第3話

前回のあらすじ、屈強な男に襲われた。



「魔物に襲われた?」


「はい、あれは間違いなく人間を形どった魔物です。体が魂で出来ていました。」



宿の食堂にて、パーティー仲間が話し合っている中、久しぶりにハムベーコンパン以外のまともな食事を食べる俺。口の周りにソースをつけていて汚く見えるだろうが、俺の疲れと空腹に比べたらどうでもいい。



「幸い魂を操って分散させることができましたが、あれは明らかに勇者様を狙っていました」


「順当に考えれば四天王の手先でしょうね... 」



ほう... やはり俺狙いか。まさか向こうも、勇者の能力が発動出来ないとは微塵も思ってないだろう。一応四天王には警戒されているようだな。


あれ?俺が漏らしたことは王都にバレてるみたいだから、せめて勇者としての威厳が示せるのは魔王側のみか。ライバル同士でリスペクトしあう感じになれるのでは?


… もっとも能力が発動しないことには、どうしようもないんだが。



「また来るかもしれないしよう、誰かがこいつのこと守った方がいいんじゃねえの」



タイランよ、提案は嬉しいのだが腕を組みながら顎で人を指すのは少々行儀が悪くないか?



「... そうですね、人型の魔物ならタイランは騙されそうですから... 私がやります。能力的にもそれがいいでしょう」



リ、リリーが俺の護衛か... どうせならスズがいいな、暴力とか振るってこないし。あ、でもそれだと俺の魔物のヒートアップのリスクがあるのか...



「それじゃあとりあえずこのクソったれは私が見るということで。スズ、魔物に何か変わったところとかはありませんでしたか?」


「そ、そうですね... 」



俺の隣に座っているスズがチラチラと目配せをする... 俺に意見を求めているのだろうが、俺はスズに蹴られただけだからなにも分からないし...



「勇者様が気づいたかどうかは分かりませんが、魔物の分散が少し早かったよう、な?」


「ス、スズもそう思ったのか?」



俺の目だけじゃなく、スズも見てたのなら話が早い。魂を操れるというのなら、その言葉の信頼度は高いだろう。



「ていうかリリーなら、記憶から映像を読み取ったりすることは出来ないのか?それを見れば、俺達が何を言っているかわかると思うんだけど」



よくよく考えたらリリーが心を読めるんなら説明する意味がないではないか...



「は?そんな事出来るわけないじゃないですか、人を化け物みたいに扱わないでください。心など読めてしまったら人類最強ではないですか」



… 二つ、言いたいことがある。


一つ。どうやって俺の心を読んだ。今までの暴力はただの憂さ晴らしとは言わないだろうな?


一つ。安心しろ、お前のナイフ技は充分化け物だ。


でもよくよく考えてみたらその言葉は本当のようで、今までも心を読めば良かったところを質問してきているし。



「じゃあお前はどうやって俺の心を読んだんだ?」



するとリリーは木製のコップからジュースを飲み... 静かにそれを置き、顔の前で両手指を互い違いに交差させ、キラリとこちらを見る...


なんか見たことあるぞこの展開...



「内緒です!!」



組んだ指をスッと解き、またジュースを口にする。


めんどくせえ。



「な、なんですかその態度は!こっちのほうがかっこいいでしょうが!」



コップが壊れそうなほど、ドンドンとテーブルに叩きつけるリリー。


ただひたすらに面倒くさい。四天王を倒す理由がかっこいいからとか、タイランもリリーも意味も無く能力を隠そうとするところとか。


だが...


カランッ...


