第33話

「あ、あの…大丈夫ですか?」


 心配な様子でこちらを見つめる彼女。


 俺は彼女の手を優しく掴んでは、硬直した身体を解くようにして言った。


「そんなに、気を遣わなくたって大丈夫だから!」


「しかし!親方様!…」

「誰が親方様だよ!誰が!」


 そして…。



    ーーーーーーーーーーーー



「さぁ!親方様! なんでもお好きなものを頼まれてつかあさい!」


「あ、うん。だから…親方様呼びはやめろって…」


 結局…俺は「お詫びをさせてつかあさい!」と中々諦めない彼女の押しに負けてしまった結果、俺の自宅から1時間くらい離れている市街地に位置する高級レストラン、ロイヤルロストへと行くこととなった。


 しかも。黒光りしているハイヤーの様な長い乗り物を彼女が手配してくれたので俺達はそれに乗って向かうこととなった。


 俺は生まれて初めてハイヤーという乗り物に乗った。まぁ、その道中はずっと硬直してまともに話せなかったのだが。彼女はそんな俺の姿を見て「可愛い」と声を漏らしてはジッと見つめていた。


 あれはマジでやめて欲しかった。女の子に至近距離で見つめられるというのはむず痒くなるものだ。


 そして、俺達がホテルに到着するや否や、ホテルの前には屈強のガードマンが数人程立っており、すでに入ろうとしていた人達は指紋認証なり色々と書類の手続きを長々と行っており大変そうに思えた。


 うわぁ…。面倒くさそうだな。


 しかし、驚く事に彼女は顔パスで入ることを許可された…。勿論、俺の事も合わせて通してくれているみたいだった。


 マジでどう言うこと!?…。


「ふん、ふふん〜♪」


 彼女は、俺にお詫びをする事がよほど嬉しいのか、入店するなりテーブル席に座るとハミングをしながらメニュー表を見始めた。


 しかし! 俺からしたら場違いの雰囲気が漂う空間に鎮座しているので、はっきり言ってあまり食欲が進まない!


 てか!この人一体どんな生活してるんだよ!? 顔パスってVIPの人達でも中々出来ないんじゃないのか?


 俺は自分の中で色んな気持ちが葛藤していたがとりあえず呼吸を整え、メニュー表を見ることにした…のだが。はっきり言ってどれも料金が高値だった。


 なんと言うか、どれも0ゼロが2つ多い気がする。


 ふぅ……。よし! えぇえい! キミに決めた!


 俺はしばらくメニュー表を眺め、頼みたいものがようやく決まったので、彼女の反応を見る為に彼女の方へと視線を向けると。彼女は頼みたいものが既に決まっていたらしく、俺の代わりに呼び出しボタンを押してくれた。


 あっ、決まってなかったの俺だけだったのね……。


 それから、俺の料理が運ばれてくると彼女が料理を見ては口を開いた。


「達人殿! オムライスがお好きか!?」


「あ、うん。好きだけど。達人殿って…」

 

「ふふん!  奇遇じゃな! 私も大好きじゃ!」


「そ。そうか…良かったな」


 やがて、彼女の所にも自分が頼んだオムライスが来るのだが……。


「食べることそれ即ち、いくさなのだぁあぁ〜!!」


 そう言いながら、俺の頼んだオムライスよりも一回り以上おっきなオムライスを彼女は1人でガッつき始めた。


「おいおい…マジかよ…」


 やがて、2人共食べ終わった所で、俺達は店を出ることにした。


 時刻は午後の3時を回っていた。


「あ。武田さん?今日はありがとね」


「と。とんでもないでござる! あ!拙者、今度の PvPは、『アウエルの街広場』にある『巨大スクリーン』で必ずみるきに!」


「うん。ありがとう!」


 帰り際、俺は彼女に「自分は電車で帰るから」と言ってハイヤーに乗ることを丁重にお断りすることにした。


 あの至近距離で見られるのは勘弁してもらいたいからな。


 すると、彼女は残念そうな表情を浮かべていたが、やがて微笑み出すと折り曲げてある小さな白い手紙を俺に渡しては迎えに来たハイヤーに乗ってそのまま去って行った。


 俺は電車の中でその白い手紙を開けてみることにした。


「あ!」


 開けてみると中には、彼女の連絡先らしいものが書かれていた……。


 う〜ん…。よしっ!


 俺は少し考えたが、結局その番号を自分の携帯へ登録することにした。


 俺の人生において初めて手に入れた女の子の連絡先……。


 俺は内心ニヤつきながらも家に帰り、とりあえず昼寝をすることにした。


 to be continued……。


 PvPまで残り5日……。

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