第二章 結論から言うと、アイドルとは、皆コンフォートゾーンの外でずっと戦い続けているのである……。

 第21話


「……」


「……」


 俺達は、amuseによる突然の休止発表後からずっと沈黙を続けたままだった。


 正直言って、実の兄妹とはいえ、マジで空気が重い……。


 俺はこの空気に耐えることが出来ず、初音に声を掛けてみることにした。


「なぁ初音?」


「……?」


 初音は、心底沈んだ表情を浮かべたまま、こちらを向いた。


 その瞳は潤んでおり、今にも泣き出しそうだ。


「俺、腹減ったわ! もう17時過ぎだし! 家に帰り着く頃には夕飯時だからさ! 初音! 久しぶりに何処か寄って食べて行かないか?」


 初音は最初、「は?」みたいな表情を浮かべていたが、俺が駄々をこねた甲斐もあり……。


「はぁ〜。もう、しょうがないんだから〜。いいよ? 何処入る?」


 初音がご飯屋に入ることを承諾してくれた。


「サンキュー! んじゃあ! 初音が、今食べたい物は?」


「えっとね〜……」


   ーーーーーーーーーーーーーーー


 アニメ○ト併設ビルにて。



 そして、結局、俺達は再びアニメ○トが併設されているビルへと戻ってくることになった。


 心なしか、初音の表情がいつも通りに戻っていた。


「あっ、アニキ! ココだよ!」


 初音曰く、なんでも、アニメ○トが運営している喫茶店と期間限定で『amuse』がコラボしているらしく、俺達はその喫茶店へと入ることにした。


   ーーーーーーーーーーーーーーー


 喫茶店にて……。


 店内の外観や内観は、サイゼリ○やジョイフ○とよく似ている、何処にでもありそうなチェーン店の様だった。


「ほらよ?」


「うん、ありがと」


 初音は俺からメニュー表を受け取ると、足をパタパタとさせながら、ハンバーグのページを開いてそのまま人差し指を指した。


「私コレにする! アニキは?」


「俺も初音と同じでいいよ。あっ、すいません! この、デミハンバーグ洋食セットを2つお願いします!」


 俺達は、ハンバーグセットを囲み、今日あったライブの事を話していた。


「にしてもさ? 初めて見たけど、マジで! amuseは凄かったわ!! 」


「でしょう〜!! だから言ったじゃん!? 時代に取り残されたくなかったらamuseを見るべきだって!」


「おう! マジで初音が言っていた意味がやっと理解出来たわ! あれは見ないと損だな?」


「おぉ!! アニキも私と一緒にamuseのファンになる!? PV集とか貸すよ〜!!」


「おぉ! 頼れるのはやはり妹だなぁ!! あ、それとさ! 今日のライブってやっぱり何かの特典だったりとか?……」


 俺の言葉に、初音が胸に片腕を当てて、得意げに話し始める。


「ふっふ〜ん! アニキ、よくぞ聞いてくれました! 今日のイベントはねぇ! amuseの結成から、今日で丁度5年が経つんだけど、それを祝っうファンに対しての『ありがとうライブ』だったの! しかも!! アニメ○ト店内横にある仮設ステージの広さは、対して広くないから入場制限が設けられていたんだけど! それも、なんと! たったの50人!! 50人よ!? それに当選する私って、マジ凄くない!?」


「ま、まじすか!? 凄すぎるだろ!!」


「でしょう〜!? これって普通に凄いよね!?」


「おう! あ、でもちょっとまてよ? 初音曰く、なんで世間を騒がせているアイドルグループが、ドームとかブドウカンとかではなく、あんなに小規模な場所でライブ活動をやったんだ? 普通、マリンメッ○とかじゃないの?」


 初音が俺を見ては、人差し指を「ビシッ!」と俺に突き立てた状態で言った。


「そ・れ・は! あそこの仮設ステージがamuseの原点だからだよ! 誰だって、育ててもらったら恩返しをしたくなるものでしょ?」


「なるほど、そう言うことか。確かにそうだ」


 と、俺が腕組みをして「うんうん」と頷いていると、初音がハンバーグを口に運びながら、少ししおれた声で言った。


「確かに私も凄いけどさ……アニキも普通に考えたら凄いんだよ?」


「ん?」


「だって……あの『明日香』さんと目が合ったんでしょ!? それ……普通に羨ましいし!!」


「あっ……」


 そう言えば、さっき初音にそのこと言ったんだっけ……。


 言ったら殴られるかと思ったけど、むしろ喜んでくれたな〜。


 俺は初音に言われた瞬間、彼女と見つめ合っていた時の事をまた、思い出していた……。


 to be continued……。


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