夢国

学生作家志望

夢は本物に

一直線に並べられたレール、明日と明後日もずっとこのまま続くんだろうか。


永遠の地獄、止まらないし終わらない。先は暗く濁って見えないくせに明日だけは嫌でもやってきた。


今日も無駄に光る太陽が電車を照らした。



「2番線、まもなく発車します。」


その言葉を合図にして中にいる俺は、満員電車に必死に耐えようと身構えた。


「発車します、お掴まりください。」


掴まることも出来ず、体はゆらゆらと不安定になる。でもなぜか、窓が映し出す景色だけは鮮明に見えてしまって、やがて見たくもない自分のオフィスがあるビルが見えてきてしまったんだ。



嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。



「2番線まもなく出発します。」



その声を合図に電車のドアはゆっくりと閉まった。外にいる俺は、それをベンチに座ってみていた。



「おいあいつ見ろよwベンチ座って放心状態になってやがるw何あの姿勢、どうなってんのw」



俺は気付くとホームのコンクリートを見つめていた。遠くから感じる冷たい視線と、その笑い声。


もうなんなんだよ、どれだけ俺を虐めれば気が済むんだよ!俺だって、俺だって頑張ってるのに………なんでみんな俺を認めてくれないんだよ、なんでみんなこんなに俺にばかり冷たいんだよ、


もう、無理だよ。



俺はその場から立ち上がって誰の顔も見ないように駅構内にあるトイレの個室へと走った。


一度気持ちを整理しないとダメだ。冷静にならないと………



走っても走っても誰かの目線を感じる、誰かの笑いを感じる。ただ、ただ、逃げる。



「あれ………走りすぎたな、トイレないじゃん。それに、人ももう居ないや。」


一生懸命走りすぎたのか、そこはもうすっかり行き止まりだった。トイレなんてとっくに通り過ぎてしまっていたのだろう。おそらく、人の視線と笑いとともに。



「あなたも夢の世界へ行こう。」



「ん?この広告………」



太い柱一つ一つに小さな縦型スクリーンがあって、そこで流されてる映像は全て有名なテーマパークのものだった。



「よく考えてみたら、俺………確か昔親に連れて行ってもらった1回きりだったよな、行ったの。」



「馬鹿か俺、何考えてんだ。そんなお金払ってる余裕なんて………」



「夢の国は、あなたを待っています。」



財布をカバンから取り出して、中身を見た。



 ◆

「次あれ乗りたいよー!」



「はいはい、わかりました。」



「お父さんこれ買ってよ!見て、光るんだよ!」



「仕方ないなぁ………」



「嫌だ!帰りたくない、まだいっぱい遊ぶもん。」



「そんなに泣かないの、次もきっと来れるからね。」



「翔太、大丈夫。またすぐ来れるよ。」



小学生の頃に田舎から大都会へ旅行でやってきて、あのテーマパークに行ったんだ。


初めて行くから、別に特に期待なんてしてなかった。またどうせ興味のない買い物にでもついていくことになる、いつもと同じ休日を想像していた。


でもその世界は、まさに俺の夢だった。夢の国だった。


アトラクションに乗ればキャストさんが「いってらっしゃい!!」って手を振ってくれた。それだけじゃない、まったく面識のない知らない人と絶叫できた、「楽しかったね!」なんて会話が出来た。


なんて楽しい世界、こんな世界が本当にあるなんて………!



 ◆

俺は馬鹿だ、本当に馬鹿だ。


理想と夢だけを追って、1人で勝手に家を追い出してこの大都会で暮らし始めた。なのに、なんだよこれ、ダメだろこんなんじゃ。



「とりあえず、、今日は頑張って会社に行く。でも週末に………」



「行こう。」



俺は大学時代に出来た1人の親友を誘い、週末そのテーマパークに集合することにした。



 ◆

「よー!翔太、久々だな!元気してたか?」



「お、おう!めっちゃ元気さ!」



久しぶりに会った親友、修二の目は朝の眩しい太陽のように光り輝いていた。


俺は心の中で少し嫉妬心を抱いた。「きっとこいつは、上手くいってるんだろうな。いいよな」なんて、そんなしょうもない………



「ほら!何ぼーっとしてんだよ、行こうぜっ!」


修二はぼーっとしている俺の腕を引っ張ってテーマパークのゲートへと連れて行ってくれた。



「ほら、そろそろ俺たちの番だ!行くぞー!」


「なあおい、恥ずかしいから………」



「荷物検査しますね。……今日はお二人ですか?仲良く楽しんできてくださいねー!」



「はいっ!」

「だから、お前声うるさいっ」



「いいんですよ!いっぱい楽しんでください!誰のことも気にしないくらいにはっちゃけちゃってくださいよ!ここは、夢で溢れてるんですから!」



俺は何か顔が熱くなるのを感じた。ぼやっとじわっと、なんだかよくわからない恥ずかしさ………いや違う、重みがようやく外されたかのような、スッキリしたんだ。


ずっと背負ってたものがなんだったか忘れるくらいに俺は今日、


「楽しんでいいんだよね、修二。」


「お前なんで泣いてんだよ………?大丈夫か?w」



「よし、いいですよ!それでは、素敵なひとときを、」



なんでこんなに涙が溢れて、楽しいのに、嬉しいのに。


ゲートの奥には笑っている子供がいる、本気で笑っている大人がいる。可愛いキャラクターだってグッズだって、誰かの絶叫する声も聞こえる。


どこをみても、みんなが本気で楽しんでる。本気で叫んでる。俯いても笑われないし、叫んでも笑われないし、むしろそれをみんながどんどんやってくれって言ってくれる。



夢のような場所だな………



これがこの世界の当たり前になればいいのに。みんなが心からいっぱいに笑顔になれればいいのに………


これが夢じゃなければいいのに。



「翔太、手振れよ。」



「え?」



ゲートから体が出ていて、俺はまた修二に腕を引っ張られていたことにようやく気付いた。そうして俺は、言われるままに後ろを振り向く。



「いってらっしゃい!」



いっぱいの笑顔に、俺は手を振られていた。



「夢じゃ、ないんだな。」

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夢国 学生作家志望 @kokoa555

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