第32話

「ん……うん」


 闇ドルと別れた翌朝、俺は早朝に目が覚める。


「さてと……」


 少し意外かもしれないが、世間一般的にはゲーマーは普通なら遅くまで寝ていると思われがちだが、実はそうではないのだ。


 何故なら、常に最高のパフォーマンスを出しつづける為には『良質な睡眠』と『良質な食事』と『良質な運動』が最低限必要だからだ。


 別に、俺が好き好んでとかで取り入れているわけではない。


 既に、結果を出し続けている多くのプロゲーマーが実践しているのだ。


 それを代弁するかの如く、某有名プロゲーマーの方が、インタビュアーに勝ち続ける事に対して問われた時にこう言ったコメントを残している。



「秘訣なんてありませんよ。ただ、朝早く起きて夜は早く寝る。それから、毎朝必ず少し運動をする。ですかね?」



 俺もこの言葉が好きだ。


 だから朝は、決まって軽く運動を取り入れるようにしている。


 今日は軽くランニングにでも行くか……。


 いつもは、軽い腕立て伏せを50回くらいやるのだが、今日は少しその辺を走ることにした。


 行き先は、ここから20分くらいの所にある、青いコンビニエンスストアでお馴染みの『○ーソン』だ。


 俺は身支度をすませ、玄関のドアを開けると、外に出る。


「行ってきま〜す」


 と、俺がちょうど玄関のドアを閉めた直後だった。


 風に揺られ、サラサラと舞う綺麗に整えられたモスグリーン色の長い髪に小さな翡翠色の瞳をした20代前半くらいの女性が俺の家の前を通り掛かった。


「こんにちは!」


「あ、こ、こんにちは!」


 いきなりその女性が微笑みながら挨拶をしてくれたので、俺は不覚にも少しだけきょどってしまった。


 初音は美少女だろうけど妹だから例外として、闇ドルで慣れてたはずなのに! 


 何故だ?……やっぱり、幾ら美少女でもVRとリアルとではこんなに差があると言うのか!


 確かに、陰キャは陽キャに比べて、いきなり話しかけられたら男女関係なくきょどってしまうものではある! ソースは俺!


 しかしなんだ、目の前にいる女性が俺と同じく一般市民にしては容姿のレベルが高過ぎる……もはやレベチだ。


 俺が恥ずかしさ故に引き返そうと、玄関のドアに手を掛けたその時だった。


 その女性が俺の私服を見ては、いきなり声をあげた。


「あっ!そのゲーム私も知ってますよっ! RNOですよね! 実は私もやっているんです! とは言っても、まだ始めたてなのですが…あはは…」


 俺の私服を見ては、明るく微笑むその女性は、何処となく、誰かに似ているようだった……。


 その女性が言葉を続ける。


「大会とかには出られたりするんですか?」


「え?まあ。はい…」


 俺は、聞かれた質問に対して軽く頷きで返事をした。


 すると、どう言う風の吹き回しか、その女性が『RNO』について俺と「話したい!」と言ってきたので、俺達は近くにある大きな運動公園に立ち寄ってはベンチに腰掛けることにした。


 ……


「ん〜!良い空気ですね!」


 女性が背骨を反って伸びをしながら、CよりのDくらいあるバストを突き出した姿勢で俺に言った。


「ほ、本当!そ、そうですよね!」


 今日まで俺は、外に出て女性と普通に話せると本気で思ってはいたが……うん! それは撤回しよう! ムリだ!


 と、俺がそんな事を思っていると。その女性はお構いなしに俺に質問をしてくる。


「お幾つですか?」


「は、はい……23歳です」


 女性は微笑みながら言う。


「え!? じゃあ私と同い年です!」


「そ。そうなんですか?……」


「はい! あっ、RNOはどれくらいやられているのですか?」


「RNOは……」



 数時間後……。



「びっくりです!  まさか初対面で出逢った貴方があのPvPに出られる方であられたとは……そうとも知らず! とんだ御無礼を!」


 この女性は武田 優奈たけだ ゆうなと言うらしく、年齢は俺と同じ23歳だそうだ。


 驚いたことに…。家は、俺の近所に住んでいるらしい。


 見た目とは裏腹に、自分でも言うほどの、結構なヲタクだそうだ。


「いいって、いいって! 気にしないで!」


 俺達は、気付けば11時くらいまでRNOの話題で盛り上がっていた。


 俺が家を出たのが7時くらいだから……5時間くらい俺達は話し込んでいたことになる。


 と、俺が腕時計を見たタイミングで、彼女も自分が身に付けている戦国武将モノの腕時計を見ては声を上げた。


 やだ!なにその時計?…俺も欲しい。


「あっ! もうこんなに時間が経っていたなんて…なんとお詫びを!!」


「いいって!いいって!」


 流石に5時間も話せば、俺の『人見知り&挙動不審』はある程度解除されたものかと……そう思っていたのだが…。


 俺の考えは、甘納豆に砂糖を付けて食べるくらい甘々だった。


「お昼…まだですよね?」


 んなっ!?


 突然、彼女がいきなり俺の左手に触れては、オタク要素ゼロの口調と表情で俺を見つめながら、そう呟いたのだった。


 オーマイ……ゴッド……。


 to be continued……。



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