第36話

 俺と闇ドルはPvP専用エリアから、元いた通常エリアへと戻ってきた。


「……」


「NEETさん? どうかしましたか?」


「いや、なんでもないよ……」


 今、俺達がいる『アウエルの街』中央付近には巨大なスクリーンが設置してあるのだが、そこには、沢山のプレイヤー達によって何やら人だかりが出来ていた。


    

   ーーーーーーーーーーーーーーー



「そんな馬鹿な!? 相手は、あの悪名高きギルド、『卍DQNドキュン卍』のリーダー『フミヤ』だぞ!? 凄腕プレイヤーで名の通っていた、あのフミヤが一瞬で……」


「お、おい! 一体全体なんなんだよ! あの技は!……」


「あれは、このRNOで極限にまで極めたプレイヤーしか使う事が出来ないと言われている大技……その名も、Dドラグニスト!! 俺もD1ドラグニスト・ワンまで見たことはあるが、まさかD5ドラグニスト・ファイブがお目にかかれるとはな……」


Dドラグニストだって!? じゃあよ? さっき、PvPでフミヤと対戦してたのは『ザルーザ』さんか『カイル』さんだったってことか!?」


「あぁ。恐らくな……」



   ーーーーーーーーーーーーーー



 とりあえず俺達は、その人だかりを避ける様に近くにある宿屋に入っては、小休憩を取ることにした。


「わぁ〜! NEETさん! NEETさん! 見て下さいよぅ〜! ここの窓から見える景色、すっごく綺麗ですよ!」


 俺は部屋に入るなり、颯爽と窓辺の景色を眺めに行った彼女に呼び掛けられた。


 そこには、ゲーム内にも関わらず、とてもマイナスイオンを感じる程の爽快な景色が確かに広がっていた。


 その彼女は、俺の隣で無邪気に跳ねては、今も景色を楽しんでいる。


 と、ここで俺は、彼女に対してずっと気になっていた事を尋ねる事にした。


「ねぇ闇ドル?」


「?」


 彼女は右手で髪を掻き上げては、俺の方に向き直した。


「今日、元気がなさそうだけど、何かあった?」


「え?……」


「あっ、いや! 何もないなら別にいいんだ! ごめん! 今のは忘れて!」


 俺がそう言うと、彼女は軽く深呼吸をすると、無理に笑みを作っては、静かにお腹の前で両手を交差させ、そっとこちらを向いた。


 その瞬間、普段の陽気な彼女から感じとれる暖かい空気とは裏腹に、彼女から発せられた空気が俺の周囲を少しずつ凍てつかせていくのがはっきり感じとれた。


 それは、普段見ている彼女ではなく、まるで別人のようだった……。


「あはは……NEETさんって、超能力者か何かですか?」


「別に、そんなんじゃないよ……ただ、気になっただけだよ?」


「では……どうして、このでそんな言葉を私に掛けてくれたのですか? 」


「それは……き、君が苦しそうだったから……」


「私が? 苦しそう? あっははは!……」


「や、闇ドル?」


「私、NEETさんのことを少し誤解していました……。他人の事に詮索は入れない方だと勝手に自分で期待していたので……でも、もう大丈夫です! NEETさんも結局は、他の男性と同じなんだなって……ごめんなさい。今日は気分が優れないのでこのまま落ちます……。ここの宿代は私がインした時に払いますので、お気になさらずに……それでは失礼します」


「あ、闇ドっ……」


 ……。


 最悪だ……。


 のぞき見していたから気になったなんて死んでも言えない……。


 これ、ゲームだったらバッドエンドのシナリオを引いてしまったレベルかもな……。


 はぁ〜、こんな事ならあの時隠れてないで彼女に直接声を掛けるべきだった……。


 次、彼女に会ったらなんて言おう……やっぱり、先ず謝罪からだよな……。


 彼女がログアウトした後も、俺は、ただただ、その部屋に静かに立ち尽くしたままだった。


 やっぱり、は怖い……。


 俺の脳裏に過去に抱えていたトラウマが静かに過った……。



    ーーーーーーーーーーーー



 一方でその頃、闇ドルはログアウトした後、明かりもついていない暗い自室で1人、ひたすら泣き崩れていた。


「はぁ〜。私、なんであんな失礼なこと言ってしまったんだろ……。今の私って最低だよね……NEETさん……ごめんなさい!!……ごめんなさい!!!!……うぅ……あ〜ん!!!」


 何度止めようとも、彼女の両目からは大粒の涙が一つ、また一つと泉の様に滴り落ちていくのだった……。


「うわぁぁぁぁあぁあん!!! NEETさん……ごめんなさい!!……」


 to be continued……。









 

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