第19話
「明日香さん!!」
「!?」
俺は、初音の視線の先にある人物へと目を向けた。
すると、『amuse』の中でも、一際異彩を放つオーラを纏った人物が、そこにはいた……。
例えるなら、amuseと言うグループの『心臓』と言ったところだろう……。
この時の俺には、そう思えて仕方がなかった。
「なぁ、初音? もしかしてだけど、あの黒髪の人が前に初音が言っていた……」
「そう!『師道 明日香』さんだよ! 生、明日香さん! マジやばくない〜!? パスを取るために徹夜で頑張ってよかった!! きゃあぁあ〜!! 明日香さん〜!!」
「そ、ですか……」
どうやらこの人物が『師道 明日香』その人で間違いないようだ……。
因みに、初音はLIVEに夢中になってしまっており、俺の事などそっちのけで曲を聴いていた。
「ウォオオオォオオオ!! 明日香たぁ〜ん!!」
「あすぴょん〜!! こっち向いて〜!!」
「明日香ちゃ〜ん!!」
店内は、既にこの活気だ。
この『師道 明日香』と言う人物が人に与える影響力が一体どれ程のものなのかは、素人の俺でもこの場の空気だけで十分過ぎる程伝わってくる。
「あの人が、『師道 明日香』……」
さっきまで、まとまりが一切なくざわついていたにも関わらず、『彼女』達が少し曲を披露しただけで、これだけ店内の空気を一瞬にして変えたんだ……。
今、他の所では一体どうなってるんだろう?……。
よしっ!
俺は、店内の人達同様に盛り上がっている初音に声を掛けた。
「悪い初音、少し離れるわ!」
「え!? 何処行くの? これからが良い所なのに!?」
「トイレだよ、トイレ!」
「もう〜! 最初から済ませとけし〜!! バカ!」
確かに、店内の盛り上がりは最高潮だったに違いない! だからこそ……だからこそだ!
普段、ネトゲ以外に興味を持たない俺が初めて抱いたこのよく分からない気持ち……。
俺は、この気持ちが何なのかを無性に確かめたくなった。
俺は初音の側を少しだけ離れ、少し店外を見てみることにした。
「ま、マジかよ……」
そこに広がっていたのは、とても目に余る光景だった。
先程まで綺麗に並んでいた長蛇の列は人が密集し過ぎたせいか、殆ど形状を保てなくなっており、何処からか現れた『数100名を超えるセキュリティー達』によって黄色いテープが貼られ出し、強制的に入れなかった人々を抑制し始めていた。
その直後に俺は、『SNS』の方にも目をやることにした。
何故、『SNS』なのかと言うと、初音からさっき渡されたチラシの1番下の行に『SNSでもリアルタイムで同時視聴予定……』という文字が表記されていたからだ。
これだけ店内や店外が盛り上がってるんだ。
このリアルタイムの視聴者が『師道 明日香』についてどのような反応をしているのかが、俺は内心凄く気になってきた。
そして、俺はSNSを開いてみることにした……。
ーーーーーーーーーーーーーー
「なぁ? 師道 明日香って、またダンスが上手くなってね?」
「確かに! 明日香さん、ダンスのキレが一段と上がってるもそうだけど! 歌唱力もまた上がってる!」
「それ! 俺も思った!」
「やっぱり、明日香さんぱねぇわ!」
ーーーーーーーーーーーーーーー
大体察しはついていたがSNSでも店内同様、多くのユーザーから黄色い声援がリアルタイムでも飛び交っていた。
「マジ、すげぇわ……」
しかも1番驚いたのが、amuseに対してというより、そのほとんどの反響が、『師道 明日香』についてのコメントで多くを占めていたからである。
この事から恐らく、この『師道 明日香』という人物は、多くの他人を惹きつける魅力的な何かを持っているのだろう。
勿論、俺も例外ではなく、こうして惹きつけられている……。
俺は、持っていたスマホの電源を切った後、初音の側に戻ると、俺は再び『彼女』の方へと視線をやった。
彼女の洗練されたその一つ一つの動きは、一寸の狂いもなく、その小さくて可憐な彼女の口から発される歌声は、聴いたものを全員虜にすると言われている、伝説上のマーメイドと呼ばれている歌姫のような存在に俺には見えた。
「きゃあぁぁあぁあぁあぁ〜!! 明日香さぁ〜ん!!」
どおりで、人前の見かけを1番気にする初音が、今こうして隣でナ○キのエナメルバッグを片手に翻弄されているわけだ。
確かに彼女のパフォーマンスはパーフェクトであり、一見すると何処にも欠点等は見当たらない。
でも、なんだろう……。
俺は何か1つだけ、彼女に欠けているものがあるような気がして仕方がなかった……。
to be continued……。
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