第4話
前回のあらすじ、お姫様もイカれていた。
王都と比べれば見劣りするが、街の石造りの建物は立派で、道路も舗装されている。ザッツ異世界、そんな中世ヨーロッパ風の街並みを俺達は歩いていた。
ヒリヒリと少し尻が痛む中、俺の頭の中はスズとリリーの事でいっぱいだった。
お姉ちゃんってどういうことだろうか。リリーは昔盗賊をやっていたと言っていたし、本当の姉妹なわけが無いし... もしや前世で多少嗜んでいた百合漫画のようなことが起きているのか?盗賊とお姫様の禁断の恋的な... そもそもこの三人はどういう関係なんだ?
直接本人たちに聞く以外に答えが見つからない問題に思考を割いている中、スズが口を開く。その瞬間に、先程の張りつめていた空気がより一層硬くなるのを感じる。
「ところで勇者様。一つ、いえ、たくさんお聴きしたいことがあるので... 」
「私達は先に行っているので後からついてきてください」
「スズゥ、程々にな!」
ま、待て待て俺を置いて行くな!!そ、そうだ心を読んでくれリリー俺のことを助けてくれ!
リリーに手を伸ばし、必死に助けてと心の中で唱えるが... 純粋な曇りなき笑顔を返され、タイランと走り去っていく。
く... 本当に心が読めないのか、はたまた読めた上で無視しているのかは分からんが絶対に許さん...
「勇者様?」
「ひゃ、ひゃい!?」
いつの間にかそばまで来ていたスズと目が合い、少し後ずさる。身長は俺のほうが気持ち高めなのに、気迫で押し負けてしまっている。
「そ、そう身構えないでください。先程はその、お見苦しいところを...」
いやいや、いくらイカれているとは言えパーティー仲間の一人。一応勇者の俺が気圧されてどうする。
「いや、気にしないでくれ。熱くなれる事があるってのは... 良い事だからな」
時と場所とイカれ具合に寄るがな。
苦し紛れにお茶を濁してみると、照れのせいかは分からないが、ほんの少しスズの顔が赤くなっているのが伺える。
今ならリリーとスズとの関係性を聞けるか?
「ところでスズとリリーって... 」
「勇者様!!」
「な、なんでしょう?」
ぐいっと顔を近づけてくるスズ。宿の石鹸の匂いが少し漂い、無意識に目を逸らしてしまう。
「わ、私その... 物語に目が無くて... この旅は勇者様との冒険という物語だというのは理解していて、それを壊してはいけないとは分かっているのですが...」
このお姫様今物語って言わなかった?仮にも一国の危機だというのに、その捉え方で良いのだろうか...
スズは少し赤らめた顔を傾け、右手の親指と人差し指で何かをつまむようなジェスチャーをとり、続ける。
「ですからその... 勇者様の前世の物語を... 少し、つまみ食いしたいのですが... 」
何かイケない事をさせている気がするのですが... そんな顔されたら断れるわけがなかろう...
「も、もちろんいつでも。スズには怪我の手当てとかもしてもらっているし、前の世界で読んだ話ならいくらでも... 」
「本当ですか!ありがとうございます!今夜... とか大丈夫ですか?」
袖を口元に当て、上目使いで聞かれる。
そ、その言動は良くない想像をしてしまううっ!抑えろ俺!抑えるんだ!
咄嗟に脳裏に浮かんだのは青い空、端での方で輝く太陽。朝の少し冷たい空気が身を引き締める。
そして光を遮る筋肉で包まれた男。赤黒いそれは思い思いのマッスルポーズをとっている。
萎えた。
「うぃあ... 分かった。い、夜にまた部屋で」
「はい!ゆっくり落ち着いた場所で!」
の、乗り切った...
そんなこんなでスズからこの世界の話などを聞いていると、周りの建物と比べて少し豪華な屋敷に着く。
物語と言っても最初にリリーから聞いた勇者の伝承?のようなものをもう少し詳しく説明されたもの。
神々の世界で能力や勝敗を予想して賭博を行うとか、魔王の誕生は勇者と同じ時期だとか。目をキラキラさせて話すもので、さっきのスズとは別人格なのでは、と思わせる。
町長の屋敷の方はというと、ご立派にもでかい前庭へのでかい白い門を、すでに到着していたタイランがガチャガチャとイジっていて... 金属の何かが取れていた。
リリーは目を離していたようで、呆けた顔のタイランと、その手に握られている物を見ると顔を青ざめる... 多分俺と同じことを考えている。
すると、図ったかのようなタイミングで女性の声が聞こえる。
「勇者様御一行ですかーーー!!」
屋敷の扉の方を見ると、前世でよく見た服を纏っている女性が手を振っていた。白黒でフリルやレースがこさえられ、膝上のスカートやエプロンのようなものが特徴的だった。どこか危なっかしく体を左右に揺らす彼女、ぶら下げた豊満なそれは、彼女のツインテールと同じように、左右の運動に若干遅れてついて来ていた...
ッッッッハ... !!危ねえ!!
慌ててリリーの方を振り返るが、ナイフも蹴りも、飛んでくる気配はなく... 欠けた錠の部分を合わせて、ただ見ていた。
セーフ... だがそれは無理だリリー、隠せない。
部分的にふくよかなそのメイドさんが、門まで駆け足で近づいてくると、リリーがナイフを抜きタイランの方を向く。
「私、ちょっと行ってきますね」
そんな二人にスズが駆け寄り、笑顔でリリーに耳打ちすると... 渋々といった顔でリリーがタイランに錠を渡す。
な、何するんだ?
疑問を解消しようと駆け寄り、タイランの手元を覗き込もうとするが、それはかなわず... メイドさんが門に到達してしまい、振り返らざるを得なかった。
「今、門の鍵を... あれ?錠がないですね?かけ忘れたのかな?」
門という単語に変な汗が吹き出すが、タイランの方を見ると、両手をパーに広げておどけた格好を見せる。その手から、錠は消えていた。
ええ!!マジックじゃんどうやったの!?
「まあ後で当番の人に聞けばいいか!って私が当番なんですけどね、はははは... 」
メイドさんの、こちらも負けじとおどけたポーズを見ると、必然的に感じさせられる... その痛々しさを。モブ的な位置付けなんだろうけど、君が恐らく一番ラノベのキャラっぽいぞ...
「また怒られちゃうなあ、ちゃんとかけたつもりなんですけどね... 」
「すまん私が犯人だ!!」
堪らず告白するタイラン... 脳筋だが、道徳は欠けていないようだった。
「ああそうなんですか!じゃあ、錠前返してください!!」
「無理だ!」
両者とも門の格子を掴みながらの会話、囚人同士の会話ではありません。
「そ、そんな... 壊しちゃったんですか?」
「うむ!壊して消してしまった!!」
「ちょ、町長さんになんて説明すれば...」
「メイドさん」
二人のやりとりにリリーが割り込む。同じように意味も無く格子を掴み、微笑む。これは脱獄物ではありません。
「勇者様のお仲間さん... !!」
「早く、町長さんの所へ案内してください」
「... !!」
あんぐりと口を開けたまま、涙目のメイドは膝から崩れ落ちる。両手で格子を持ちながらのその動作はいけない事をさせている気分にもなり...
いやタイランが謝って来ればいい話だろ...
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます