【交戦】

 レイが動き出した。今までピクリとも動かなかったのは、力を溜めていた為だったのかもしれない。

 シーロウはいつの間にかどこかへ消えていた。レイとアンナが対峙する。

「お前兵器だったんだってな」

 アンナはとても悲しそうに呟いた。

「うがかぁfぅyにs;hロロkんwkんあァァァァ‼︎」

「可哀想な奴だ。今私が解放してやる」

 アンナは剣を抜いた。レイに貰った空間を超越する剣だ。剣は妖しく煌めいている。

 少女目掛けて、人の腕のような形の、太い翼が振り下ろされた。地面が砕けるが、少女はそこにはいなかった。四メートル程後ろの位置に一瞬で現れる。

「一回でも踏んだことのある地に飛べる能力。便利だよな。この力でお前に助けて貰ったんだっけな」

 レイの細長い腕がアンナを突き刺そうと迫ってくる。だがまたアンナはそこに居なかった。

「世界って案外不思議だよな。ファンタジーだよな。こんな神様みたいな力を秘めた武器があったり、お前やシーロウみたいな奴らが実在していたり。これだから学者は面白い」

「うがかぁfぅyにs;hロロkんwkんあァァァァ‼︎」

 怒り狂ったレイが滅茶苦茶に暴れ出す。その大きい体を乱暴に振り回している。

 アンナは連続の瞬間移動で回避を計るが、レイの間合いはかなり大きい。何発か食らいそうになり、堪らなくなったアンナは湖の向こうまで逃げた。

「うがかぁfぅyにs;hロロkんwkんあァァァァ‼︎」

「そうだな…。逃げてばかりじゃ勝てないよな…」

 瞬間移動するのにも体力を使うのだろう。アンナの息は荒くなっていた。

 今でも化け物になったレイが湖の向こうで暴れている。早く行って止めてやらねばならない。しかし避ける事に精一杯でなかなか攻撃する隙が無い。

「やっと追いついたぞ」

 良いタイミングでルカが辿り着いた。

「見ろ、あれがレイだ。攻撃の範囲と速度が凄くて手が出せない」

「了解。奴の攻撃は俺が全て引き受けるから、お前は隙をみて攻めろ」

 二人でなら体勢が立て直せる。正直、彼の加勢はアンナにとって有難いものであった。

 ルカは強い。街からここまで走ってきて、息切れ一つしていないのもその証拠だ。

「助かる。お前となら勝てそうだ」

 ルカは小さく頷くと、人間離れした速度で湖の畔を走っていった。アンナも瞬間移動で向こう岸に飛び、再びレイと対峙する。

「うがかぁfぅyにs;hロロkんwkんあァァァァ‼︎」

 目障りな敵を殺そうと、レイの腕がアンナ目掛けて伸び迫ってくる。しかしアンナは避けない。剣を構えて微動だにしない。

 まさに腕が突き刺さろうとしたその時だ。

「おらぁぁぁぁぁ!」

 走ってきたルカがレイの腕を切り落とした。攻撃はアンナに届かなかった。そしてその一瞬の隙を少女は見逃さない。レイの体目掛けて全力で駆け、ガラ空きになったその胴体に刃を突き立てた。

 ガキンと金属のような音がした。硬い。刃が入っていかない。アンナは必死に力を込めているが、もう既に時間を使いすぎていた。

「ミロス、上だ!」

 再生していたレイの腕がアンナを上から狙っていた。ルカは飛び上がり、その腕を切り付けるも、今度は刃が弾かれてしまった。しかし隙を作ることには成功し、アンナは瞬間移動で後ろにさがった。

 だが今度はルカが狙われている。レイは何発も何発も、ピストン運動のように、その腕をルカに突き刺そうと振るう。それを全て剣裁きで受けるルカは超人だが、それでも徐々に押されている。攻撃に転じる隙も、距離をとって逃げる隙もない。

 的から外れたアンナはルカを助けようと、レイに駆け寄り後ろから斬りつける。しかし刃は再び弾かれた。

「うがかぁfぅyにs;hロロkんwkんあァァァァ‼︎」

 レイが体を回転させる。分厚い羽と長い手が遠心力によって振り回される。それらはアンナとルカに直撃し、二人は弾き飛ばされてしまう。

 それを確認したレイは翼を広げると、上空へと飛び上がる。下方には岩と大木に体を打ち付けて倒れている二人。レイが両手を胸の前に持ってくると、その間にプラズマのようなエネルギーの球が生成されていく。球は少しずつ大きくなっていき、物凄い圧を帯びていく。

「⁉︎」

 二人はそれに気付いた。体に鞭を打って逃げ去ろうとするも遅かった。

「うがかぁfぅyにs;hロロkんwkんあァァァァ‼︎」

 破壊のエネルギー球が地上に落とされた。ゴウンという爆音と共に一体が光と熱に飲み込まれた。

 暫くして燃焼が終わった。湖は蒸発。辺りは文字通りの焼け野原になり、死の世界と化した。

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