【再戦】

 レイは地に落ちて、ルカをじっと見ている。エネルギーを使いすぎてしまったのか、あまり動こうとしない。

 ルカの剣は焦げてしまっていて使い物にならなかった。

「借りるぞ。必ず返す」

 人智を超えた剣だからなのだろうか、瞬間移動の剣には傷一つ付いてはいなかった。

 ルカはアンナの手元から剣を拾い上げた。初めて使うのに、手に馴染む。

「うがかぁfぅyにs;hロロkんwkんあァァァァ‼︎」

 ルカの殺気を感じてレイが吠える。

「俺が相手になってやる。彼女には手を出すなよ」

 ルカが駆け出した。体が思うように動かない。体が動くたびに激痛が走る。しかし彼はそれを我慢し、レイ目掛けて突撃する。

 レイが腕と羽を同時に伸ばす。ルカ目掛けて振るわれた。彼はどうにか避けようと体に力を込めるが、今のルカでは間に合わなかった。右の羽が彼の体に激突し、彼は小石のように弾き飛ばされる。

「うぐっ」

 暫く地面を転がり、やっと止まる。彼の体は傷だらけになり、痛みのあまり意識が飛びそうだ。しかし彼はまた立ち上がる。

「正義は…」

 口から血の塊が飛び出た。呼吸も上手くできない。目眩がずっと続いている。

「必ず勝つ」

 ルカは再び駆け出す。しかしその速度はもう常人ほどである。剣が重い。肩が外れそうだ。しかしそれを振り上げる。

「うがかぁfぅyにs;hロロkんwkんあァァァァ‼︎」

 レイの方は少しづつ回復しているのか。先ほどよりも強く、羽が振るわれた。それをモロに食らったルカは再び弾き飛ばされた。剣を手放さないようにするので精一杯だった。あっさり吹き飛ばされたルカはクレーターの縁に強く打ち付けられ、もう声すら出ない。

 だがどうにか意識は失うまいと、彼は必死に目を開ける。レイから、敵から目を逸らさないようにと。

 そんな彼の視界に何かが映り込んだ。桃色の何かだ。それは向こうで倒れているアンナに駆け寄り、その体を抱いた。

「なんだ…」

 少しして桃色の何かは立ち上がり、ルカの元へ走ってきた。それは小さな幼い少女だった。ルカは地下で彼女に会っている。彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃだったが、その瞳には強い光が灯っていた。

 彼女は倒れているルカの手を握りしめ、言った。

「ごめん、その剣貰っていい? あたしが終わらせてくるから」

「ミロスフィードは…」

「キノコ食べさせたから、一命は大丈夫だと思う」

 キノコが何を意味するのかルカにはわからなかったが、薬か何かであることは察しがついた。

「君一人で何が出来る…?」

「やるしかないのよ。レイくんは、あたし達の大事な人だから」

 ティアはルカの手を優しくほどき、剣を取り上げた。

「大事に握りしめていてくれたありがと」

 彼女はルカに向かって微笑んだ。重そうにフラフラしながらも、剣を大事に抱きしめレイの方へと歩く。

「や…めろ…」

 しかしティアは歩みを止めない。レイは彼女に気づき、戦闘態勢をとる。しかしティアは構わない。

「あなたには沢山助けて貰ったね」

 独り言のように呟いた。

「あなたは…女の子かな。薔薇がとても綺麗で素敵だと思う。そうだ、名前つけていい? 女の子なんだし、可愛いお名前がいいよね」

 レイは羽を振り上げ、鋭い両腕を構える。

「アイちゃんなんてどうかな? アンナのお母さんの名前から貰って、アイ。気に入ってくれたかな?」

 その鈍器のような羽が少女に向かって振り下ろされた。

「それじゃあ、アイちゃんお願いね」

 少女の目から大粒の涙が流れ落ちる。

「あたしの大好きな人を助けたいの。その人の側まであたしを連れて行ってぇ‼︎」

 青白い光に包まれ、少女は消えた。レイの攻撃は地面を砕く。

 次の瞬間、青白い光に包まれた少女がレイの体を抱きしめていた。

「もう一人じゃないよ、レイくん。あたし達と一緒に帰ろ」

「うがかぁfぅyにs;hロロkんwkんあァァァァ‼︎」

「大丈夫。レイくんがどんな存在だったとしても、何も変わらない。優しくて可愛いレイくんの事が、あたし大好きだよ」

「うがかぁ……」

「ティアだけじゃ…ない」

 赤髪の少女が二人を抱きしめる。

「三人の時間、楽しかったよな」

「アンナぁ…」

「レイ、帰ろうぜ。ティアもよく頑張ったな。無事で本当に良かった」

「うがかぁ……アン…ナ…ティア…さん…」

「レイくん、帰ろ」

「帰るぞ、馬鹿レイ」

 黒いモヤが消えていく。レイの体から黒が抜けていく。

「帰り…たい……」

 もう三人とも涙でぐちゃぐちゃだった。

「みんなの元に帰りたい!」



「「おかえり」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る