第12話

やがて、意識が戻り慌てて自分の椅子に着こうとする闇ドルを横目に、俺は今回の本題に話を移した。


「なぁハバネラ、今日、ここへ来たのには、理由があってな……や」


 俺の言の葉が終わらない所で、ハバネラが口を開いた。


「NEETの顔を見れば、大体分かるよ。闇ドルちゃんの装備品を、新調しに来たんでしょ?」


「おっ、話が早いな! そういうことだ……」


「お、お願いします! ハバネラさん!」


「ハバネラで良いってば! えっと……先ず、闇ドルちゃんに合うサイズを測らないと行けないから。あ、闇ドルちゃん? ごめんけど、ちょっとあっちの台に乗って、測って来てくれないかな?」


「分かりました!」


 そう言うと、闇ドルはハバネラの指差す先にある、メタリックで銀色の体重計ロボットのような物が置いてある所へと走って向かっていく。


 そして……。


「ハバネラさん! 出来ました!」


「うん! ありがとう! ふむふむ……なるほどねぇ……鎧の下には、こんな代物が……」


「あのぉ〜? ハバネラさん?」


 ハバネラが闇ドルの測定結果を見ながら1人つぶやいてると、闇ドルが「キョトン」とした表情でハバネラを後ろから眺めていた。


やがて、ハバネラが話し出す。


「ねぇ、NEET〜? 闇ドルちゃんて『魔剣士』で良いのよね?」


「あぁ。そうだな」


「だったら、これなんかどうかしら?」


 そう言って、ハバネラは、俺に『亜魔獣』《ウルゴスティ》の装備品一式を見せつけてきた。


「今の装備よりかは、ゴツゴツしていないから良しとして、これの性能は〜?」


 俺が、ハバネラに尋ねる。


「この装備はね! MPを消費する技を使えば、使うたびに、INTとVITが5も上がり、なおかつ、AGIも3上がる優れものよ! それに、魔法による状態異常は、一切受け付けない! どう?」


「なるほど……確かに、悪くはないかな」


「でしょ! でもね〜?」


「あぁ……分かっているよ」


 ハバネラは、俺の表情をチラチラと見ては様子を伺っているようだったが、俺には、なんとなくその理由が想像ついたので、俺は目の前に表示されている『アイテムマーク』のボタンを押して、その中から5万エイトを取り出すと、テーブルの上に無言で置いた。


 リアルマネーだと、1エイト、1円換算だから、5万円ということになる。


「に、NEETさん!? こんな大金いいですよ!! ちょっと! NEETさんてばぁ〜!」


 闇ドルが俺の方に身体を向けると同時に、言い寄ってくる。


「さっすが! NEET〜! 私、NEETのそういう漢気のあるところ、結構好きだよ!」


 突然の告白に、俺は、少し動揺した……。


「い、幾らアバターが美女でも、ネカマのハバネラに言われた所でなぁ〜」


「あれ? 私、NEETにネカマって言ったっけ?」


「長い付き合いだ。アンタが女性じゃないことくらいは、恋愛未経験の俺でも分かる……」


 俺は、照れ混じりで目の前に置いてあった角砂糖をアイスコーヒーへ入れると、少し乱暴にかき混ぜた。


「さっすが〜! あれ? でも、お顔が赤いみたいだけど、ひょっとして、少し本気にしちゃった?」


「してない。男に好かれても、損しかない」


「あははは〜! 何よそれ〜! 超ウケるんですけど〜!」


「……」


 仲良さげに話す俺達の姿を、何故だか、闇ドルは、少し難しそうな表情を浮かべては見ていた。


「闇ドル? どうした?」


「あっ! えっ、え〜と……お金……私……」


「別にリアルマネーじゃないし、お金の事は気にしなくていいよ。俺からのプレゼントだと思って受け取ってほしい」


「そうだぞ〜、闇ドルちゃん〜? NEETがプレゼントするって言ってるんだから、受け取っておいても、損はないと思うよ〜?」


「あっ……。はい! あ、ありがとうございます! ですが! お金はいつか必ず返します!!」


 闇ドルはそう言い残すと、ハバネラに案内してもらって店の奥にある、試着室の様な所へと入って行った。


 to be continued…。

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