第三章「化け物」
【怪異】
ロキロキの外、湖のある綺麗な草原にそれは佇んでいた。
人の形をどこか残しながらも、全くの異形である。
口は裂け、ワニのように飛び出している。手足は蜘蛛のように長く、手足の爪は猛禽類のように発達している。背中を突き破って翼が生えているが、人間の腕のような形で非常に気味悪い。そしてその全てが漆黒に染まり、黒いモヤのようなものが絶えず全身から吹き出している。
その生き物を三人の人物が眺めていた。
「凄いのを作ったねぇ、シーロウ?」
「君の科学とやらに対抗するためですよ、ヒヨク」
性別の判断がつかない、エコーのかかったような独特な声で人物は答えた。全身は白いローブに包まれ、顔どころか体格すらわからない。
「あなた達人間はこの星を汚しすぎなのです。君が昔に作った、変異歹なんて本当に悍ましい」
その言葉にヒヨクはケタケタ笑う。
「あれ自体は失敗作だったが、おかげで丁度いい権力を手に入れることが出来た。ギルドは俺にとって非常に心地いい」
「ゲスが」
シーロウと呼ばれた人物は憎しみの籠った声で呟いた。
「しかしもう無駄です。この黒竜なら、人間を滅ぼせます。あなたに変えられてしまった哀れな変異歹達はその後でゆっくり治療します」
「あはは。竜人だが地底人だが知らないが、目障りなんだよね、お前ら」
二人の狂人の話を、センリはわなわなと震えながら聴いていた。
「変異歹を…? ヒヨク、あなたがですか⁉︎」
「ああ、作ったの俺だよ。もう五十年くらい前になるかなぁ?」
「な…ぜ…」
「ん? 興味」
彼は気軽に答えた。
「生物で兵器作れないかなって思ってさ。薬品に耐えられなくて体が溶けちゃったから失敗作だ。薬品は適当にばら撒いて捨てたから、今発生している変異歹はそれだね」
「アイ…サ…」
「あのオーガの群れをけしかけたのは俺じゃないじゃん。隣の帝国。あ、でも帝国に頼まれてあの群れ作ったの俺だから、俺のせいかも〜」
ヒヨクはニヤニヤと笑っている。
センリは言葉を失った。涙を流しながら跪いた。
「センリ、お前はあの日から復讐を誓い、帝国を潰すためにギルドを私物化し、俺と手を組み、軍事力を得ようとした。そのために悪いこともいっぱいしたし、家族も捨てた。全ては嫁の仇である帝国を滅ぼすために。でもね」
「やめろ…」
「でも実は全部俺のせいなのでした! お前はただ俺に利用されただけ! ギルドを好きに使わせてくれてあんがとよ」
センリの瞳は深い絶望で満たされていた。
「そこの御仁、見ましたでしょう。これが人間の醜さなのです。やはり滅ぼさないといけませんよね」
センリは何も答えない。答えられない。
「まぁ落ち着けシーロウ。丁度あいつが来たみたいだ。俺とお前の勝負はあいつらに任せてみないか? 面白いと思うぞ」
「悪趣味め。まぁいいでしょう。私達の黒竜が負けるはずないのだから」
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