いがあって電話を掛けたんですよ!」


「え?俺に…お願い?」


「はい。率直に言いますと…達人殿に"直接会ってもらいたい女性"がいるんですが…。あっ。もちろん!その時は私も同席させて頂きます!その方が達人殿も少しは安心出来るかなと思いますので…」


 え?今なんて?…


 武田さんの突然の言葉に、俺の頭の中が一瞬真っ白になった。


「その…俺に会いたいっていう人は…武田さんのお仕事関連の方とかですか?」


「いえ。"芸能ネットワーク"というツールで知り合った方ですので、直接お仕事には関係してはいないのですが…。そうですね。何度かご飯に行ったくらいです…」


「なるほど。ありがとう。大体は把握出来た。だけど1つだけ気になる事がある。その人がどうして俺に会いたいと言っているのか…その動機だけが不明確過ぎる…」


 俺がそう言うと、武田さんが耳元で笑いながら言う。


「あぁ〜その事なら心配なさらずに〜。私同様、彼女も最近RNOを始めたばかりみたいで〜。しかも達人殿がPvPに出るほどの腕前だというお話しをしたら顔色を変えて「"是非会いたいです"!」と言ってましたから〜! 有名人は大変ですなぁ〜! いよっ!モテ男〜!」


「なるほどね。あと!言っとくけどモテ男じゃないから!」


「あははは〜!達人殿〜?そう謙遜しなくてもいいんですよ〜?」


「だから。モテないってば…」


「私的には〜。達人殿はありありのアリでしたよ〜?」


「武田さん?もしかして酔ってます?」


「えぇ〜? そんなことないですよ〜?」


「絶対飲んでるでしょ?」


「さぁ〜どっちでしょう〜」


 やっぱり、この人と話す時はどうも調子が狂ってしまうな。


 とまぁ。そんな感じで。俺達は明日の夜19時に3人で会う事が決まった。


 リアルで会うのは少し抵抗はあるけど武田さんがいるから大分マシな方なのかもな。


「では達人殿〜?今宵はゆっくり休まれてくださいね〜?」


「ありがと。武田さんもあまり飲み過ぎないようにね?」


「いえいえ〜。達人殿って見た目通りお優しいんですね…。ありがとうございます。ではまた…」


 そう言うと。武田さんは電話を切った。


 あっ、"芸能ネットワーク"という事はその人も芸能人なんだよな…。


 俺はこんな短期間で2人の芸能人とお知り合いになるという事を考えると、なんだか嘘のような感覚に陥ったのでとりあえず。思いっきり頬っぺたをつまんでみることにした。


「うん。ちゃんと痛い。夢じゃない。明日か…。とりあえず今日は飯食って風呂入って早めに寝るかな。あっ!そいえば母さんに今月の家賃渡さないとだったわ…。あの時カイルにカッコつけて150しか貰わなかったからな…バカだよなぁ〜俺って…」


 あれ…………。


 俺はPvPで結構疲れていたのか。結局ベッドに横になると、そのまま目を瞑っては眠りについてしまった…。


 to be continued…。



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