第5話

「さぁ〜て! 今日の目的は、グリムゾンマンティコアちゃんの牙×10の採取だ! 気合い入れてくぞ〜!」


 と、俺が鼻歌混じりに歩いていると、何処からか、声が聴こえてきた。


「……さい! ……下さい!」


 ん? 何か聴こえたような……気のせいか?


「……さい! 下さい!!」


 また聴こえた……どうやら、気のせいではないらしいな……新イベントに入る前の、NPCの声だろうか?


 俺が気になって声のする方へと、どんどん歩いて行くと……。


 なにやら、半透明になっている、凶々しい漆黒のフルメタルアーマーが、フロア内で四つん這いになっては、「オロオロ」と、その周囲にいるプレイヤー全員に呼びかけていた……。


「助けて下さい! お願いします! 助けて下さい!」


 どうやら、NPCではなくプレイヤーさんだったらしい。


 にしても、あのプレイヤーさん、回復薬とか回復系のスキルやらを取得してないのか?


 呆れた。準備不足だ……ご愁傷様だな……。


 俺が、哀れみの意を込めた瞳をそのプレイヤーに向けては、横目で通り過ぎようとした時、ある数字が視界に入り、俺の足は止まる。


「……!?」


 ここのエリアは、最低でもレベル250はないと、即死レベルだと言われている。


 それなのに対して、そのプレイヤーの頭上には、『レベル10』の文字が、表示されては消え、表示されては消え、を繰り返して点滅していた……。


 俺は、過去の自分と彼女が重なったので、近づいていき、そのプレイヤーに話しかけてみることにした。


「ねぇ、大丈夫??」


「うぅ……ぐすん」


 そのプレイヤーの表情は、鎧で隠されて上手く見えなかったのだが、その声色からして、どうやら女性の様だった……。


「話せない……か。まぁ、いいや。ちょっと待ってて! スキル!『龍の涙:D10』《りゅうのなみだ》!」


「うぅ……ひぐっ……ふぇ? あ……」


 俺の詠唱とほぼ同時に、10センチ程の『知龍』達が数匹現れては、彼女のHPを、みるみると回復させていく。


 そして、彼女のHPパラメーターの色が、瀕死レベルを示す赤色から、普通レベルを示す黄色へと変わり、やがて、正常レベルを示す緑色に変わると、彼女は全回復を遂げた。


「それと、ユニークスキル!……」


 俺は、彼女を回復させた後、周囲にいたモンスター達も1匹残らずに薙ぎ払う……。


「は!?」


「おいおい! 嘘だろ!?」


「俺? 夢でも見てるのかな?」


 その光景を見ていた多くの高レベルプレイヤー達は、足を止めてこちらを見ては、何か叫んでいたが、俺は気にしないようにした。


 やがて、彼女が俺に声を掛けながら、近寄ってくる。


「あ……あの! ありがとうございます!!」


「気にしなくていいよ。そんなことより、君は、ここへはどうやって来たの?」


 俺が質問をすると、彼女は、また泣き出しそうになる。


「あの……私、実は、『ある人』から言われて、昨日このゲームを始めたばかりなんですが……まだ、右も左もわからない状態でして……自分でもどう説明したらいいのか……うぅ……わ、分からないんです! それで助けを求めても、誰も相手にしてくれなくて……気付けば、周りにはおっかないモンスター達がウロウロしてて……私……怖くなって……」


「なるほどね……それは、大変だったね」


 確かに、社会というものは、想像以上に理不尽で残酷なものだ……。


 しかし、それは、ネット界隈でも同様だと言えるだろう……。


 ただでさえ、彼女のような初心者を助けようとしてくれる、お人好しのガチ勢なんて、実際問題、少ないと言っても過言ではないだろう。


 ましてや、今俺達がいる所は、ガチ勢の中のガチ勢達が大会の数日前に潜っては、最終調整の為に、ランクを上げる時に使うことで知られている、有名な高難易度のダンジョンだ。


 そうなってくると、ガチ勢と言うものは、周りには目もくれなくなり、いそいそと己のレベルを上げることだけに必死になる……。


 その為、必然的に、彼女に救いの手を差し出すお人好しのガチ勢なんて、皆無となってくるのである……ソースは俺……。


「別に泣かなくてもいいよ……。そうだ、挨拶が遅れたね! 俺の名前は、NEET駅前。君の名前は?」


「すいません! 挨拶が遅れました! 私、暗黒騎士$闇ドル$と言います!」


「あ……暗黒騎士ね……」


 かなり見た目に、忠実な名前だった……。


「じゃあ……闇ドル、でいいかな?」


「は、はい! では私は、NEETさんって呼んでもいいですか?」


「うん。いいよ」


「あ、ありがとうございます! NEETさん? あの……初対面ですみません! お、お願いがあるのですが!」


「ん? 何かな?」


闇ドルは、顔を覆っていた防具を外す素振りをした……。

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