【もう一匹の…】
ルカの手がぴくりと動いた。ゆっくりと腕に力を入れ、上半身を立たせる。
酷い悪臭だ。地面にはほのかに熱が残っており、真っ黒に炭化している。草木も何もない。綺麗な湖は一変、巨大な真っ黒いクレーターになっていた。
彼は何とか爆発の中心から逃れられたようだ。体は酷く痛むし、所々が焦げ爛れてもいる。しかし本来のタフさと合わせて何とか致命傷は免れたようだ。ふらふらとだが、二本足で立ち上がることも出来た。
(ミロスは…)
見渡し、クレーターの向こうに誰かが倒れているのを発見した。体を引きずりながら、彼女の元へ向かう。
「おい…無事か…」
返事は無い。ルカより爆発に近かったのだろう。長くて綺麗だった赤髪は半分ぐらい燃え落ちてしまっていた。服も殆ど燃えてしまっていて、彼女の体は露になっていた。
状態は深刻そうだ。ぐったりと寝そべる彼女にルカは駆け寄る。傷の程度を見ようと思い、彼女の体を見て、ルカは、絶句した。衝撃のあまり、全ての思考がストップした。
「これは……」
そこに寝そべっていたのは美しい白い肌の綺麗な少女、などでは無かった。
乳房から臍辺りにかけての肉が爛れてしまったかのようにごっそり無い。体内の真紫色の内臓が丸見えである。所々の内臓はそもそも無く、人間の体内としては不完全である。
異常は顔にもあった。彼女がいつも前髪で隠していた、右の目。そこに眼球は無い。深い真紫色の穴があるだけだった。その穴は体の肉と同じように爛れて出来たようだ。
彼女の姿はまるで肉体が強い薬品に耐えられなかったように見える。
「醜い女だろう」
ルカに話しかけたのは彼の親友だった。
「ヒヨク…⁉︎」
「それをそうしたのは俺だ。人間の変異歹化、面白い実験だったよ。彼女は非常に良い結果をもたらしてくれた。まさかこの国の英雄、ルカサマと肩を並べる程強くなるとはね。生物兵器の研究は彼女のお陰でかなり進歩したよ。帝国に高値で売れる研究結果がそろそろ完成しそうだ。あいつら、武力のためならいくらでも払うからね。君との冒険者ごっこも楽しかったよ。あ、いやいや本心だよ。研究続きも楽しいが、君のことは本当に友人だと思っているさ。研究の隠れ蓑に過ぎなかったギルドの中で、君との時間はとても心地良いものだった。そうだ、その変異歹は君にあげるよ。今まで良くしてくれたお礼にどうだい?」
「ヒヨク…」
「何だい、友よ」
ルカは青髪長身のヒョロリとした男を睨みつけた。
「黙れ」
ただ怒りと蔑みだけがあった。
「俺がお前を殺さないうちに消えろ」
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