第45話
俺達が痴話喧嘩を始めてからしばらくして、時の人が声を上げた。
「なぁ? とりあえず早いとこ始めないか? まぁ。どちらにせよ…俺達は君達と戦う事になるんだからさ。そうだろ?ザルーザさんよ?」
「うん。そうだね。それに彼女とは約束しているからね! お互いに手加減抜きで"本気"で戦おう…ってね! であれば。期待に応えてあげないとフェアじゃあないよね?」
そう言うと、ザルーザは腰に携えていた"剣のような物"を抜いた。
「ザルーザさんよ。幾ら本気だからって"ソイツ"も使うつもりかい?」
「うん。勿論だよ。じゃないと、本当の意味で本気ということにはならないからね!」
「ザルーザさんよ。俺。やっぱりアンタが味方で良かったわ」
「あはは…。まぁ。そう言うことだから、よろしくね? カイルと…えっと、引きなんたらさん?」
ザルーザに呼びかけられ、ザルーザの方を見たカイルが半泣きの瞼を擦りながら俺に細く小さな声で呟いた。
「あのザルーザが"聖剣エクスカリバー"を抜いてくれるなんて…」
「ん?"聖剣エクスカリバー"?それってなんだ?そんなに凄いのか?」
「え? ゲーム好きの引きニートのくせにそんなことも知らないの?」
「おい!ニートが皆んなゲーム好きって勝手に決めつけるなよ?」
「じゃあ。嫌いなの?」
「いや。どちらかといえば…と言うか。いや。俺は結構好きだな」
「貴方って他人から結構"面倒くさい人"ってよく言われない?」
「安心しろ。今まで周りに人が寄り付くこと自体皆無だった俺だから、そんなことを言われたことは一度もないぞ?」
「あー。もういいわ…とりあえず。一応、パートナーだから貴方にもザルーザの持つエクスカリバーについて教えておくわ」
「頼む」
俺がそう言うと、カイルは溜め息を吐く素振りをしたのち、ザルーザの方を見た。
「いいわね引きニート? あの"エクスカリバー"の前では詠唱スキルは"絶対"にやってはだめよ?」
「ん? どうしてだ?」
「どうしてって…まぁ。実際にやって見せた方が早いかもね」
彼女はそう言うと、ザルーザに向けて詠唱を唱え始めた。
「行くわよ!ザルーザ!
彼女の詠唱と共に、水で出来た精霊達がいっせいにザルーザの元へ飛んでいく。
「低級詠唱か…ならば! 時空の…!? ん?ザルーザさん?」
ザルーザの右隣にいた時の人がカイルの攻撃を確認したのち撃墜しようとしたのだが、それをザルーザが時の人の前に右腕を出しては止めるように指示を出した。
「時の人君…大丈夫だよ」
「分かったよ。ザルーザさんがそう言うんだったら、俺は近くで観戦しておく事にするよ」
そう言い残すと、時の人は自分で出現させた次元の狭間の中へと消えていった。
「カイル…?君には前に一度、僕に詠唱スキルが通用しないってことを教えていたはずだと思うんだけど…? ひょっとして、忘れていたのかな?」
ザルーザはそう言いながら、"聖剣エクスカリバー"を構えたのち縦に軽く振り下ろした。
すると…。
ザルーザのすぐ目元にまで来ていた水の精霊達が一瞬にしてカイルの所にまで戻されたのだ。
そして、その勢いから発生した衝撃がさらに形状を変え発生させた『目に見えない波動』=『衝撃波』が遅れて彼女を襲った。
「ぐっ!
彼女がギリギリに唱えた防御スキルによって衝撃波はすっかり消え去って行った。
やがて、片膝を付いた彼女が俺を見ては言った。
「どう?…引きニート? これが…ザルーザの最強にして唯一無二の
「なるほど。確かに厄介だな。詠唱が跳ね返されるのか。まぁ。でも…試す価値はありそうだな!
「でしょ? だからザルーザにはって!引きニート!? 私の話ちゃんと聞いてたの!? ザルーザに詠唱は…!」
彼女の言葉を無視して放った俺の攻撃は真っ直ぐにザルーザへと向かっていく。
「確か引きなんたら君って言ったかな? 悪いけど…僕に詠唱スキルは通用しな…がはっ!?…な、何故だ!? エクスカリバーが作動しないなんて!?」
軽く吐血し両膝を着いては慌てふためくザルーザを見た彼女が俺に問いただす。
「エクスカリバーが作動していない…なんでなの? ねぇ!引きニート! 貴方が何かしたんでしょ!?早く教えなさいよ!」
俺は少しだけ微笑むと、彼女の方を向いた。
「なに。簡単なことさ…」
to be continued…。
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