第10話
ハバネラは、3人用の丸いテーブルに、俺達を案内した後、コーヒーとお茶菓子を持ってきては、俺達の前に腰掛けた。
「さぁ、この店自慢の特製ホットコーヒーだよ! ねぇ、鎧は、ちょっと邪魔じゃない?」
「だ、大丈夫です! 頂きます!」
そう言うと、闇ドルは器用にアーメイルの隙間からコーヒーを一口、また一口と……口へと流し込む。
「アンタ、器用ね〜」
正直、コレはゲームだが、上位の痛覚以外の味覚や嗅覚は、リアルに寄せて作られているので、実際に体感しているかのような、そんな仕様になっている。
「……イテっ! いきなりなにすんだよ?」
俺が、「ふーっ、ふーっ」と、一生懸命に冷ましながらコーヒーを飲んでいると、ハバネラが、俺の額に「コチンッ」と軽くデコピンを繰り出す。
「折角のホットコーヒーなんだから、熱いまま飲まないと勿体無いだろぉ〜?」
「俺、猫舌だから……これでいいんだよ! それに、俺はどっちかって言うと、アイスコーヒー派なんだよ〜!」
「アイスなんて、ホットコーヒー派からしたら、邪道よ! 邪道!」
席を立ち、ハバネラが俺の肩を「ポンポン、ポンポン」と叩いてると、その様子を見ていた闇ドルが突然立ち上がった。
「あ、あの! は、ハバネラさん! これ凄く美味しいです!」
「おぉ! アンタ、コーヒー分かるんだ!」
ハバネラは、チョークスリーパーの体制で、俺を絞めようとしていたが、闇ドルのその言葉に、その手を緩めると、闇ドルの前に座った。
「はい! 私、ホットコーヒー好きなので! あっ! 私のオススメは……」
闇ドルがハバネラに対して、流暢にコーヒーの説明をしていると、ハバネラが、闇ドルに言った。
「アンタ、本当にコーヒー好きなんだね! ねぇねぇNEET! 私、彼女のこと結構気に入ったよ〜! そう言えば彼女の名前は?」
「あぁ。その子は、闇ド……」
俺が代わりに紹介をしようとしたが、闇ドルは自分から自己紹介をした。
「あっ、挨拶が遅れました! 私! 暗黒騎士$闇ドル$と申します! ゲームをプレイして、まだ、日の浅い初心者ですが、どうか、よろしくお願いします!」
「よろしく! 私は、ハバネラ! ハバネラって気楽に呼んで!」
「え!? あ、わ、分かりました! ハバネラさん!」
「もぅ〜、さっそく、『さん』が付いてるから〜あははは……」
「……あっ、すいません! それと、ずっと気になってたんですけど……」
闇ドルが尋ねる。
「どうしたの〜? 急に改まったりして〜?」
「お2人は、いつから、お知り合いになられたのですか?」
ハバネラが、手に持っていたホットコーヒーを一口飲んでから言った。
「少しだけ長くなるけど? いいかしら?」
「はい! 大丈夫です!」
「……あれは、まだ私が、『魔導の道』でギルマスをやっていた頃……」
「えぇ!? ちょっと、待って下さい!? どう言う事ですか!? それって、ハバネラさんが当時、No.1で知られていたあの有名なギルドを、率いてたって事ですか!?」
「えぇ、そうよ?」
「ぎょえぇぇえぇ!?」
「ハバネラ? アンタって、闇ドルみたいな初心者でも知っている程の、そんな凄いプレイヤーだったんだな?」
「まぁね〜! あははは……」
「凄いなんてもんじゃないですよぉ! RNOのCMを始めとして、このRNOのソフトを購入したショップ、その街中にも、『魔導の道』のメンバーが載ったポスターが至る所に、貼られているほどなんですから!! それに! そんな凄い方と顔見知りって、NEETさんって一体何者なんですか!? って今、私も! こうして話を!!……」
と、言いかけた所で、闇ドルは、そのまま気絶してしまった。
恐らく、脳が思考回路に耐えられなかったのだろう……。
それから、数分が経ち……。
「あっ、気が付いたみたいだね? 大丈夫?」
ハバネラが心配そうに言う。
「あっ、すみません! 私、お話の途中に……」
「闇ドル? 大丈夫? まだ、休んでた方が……」
「いえ! 大丈夫です! 是非! お話の続きをお願いします!」
「なるほどね……NEETが、この子の事を気に入ったのには、私も納得が出来るよ」
「ん? なんか言ったか?」
「別に、何も言ってないよ」
ハバネラは、何か小言でつぶやいたが、俺には聞こえなかった。
「じゃあ! 続きを……それでね? 『PVP』って言うイベントが、このRNOには、あるんだけど。まぁ、簡単に言えば、プレイヤー同士のバトルロワイヤルかな? それに、私達『魔導の道』が参加していた時だったんだけど。それが、ギルド対抗のPVPで私達、『魔導の道』が優勝候補だと言われていた中で、無名だった彼が、突然私達の前に現れた……」
「……そんなこともあったかな?」
「もぅ〜! あの日以来、私、アンタの事を忘れたことなんてないんだから」
「な、何があったのですか!?」
闇ドルが机に手を置き、ハバネラに身を乗り出して尋ねる。
「私達のギルドは、当時400人を超える、超が付くほどの大型ギルドだったの。それに、私を含め、相当な手練も中には数名いたわ……。でも、NEETが私達の前に現れた時、それは、たった1人の単騎だったの。最初、NEETを見た時、私達は、「初心者かな?」と思って嘲笑っていたんだけど、その数秒後に私達は、思い知らされることになったわ……」
「……」
「え! 一体、何があったのですか!?」
to be continued……。
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