【休息】

それぞれの買い物も終わり、三人は昨日の高級ホテルに再度集まった。

 レイはフライドに選んでもらった新しい剣を腰に付け、嬉しそうにしている。青い、氷のような剣だった。刃は透き通っており、屈折した光が煌めいている。

「無事買えたようだな。どれ、立派な剣じゃないか。これでお前が死んでも私を恨まないな? 剣を取られたせいで負けたとか言うなよ?」

「は、はは」

 アンナの当たりの強さにはもう笑うしかない。

「アンナは買い物大丈夫だったぁ?」

「ああ、無事に済ませた。ほら、おやつだ。お前らにも分けてやる」

 紙包に包まれた焼き鶏肉が二人にも配られた。

「わぁい」

「それでアンナ、作戦は?」

「おっとまふぇ」

 アンナは焼き鳥を頬張りすぎてもごもごしていた。ちゃんと咀嚼し、飲み込み、彼女は喋り始めた。

「作戦な。そう言えばまだ詳しくは話してなかったな」

「僕も剣を手に入れたし、手伝わせてくれるんだよね」

「ああ。お前はティアを守ってろ」

「うんうん」

「私は瞬間移動でヒヨクの所に行き、自爆する」

「えっ?」

「以上、これが作戦だ」

 あまりに乱暴な作戦に、二人は目をぱちぱちさせている。

「心配すんなよティア。爆発する直前に瞬間移動して逃げるから。私もあのゲス野郎と一緒に心中は御免だからな」

 そう言って残りの鳥も口に投げ込んだ。

「僕がティアさんを守るってのは?」

「ヒヨクのことだ、いつここに居るのがバレるかもわからない。だからお前はティアを守っておいてくれ」

「じゃあアンナを一人で行かせる事に…」

「ティアが無事でいると分かっていれば、私は気兼ねなく戦える。だからどうか、お願いだ」

 アンナは深く、頭を下げた。突然の彼女の態度にレイの方がたじろぐ。

「あ、頭を上げてよ。分かった、ティアちゃんは僕が必ず守る」

「ありがとう」

 アンナは頭を上げ、ほんの少し、微笑みのような表情を見せた。

「ま、お前なんてど素人だろうし、あまり期待はしてないんだけどな」

「え…?」

「ティア、もしもの時はあれな?」

「はぁ〜い」

 頬をリスのように膨らませたティアが元気よく答えた。焼き鳥はお気に召したようだ。

「さて、じゃあ一休みしたら行ってくるか」

 アンナは布団の上に転がり、懐から本を取り出してそれを読み始めた。

「そんな気楽な…。死ぬかもしれないのに…」

「レイはバカだな。自分の命も大事にするってティアと約束したんだ。だから私は死なない」


 アンナは読書をしており、ティアはシューくんと戯れていた。することの無いレイはぼーっと、読書するアンナの姿を眺めていた。

 本当は緊張と不安でそわそわしていたが、当のアンナが落ち着いているので、レイも心の安静を保とうとしていた。

「なぁ、レイ」

 読書中のアンナが突然話しかけてきた。

「お前記憶無いんだろ? 黒竜物語もわかんないか」

「黒竜物語?」

「ここらの子供は皆知っている有名なお伽話だ。田舎育ちのティアですら知っている」

「へ〜」

「昔この世界には「竜」という高位の生き物いた。九つの大陸を守護する九匹の竜。だが十匹目である黒竜が突如現れ、九匹の竜を連れて何処かへ消えていった。要約するとそんな話だな」

「ふーん。でもお伽話なんだよね」

「さぁ、もしかしたら実話かもしれないぞ? そういう浪漫や夢があるから私は歴史が好きだ」

 そう言って話すアンナはどこか楽しそうにも見える。復讐や使命感ではない、彼女自身の心が見えた気がして、レイは少し嬉しかった。

「よし」

 アンナが本をバタンと閉じ、立ち上がる。

「休憩も十分に取った。殴り込みといくか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る