背筋をなぞられるような、ゾクゾクとするいやあな感覚。何かがおかしいと思っていた。つじつまが合わない、道理の通らない事実。


俺の脳内が告げた、そこに気づいてはいけないと。隣に座っているスズの持ち物を見てはいけないと。


だが人間の視野は意外にも広く、意識しだすと余計に見てしまう。


スズが両手をクロスさせ抱えている杖。上の方がくるくるとおかしな形に巻かれていて、不思議な力で赤の石が浮いている、暗めの色の木の杖。


ザ・魔法使いのそれである。



「う、うわああああああああ!!」



俺は立ち上がっていた。人目もはばからず、スズの杖を指差し、叫びながら。



「ス、スズ... は、拳で戦うんだよな?」


「は、はい... 得物はどうも使いづらくて... 魂の近くに触れることができれば、多少は魂を操れますし... 」


「... この世界に魔法は無いんだよな?」


「え?それは小説の中のお話ですよ?」



疑惑が、仮説が、確信に変わる。



「じゃあその杖って... 」



体をビクッと震わせ、頬をほころばせるスズ。右手をその頬に当て、トロッとした視線を杖の方に向ける。



「だって... 私みたいな補助役にはピッタリの持ち物じゃないですか」



語尾にハートがついた。俺と会話しているはずなのに、うっとりとした声で、まるで独り言のように口にする。



「魔法が使えたらなあと思ったことはありましたが、それは小説の中のお話ですから、どうしようもないですよね... でも私の魂を操る能力なら、似たような事が出来るんです」



徐々にヒートアップしていくスズ。リリーとタイランは昼ご飯について話し始めた。


嫌だ、知りたくなかった。あのお淑やかキャラで通っているスズが、リリーやタイランと同類おなじだなんて...


そんな俺の気持ちなどつゆ知らず、スズは頬に当てていた手を杖に向け、手の平全体で優しく撫で、こちらを向く。



「ですから勇者様!主人公なら主人公らしく魔王を倒し、私に華をください!!」



ちょっとなに言ってるかわからないです...



「物語の登場人物のように、私を美しく、壮大で... そして、格好良くしてください!!」



右手で杖を持ったまま立ち上がり、俺の胸ぐらを掴み、顔を覗き込む。


俺の目に狂いは無かった。このお姫様、距離感がおかしい上に頭もおかしい。どこかおかしな目が物語っている。焦点は合っているはずなのに、目が合っていないような、どこを見ているのかが分からない。



「勇者様?... 勇者様も格好良く魔王を倒したいですよね?自分の一番の技を最高の瞬間にきめたいですよね?陰で努力して強くなるでも、いきなり強い状態から始めるでもいいです。気になるあの子との恋を楽しんだり、強敵に立ちはだかって心が挫けそうになるのもいいです」



止まらなかった。胸ぐらを掴まれ、ただ喋り続けられる。一方通行の言葉の羅列は、ただの暴力だった。



「勇者様が私の杖に気づいてくれなかったらどうしようと思っていたんです。でも、どうして勇者様は格好良く動いてくれないんですか?あなたは魔法を、物語を、ロマンを知っている。リリーさんやタイランさんとは違う方向性の、格好良いを知っている」



気付きたくなかったんです、気付かされたんです... と、とにかくこの状況をなんとかしないと...



「ち、違うんだスズ... 俺はただ単に主人公としてこの世界を楽しみたいのであって、もう少し自然に... 」


「はい!わかります!!主人公の様にですよね!物語を、お話を、紡ぎましょう!」



くそが!!なんて説明すればいいんだ!こんなイカれたお姫様の対処法なんて知らねえぞ!



「勇者様!リリーさんは逃げる特訓を、と言いましたが、やはり勇者様に必要なのは戦う力ですよね!そう思いますよね!!」



はい、それは俺もそう思います。でも俺の体力だと無理なんです...



「ま、待ってくれス...ズウウゥゥ!」



このお姫様には一度ボコボコにされているから知っている。純粋な力では敵わないと... 左手の力だけで俺の胸倉を引っ張り... 食堂の出口まで向かおうとするが、その前にスズの足が止まる...



「スズ、そのくらいにしてください。そいつには走らせすぎました、それにこれから町長の家へ向かいますよ」


「ですがリリーさん!このままでは勇者様の能力が...」


「はあ...」



リリーが分かりやすいため息の後に、少しスズから目を逸らし、頬を赤らめる。


あ、諦めないで!止めてください!!


リリーのキュッと締めた口が緩んだり、また締まったりしたかと思うと、もう一度ため息を吐き、口を開く。



「... とりあえず今は、の言う事を聞いてください」



するとスズもみるみるうちに頬を赤くし...



「リリーさんはずるいですよ... こんな時だけ... 」



俺の胸倉を掴んでいた手からはスッと力が抜け... 俺は床に膝で着地する。そしてリリーとスズの顔を交互に見る...


え... ?え?え?

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