第28話

「あっ、NEETさん!」


 俺が再度ログインすると、彼女は既にログインしており、ギルドにある休憩所の椅子に腰掛けていた。


「ごめんね、待った?」


「いえ! 私も、今さっき来た所なので! 気にしないでください!」


「そう? ありがとう。それじゃあ、レベル上げに行こうか?」


「はい!」


 そして俺達は、再びギルドの依頼表が貼ってある所へと足を運んでは、効率の良いクエストが貼られていないか確認をし始める。



 ・光虫ハンドラの採取 Eランク


 ・大光虫バンドラの討伐 Dランク


 ・新クエスト! 破壊竜・ガ○ドラの撃退 ???ランク



 うん。またしても、おかしいレベルのクエストが貼られている……しかも、何処か見覚えのあるモンスター名だ……。


 と、俺がそんなことを思っていると、彼女の姿が無くなっていた。


 あれ?


 俺が気になって、周囲を見渡すと休憩所の方で数名のプレイヤーに囲まれては何かとチヤホヤされている女性プレイヤーの姿があった。


「えへへ〜、そんなことないですよ〜? え〜? そうなんですかぁ〜? あ、NEETさん!」


 彼女だった……。


 彼女は俺に気づくと、人混みを掻き分けこちらへと走って戻ってくる。


「聞いてください! NEETさん! もう少しすると、レベル上げに最適なイベントクエストが始まるそうですよ!」


「ナイス情報だよ! ありがとう闇ドル!」


「えへへ……」


 どうやら闇ドルは、彼女なりに情報収集を行ってくれていたようだった。


 と、先程、彼女が話をしていたプレイヤー達の所へ俺が視線を向けると、皆、珍しい物を見るかのようにしてジッと俺の方を見つめていた。


 やがて、そこにいた1人の荒くれ者の様な見た目をしているプレイヤーが声を上げた。


「おい! アンタ! まさか……、『NEET駅前』じゃ?……」


 その1人の声にギルドに居た皆がこちらを見ては、皆、駆けつけて来た。


「ま、マジかよ!? え? モノホンじゃん!! つい目の前の美少女に目がいってしまったけど、NEETがいたらやっぱりNEETだろ!」

 

「やっぱり、本物はオーラがちげぇわ! でも、逆に言えばNEETさんくらいのスゲェお方じゃないとそこの美少女ちゃんとは一緒に歩けねぇよな?」


「確かにザルーザさんもすげぇけど、やっぱり数々の偉業を成し遂げたアンタの方が俺はスゲェと思うぜ! なぁ? サインくれよ!」


 まずいな……俺、人に囲まれるのはちょっと……。


 昔、学生時代に受けた古傷が痛みやがる……。

 

「有名人てのは、何処の世界でも、きっと人生なんだろうなぁ! かぁあ〜羨ましいわ!」


 そこに居た1人のプレイヤーが発した何気ない言葉に俺の感情が激しく揺れる……。


 ふざけんじゃねぇよ……人生イージーモードってか?……俺の気持ちしらねぇで勝手に適当なこと並べやがって……そんな人生だったらな、俺はリアルで苦しんだりなんかしてねぇんだよ!


 先程まで穏やかだった俺の表情が、一変して殺意に満ちた表情へと徐々に変わっていくのが自分でも分かる。


 その証拠に、気がつくと俺は唇を強く噛み締めており、俺の拳も少しずつだが固く握りしめられていた。


 ゲーム内でプレイヤーを殴ったとて直接的なダメージにはならない。


 そして、俺が込み上げてくる自分の理性を制御することが出来ずに、その一言を向けた奴に拳を向けようとした……その時だった。


「NEETさんが嫌がっています。やめてください……」


 !?


 突然、彼女が俺に背を向けては、俺を庇うようにして周りにいたプレイヤー達に向けて言い放った。


 彼女のその力強い発言にその場の空気が凍てつきはじめ、そこにいたプレイヤー達も皆黙り込むと、頭を下げはじめていく。


「そ、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。その、悪かったよ……」

 

「NEET! 勝手なこと言って悪かった! これからも活躍期待してるぜ!」


「ごめんね。NEETさん……これからも、応援してるからね!」


 プレイヤー達が、一通り頭を下げ終わると、闇ドルが自分の感情を押し殺すかのようにして静かにプレイヤー達に言った。


「これは、NEETかもしれませんが、皆それ相応の苦しみや葛藤といった日々の中を毎日戦っているのです。それは、例え、一般の方でも有名人の方でも同様です。貴方方もNEETさんのファンであられるのなら、それを分かってあげてほしいです……」


 や、闇ドルさん……。


 俺は不覚にも胸がジーンとしてしまった。


 リアルでは、きっと号泣していることだろう。


 やがて、周囲のプレイヤー達が散っていくと、闇ドルが俺の方へ振り返りざまにボソっと呟いた。


「大丈夫ですか? NEETさん?……ですよね?……」


 俺は、この時に闇ドルが漏らした意味深な言葉の意味を深く追求しようとはしなかった。


 それからどうでもいい話だが、この時をきっかけに俺は、闇ドルに対して、変に意識をしてしまうようになってしまうのだった。


 to be continued……。

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