第6話

 闇ドルが頭の防具を外した瞬間……俺は、思わず息を呑んだ。


「……!?」


 時間にして恐らく、一瞬の出来事だったのだろうが、それでも体感的には長い時間止まっていたかのような、そんな錯覚に陥いってしまったと同時に、『美少女』と言う表現とは、この子の為にあるのではないか? とも思ってしまった。


 彼女は、綺麗にまとまった黒髪ショートヘアーに合わせたかのような、黒色で大きなつぶらな瞳をした、まさに『美少女』と言う言葉がとてもよく似合う、お人形さんのような容姿をしていた。


 このゲームの容姿設定などでは、髪や目の色なら変えることはできるが、それ以外はリアルでの容姿が9割を締めている為、この事からリアルでも美少女と言うことが分かる。


 そして、闇ドルが俺の方へ視線をやると、胸の前で手をモジモジしながら、こちらを申し訳なさそうにして見ている。


「あの……お、お願いがあるのですが……も、もし、迷惑なんかじゃなかったらでいいので……その……」


「……っ」


 長年に渡ってずっと引きこもりの生活を続けてきた弊害からなのか、俺は直ぐには答えることが出来なかった。


 だがしかし! 俺には、何故、闇ドルがその様な仕草を取るのかはある程度予想がついた。


 だから俺は、こう言うのだ……。


「じゃあ、俺について来てくれるかな?」


 俺の言葉に闇ドルは「ふぇっ!?」と、声をあげては、一瞬、身を仰け反らせるも、俺が真意で言っていることが伝わったのか、俺が歩き出すと同時に、「ありがとうございます」と、ボソッと呟くと、「よそよそ」と無言で俺の後を追うようにして、ついてきてくれた。


 グリムゾンマンティコアちゃんは、とりあえず後回しだ!



 そして俺は、先ず最初に初心者達が多く集うことで有名の、『大猪の森』と言う低難易度ダンジョンを目指すことにした。



   ーーーーーーーーーーーーーー



『大猪の森入り口』にて……。


 俺達がダンジョンへ着くと、そこには既に、500を超えるであろう、多くの初心者達が多数集まっており、パーティーメンバーの募集等をしては、何やら賑わっていた様子だった。


「本当に、このゲームも有名になったんだなぁ……」


 俺が、多くのプレイヤー達が賑わっている所を微笑みながら見ていると、闇ドルが気になったのか、突然、俺に話しかけて来る。


「NEETさん、どうかしましたか?」


「あっいや、気にしなくて良いよ? こっちの話だから、とりあえず、中に入ろうか?」


「はい!」


 その光景を横目に見ながら、俺達は、ダンジョへと入って行った。



   ーーーーーーーーーーーーーーー



『大猪の森』にて……。



 ダンジョンへ入ると、先ず最初に、闇ドルに経験値を稼がさせることを優先した俺は、周辺の雑魚狩りからすることにした。


 俺が雑魚狩りを優先させた理由としてだが、パーティー(チーム)を組んでいる場合、そのパーティーメンバーの誰かがモンスターを倒すと、そのパーティーメンバーに対して、平等に経験値が入る為、普通に闇ドルが1人でモンスターを倒して経験値を得るよりも、リスク管理が少なく、圧倒的に効率がいいからだ……。


 まぁ、当時からパーフェクトヒューマンだった俺は、一切、他人に近づく事なく、1人で経験値稼ぎをしてたんだけどな!!


 俺は、ほろ苦い過去を振り返りながら歩みを進め、モンスター達が湧いて来ると有名のポイントまでやってきた。


「よし、ここら辺でいいかな? ごめん、闇ドル、俺から少し離れてて?」


「はい!」

 

 俺は、闇ドルの経験値を手っ取り早く稼ぐ為に、1番最初のダンジョンでもある、『大猪の森』には、あまりにも無慈悲で強力な、高周囲スキルを放つことにした、のだが……。


「す、凄いです!! NEETさん!! って! あれ!? あれぇ〜〜!? うわぁあぁあぁぁぁあ〜〜!! こっち来ないで下さい〜!! 助けて下さい! NEETさぁ〜〜ん!!!」


 あれ!? なんで!?


 その強すぎるスキルは、湧いてくるモンスター達のヘイトを俺に集めるどころか、モンスター達は俺からは離れて行き、その反動で闇ドルを含める、多くの初心者プレイヤー達が標的にされてしまった……。


「お、おい! バ、バグか!? バグだよなぁ!? こんな仕様、聞いてないぞ!!」


「幾らなんでもバグだろぉおおぉ!! なんて数だぁぁあぁあ!!」


「ぎゃぁあぁぁあ!! 誰かたすけてくれぇえぇえ!!」


 闇ドルと一緒に巻き込まれては、追いかけられる多くの初心者達……その殆どが、無数のモンスター達にやられては、次々と始まりのエリアまで転送させられていく。


「マジ! エグいって!!!」


「ぎゃあぁぁぁ!!」


「なんでこんなに沸いてるんだよ!!」


 俺がその光景を横目に見ていると、闇ドルがこちらへ叫びながら向かってくる。


「NEETさぁ〜ん!!」


「ごめん! 闇ドル! 直ぐに助けるよ!!」


「に、NEETさん!! は、早く! 何とかしてくださぁ〜〜い!!」


「よし! きた!!」



      ーーーーーーーー


 そして俺達は、何とかこのダンジョンのボスが待つ、扉の前に辿り着くことが出来た。


 俺は、隣で泣いている闇ドルに慎重に話しかける。


「や、闇ドル! ほら!? レベルが10も上がったぞ! やったな! ははは……」


「うぅ……ぐすん……。NEETさんの……意地悪……」


 闇ドルはそう言うと、「プイっ!」と、明後日の方向を向いた。


「ふ、不可抗力だってば! あっ、ほら! そこのドアの向こうに、このダンジョンのボスがいるから! 早く行ってきなよ!」


 俺の言葉に驚いたのか、闇ドルは、泣き止んで、こちらを向き直した。


「ふぇ!? に、NEETさんは、一緒に来てくれないんですか!?」


「う、うん。勿論、俺も一緒に行ってあげたいのは、山々なんだけどね……。ゲームの仕様で、この先のボスには、1人でしか挑めないようになっているんだ。だから! 俺は、この先へは着いて行けない! 大丈夫! 比較的、楽に倒せる難易度だから!」


「そうですか……」


 闇ドルは、肩を落として不安そうに返事をすると、体操座りをした。


「大丈夫だよ闇ドル! 俺を信じて!」


「に、NEETさん……」


 俺は、闇ドルに真剣な眼差しで、瞬き一つせずに言った。


 すると、闇ドルが両手で握り拳を作っては、俺を見つめる。


「NEETさんから伝わって来る、その真剣な眼差し……私! NEETさんを信じます!」


「うん! 闇ドル! その粋だ! 今の闇ドルのレベルは、20だから、ここのボスを難なく倒すことが出来るはずだよ! ここのボスの適性は、15だからね!」


「はい! NEETさん! 私! 必ずボスを倒してみせます! 手伝ってくれたNEETさんの為にも! 私、勝ってきます!!」


「よし! その意気だよ! 闇ドル!」


「はい!」


 そう言って、自信を取り戻した闇ドルは、ボスの待つ扉の中へと1人、入っていった。

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