第46話

「なに。簡単なことさ。それは、俺の攻撃が詠唱スキルだけでは成り立っていないと言うことだよ」


 俺の言葉に対して、そこに居合わせた者全てが反応をすると、俺の隣にいたカイルが慌ただしく俺に迫ってきた。


「ねぇ引きニート?…貴方何言ってるの?バカなの? 詠唱スキルは普通、詠唱でしか行えないはずでしょ? そんな訳の分からないこといきなり言わないでちょうだい!」


「いや。一応マジで言ってるんだが…」


「そんなのチートじゃない!?普通ならありえないでしょ!?」


 ここで、ザルーザが立ち上がってはカイルに向かって言った。

 

「いや。確か前に一度だけ聞いたことがある。常人では決して達せないがプレイヤーがある特定のレベルまで達すると"単属性の技"としてではなく、"複属性の技"として扱えるようになると。そして、その"複属性の技"を使いこなしているプレイヤーが既にいると言うことも…まさか!?もしかして君が!?」


「だから。言ってるじゃないザルーザ。こいつはただの…あっ!痛いっ!痛いっ! だから髪は引っ張らないでってさっきも言ったでしょ!? 謝るから! ただの引きニートって言おうとしたことちゃんと謝るからっ!!」


 俺はまた調子に乗りそうだった彼女の髪を軽く引っ張っては、軽く痛めつけてやることにした。


 俺はカイルを懲らしめたのち、ザルーザの方に目をやると、ザルーザは少し呆れたような表情を浮かべていた。


 恐らくデジャブーとはこういうことを言うのだろう。まぁ。少し違うような気もするが、しっくりくるのでそのままの認知でいいだろう。


 と。ここでもう一度。ザルーザが俺に話しかけてくる。


「まさかだと思いたいが。ここまで情報が揃って来るとなると。その可能性の方が高いか…。引きなんたら君? 君があの…"伝説のプレイヤー"…"NEET駅前"なのかい?」


 俺は、頭に被っているローブの頭巾の部分だけを取り、姿を見せては彼に向けて言った。


「通りすがりのただのNEETさ…ザルーザよ」


 俺の言葉に食いついて来たのはまたしても彼女だった…。


「え!? あ、貴方ってやっぱり"伝説のプレイヤー"だったの!? さっきの人達が貴方のことをそんな風に呼んでいたから…半信半疑だったのだけど…」


「別に。伝説とかどうかは知らないけどさ。気づいたら周りが勝手にそうやって俺の事を呼んでいたってだけだよ」


「それで、あの強さなのね…うん。納得だわ。でも、やっぱり引きニートは生理的に無理かも! だって、幾ら伝説のプレイヤーって言ってもリアルでは、ただの引きニートには変わりはないわけだしぃ〜」


 こいつ…リアルだったら、マジでブレンバスターからの三角絞めをかましていたところだぞ!


 と…。俺が彼女の事を殺意の眼差しで見ていると、ザルーザが声を張り上げた。


「僕がここ最近ずっと優勝出来ていたのは、単に2人ハバネラ、伝説のプレイヤーが居なかったからそのおこぼれで優勝出来ていただけだと…。どうやら世間ではそう思われているらしい。でも僕は違うと思っている! 例え!相手が君だろうとハバネラさんだろうと!僕は対等に渡り合えると本気でそう思っているよ! さぁ! 真の最強とは果たしてどちらなのか!決着をつけようよ! カイルには悪いけど…一瞬で終わらせてもらうよ! 現れよ! 風龍・バルカン!! 雷龍・カタルボルグ!! 火龍・ズコック!! 水龍・リヴァイアサン!! 土龍・ジャバウォック!!」


 ザルーザの詠唱と共に5体の龍が突如姿を現した。


「さぁ!どうだ!NEET駅前!? これが僕の最大火力だ! さぁ!君の最大火力をこの僕にも見せてくれよ!」


「これが…ザルーザの本気。こんなに凄かったなんて…私知らなかった」


 俺の隣で彼女が小声で呟くと、一呼吸を置いてから俺に視線を向けた。


「ねぇ!引きニート? 何か手はあるの!? どうやらザルーザは本気で私達を潰しに来ているみたいよ!? あっ!今更だけど私を頼りにはしないでよね!? 私も強いって言われているみたいだけど、本気のザルーザの前では足元にも及ばないんだから…それに!」


「分かったから。少し黙ろうか?」


「え?…」


 俺は彼女にそう言うと、ザルーザの方へと視線を向けては静かに言った。


「ザルーザよ。確かにアンタは凄いよ。エクスカリバーもそうだけど、属性の違う龍を一度に5体も召喚するなんて簡単なことじゃあないしね…。だけど…所詮は"その程度"だよ。俺は愚かハバネラにも負けるかもね?」


「ふはははっ! この僕が2人に負けるって? どうしたよニート駅前? 目の前の光景に現実逃避でもしてしまったのかな?」


「引きニート…」


 俺は、心配そうに俺を見つめる彼女の肩へ手をやると耳元で静かに言った。


「確認だが。アンタとアイツは仲のいいチームなんだろ? 見たくないものを見る事になるかもしれないがそれでもいいのか?」


 彼女は肩を置かれた事に対して、「ビクッ」と一度だけ身震いをしたが、俺の方を見ると。


「ええ。構わないわ。それが今大会において私と彼が交わした約束だから。お互いに"本気"でやるってね!」


「それが聞けて安心だ。了解したよ…


 俺は後ろで「ぎゃーぎゃー」喚いている彼女を放置しては、静かに詠唱を唱えた。



森・羅・万・象シンラバンショウD10ドラグニスト・テン…」



 to be continued…。





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