【親子】

「まさか親父とレイくんが知り合いだったとは」

 四人は応接間に入り、そこでゆっくり話すことにした。店員の男は名をルカと名乗った。

「まさかルカさんがフライドさんの息子さんだったとは」

 今だ落ち着かない様子のレイが呟く。

「まさかお前がまたうちに来るとは思わなかったぜ…」

 フライドもレイに劣らない程ソワソワしている。

「まさかシューくん、あんな所で寝てたなんて。ダメでしょ、もう〜」

「ピュー」

 暫しの沈黙が流れた。レイもフライドも何かを言おうと口を開けど、何も言わないまま黙りこくってしまう。

「はぁ…。何があったか知らないけど、俺は店に戻るから。ちゃんと話し合って仲直りしてくれよ親父。ティアさん、一緒に来るかい? 二人きりにさせてあげようよ」

「そうだねぇ」

 ルカとティアは部屋を出て行ってしまった。二人と一匹が残される。

「あ、あのよ…」

「はい」

「元気にしてるか?」

「はい。フライドさんこそ」

「おう。まぁな」

 また暫く沈黙が続く。

「俺、お前に謝りたくてな。嫌な思いしたよな」

「フライドさんに謝って欲しいわけじゃないです」

「あの子があれか。助けた子か」

「はい」

「じゃあこいつがあの時の変異歹って訳だ」

 コートで体を覆い隠しているシューくん。一眼では変異歹であると分かりづらい。

「おとなしい変異歹もいるんだな」

「フライドさんは見たことないんですか?」

「ああ。ソモの民の事も話に聞いていたぐらいだ。まぁ俺はもう冒険者じゃないしな」

「彼女達は冒険者にとってどんな存在なんですか?」

 フライドは言いづらそうに頭を掻いた。

「国家転覆を狙いかねない怪しい連中。で終わればいいんだがな。ギルドは大層目の敵にしている。触発された冒険者達はソモに対してかなり差別的らしい。俺もこの前の事で知ったばかりなんだけどな」

 レイはフライドに対して怒っている訳ではない。彼は迫害したりする人間性ではないとは思っている。だが冒険者全体に対する印象は悪くなってしまったため、フライドとの関わり方もわからなくなっていた。

「あれはやりすぎだと俺も思う。あの後叱ったんだ。分かってくれたかは怪しいが」

「はい…」

「別に許して欲しい訳じゃない。俺に失望したのもわかる。だがせめて詫びをさせてくれないか。お前とあの嬢ちゃんに。そしたらもうお前らと関わろうとしないから」

 レイは考え込む。許したい気持ちと突っかかるような気持ちの両方があった。

「僕もフライドさんとは仲直りしたいです。でもこの件に決着が付くまで、少し距離を置かせて下さい。彼女の味方になるって決めたんです」

 フライドは頷いた。

「分かった」

「すみません」

「何故謝る。それよりレイ、一個だけ俺に手伝わせてはくんねぇか?」

「ん? なんですか?」

「剣だよ剣。剣選び。たく、ルカのやつ全然頼りにならねぇ。俺に手伝わせてくんねぇか?」

 そう言ってフライドは頭を下げた。

「そんな、頭を上げて下さい! 僕の方こそすみません、前に選んでもらったばかりなのに…」

「あー、あれな。あれそもそも俺の造った剣じゃないんだわ」

「え?」

「センリにも聞いたんだけどよ、あいつもあんな剣は持ってきてないって言うんだ。あいつあの時はそれに気づいてなかったみたいだが」

「そうだったんですか」

「だからよ、今度こそお前に俺の剣を選んでやる。お前はそれを持って、自分の使命を果たしに行くといい。俺は邪魔しねぇからよ」

 フライドは優しく笑っていた。まるで父のような顔だった。

「ありがとうございます。お願いします、フライドさん」

 レイが差し出した手を、フライドは力強く握ってくれた。

 しかし怪訝である。レイは訝しむ。それならあの異能を持つ妖艶な剣はどこから現れたのだろう、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る