第20話
それから、しばらくして『amuse』によるシークレットLIVEが終了し、終わりの前のメンバーによる簡単な挨拶みたいなものが始まったのだが……。
何故かメンバーは、皆浮かない顔をしている。
中でも、『彼女』の表情が他のメンバーに比べても特に曇っていたということを、今でも俺は、はっきりと覚えている。
「……」
俺の隣では、初音も心配そうな表情を浮かべては、amuseの方を見つめていた。
それは、初音だけではなく、周りを見渡すと、ここにいるファンの人達全員が同じような表情を浮かべていた。
店内は、amuseに対する、どんよりとして重いといった、そんな空気が漂っていた。
すると、そのどんよりとした空気を一閃するかのように、amuseのリーダーである『師道 明日香』が俺達に向けて話し始める。
彼女の発言に、ここにいる皆が耳を貸していた。
勿論、俺も例外ではない。
『えぇ〜と……まず、はじめに。皆さん! 今日はお忙しい中、私達のシークレットLIVEにお越し頂き、本当にありがとうございます! えぇ〜と……』
彼女が言葉を詰まらせては、天を見上げる。
『ここで! 私達、amuseから! 皆さんに、ある重大な発表があります!』
彼女が重大発表と言った瞬間、周囲がざわつき出す。
おそらく、店外やSNSでも同じような現象が起きていることだろう。
俺達は彼女の言葉の続きを待った……。
右手で髪を一回掻き上げた後、彼女がメンバーの表情を一人一人ゆっくりと見始める。
「明日香! ファイトだよ!」
「頑張って! 大丈夫だよ!」
「私達のファンだもん! 皆んな分かってくれるよ!」
「ほら? 明日香!!」
『うん。ありがとう』
メンバーが彼女に対して、励ましのエールを送り、彼女がそれに応える。
そして、彼女がメンバーの顔を見終わった後、小さく深呼吸をして、ゆっくりと再び話し始めた。
「えぇ〜と……皆さん。私達、amuseは今日から『無期間の活動休止』に入ることになりました!」
amuseのリーダーである彼女の言葉にざわつきが一瞬にして鎮まりかえった。
『突然の発表で皆さんには迷惑をかけることと思いますが、私達は必ず戻って来ますので! 皆さん! 安心しててください!!』
「は!? うそでしょ!?」
「え? コレってドッキリ……だよね!?」
「嫌!! そんなの嫌だ!!」
俺が再び携帯の電源を入れてSNSを確認してみると、多くのユーザーが悲しみをつづるようなコメントをしていた。
そして、その事を発表した後、amuseのメンバーのうち、彼女だけがステージに残り、他の4人は、みんな笑顔でステージから降りて行った。
彼女は1人だけ残り、ファンの人達の悲しさを少しでも緩和しているのだろう、店内を見渡しては、ファンが悲しまないようにと笑顔を振る舞って会釈をしている。
流石はプロだ。笑顔でポーカーフェイスを装っている為、本心は分からない。
だが……。
心なしか、彼女が心の中では、泣いているように俺には見えてしかたがなかった。
ある程度、順番に会釈して周り、彼女が俺達のいるエリアを見た時だった。
『……』
この時、俺は、ほんの一瞬だが、彼女の表情が真顔に戻った様な気がした。
その直後、彼女が会釈をして頭を下げた時、恥ずかしながら俺だけ反射的に会釈をしてしまった。
あっ、結構恥ずかしいやつだコレ……。
そして、俺は恥ずかしさのあまり、中々、顔を上げることが出来ないでいた。
くそっ! 穴があったらマジで入りてぇ!!
その気持ちを察してくれたのか、初音が俺の上半身を軽く引っ張ってくれた。
「もう、アニキなにしてるし! 恥ずかしいから顔上げろし!」
「お、おう。すまない」
そう言って、俺が頭を上げた時だった。
『……あっ』
「あっ!」
俺は、彼女と目があってしまった。
それから俺達は、数秒間見つめあったまま互いに硬直していた。
to be continued……。
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