第6話
前回のあらすじ、四天王を倒したいらしい。
「おいおいおい、人類の危機だろうが!四天王を倒さないと魔王戦の時に加勢してくるとか、レア武器や魔法が貰えるとか、せめてレベル上げのためとか。そういう事情があるんじゃないのか!?」
いくらなんでも「かっこいいから」などという理由だけでわざわざ世界を回るのは割に合わない。可能ならとっとと魔王を倒してスズのような可愛い女の子とイチャイチャがしたい。
「カハッッ..!!」
「ネタばらしされたのにまだそんな感情を出すとは、馬鹿なんですか?」
みぞおちはアウト...昨日から何も食べてないから胃液しかでないです...
「あの、リリーさん。先ほどから勇者様はどのような感情を抱いているのでしょうか?」
「...う、うーん、スズにはまだ早いので知らなくていいです。馬鹿が馬鹿な事を考えているだけです」
「リ、リリーさんと私は一つしか違わないじゃないですか!それに私ももうすぐ成人なんですよ!」
お、困ってるぞリリーさん。無知で鞭プレイとかいいですねこれ。
「グああああああっ...!」
「またやりましたよこの勇者」
「リリーさん!教えてください!」
みぞおちに二発喰らった経験のあるものはいるだろうか?俺はある。手加減はしてくれているようだが、息がマジで止まる...
「おい、そういえばさっき魔法とかレベルとか言ってたが何の話だ?」
ちょっと待ってくれタイランさん、呼吸を取り戻したい。
俺が答えようとするが、スズが先に口を開く。
「え、えーと... 私がこの前読んだ小説では、魔法は火や水を何もない所から出したり、他の場所に転移したりする力でした」
「なんだ?リュウジはもう一つ能力が欲しいのか?」
「能力というよりかは、知識を通じて習得するものなので、どちらかというと剣術などと同じで努力で身につける物です」
は?なんで第三者視点なんだ?まさか...
「え、ちょっと待て。異世界なのに魔法がないのか?」
「そんなことが出来たら、魔王なんてイチコロではないですか?」
そりゃそうだけどよスズさん...でも魔王だって魔の王なんだから魔法くらい使ってくるだろ。
「ちなみに伝承が記されている文献では、魔王や四天王にも能力が付与されていると書かれています。ですから勇者様の言う魔法などではなく、能力勝負ということになりますね」
そうなんですかリリーさん...てっきり俺は火の玉飛ばしたり、体を浮かせられると思ってたんだが...
「うわ、この男本気でがっかりしてますよ。もしかしてもう一つの、レベルとやらにも期待してたんじゃないでしょうね?」
「レベルってなんなんだ?」
するとリリーがスズに目配せをする。
あ、リリーさんも知らないんですね。に、睨まないでください...
「ええっと、魔獣や魔物、死霊など、まあ「敵」と呼ばれる個体を倒した時に得られる数値のことでしょうか。その数値が一定まで達すると、力や速さなどが向上するらしいです」
「なんだ、水位とかじゃないのか。てもそれってつまり筋トレってことだろ?」
「いえ、直接体の部位を鍛えなくても全体的に力が向上します」
「なにそれずるいじゃん」
俺もチートだと思う。でも勇者にはレベルアップ補正とかが付いてるから楽勝なんじゃん。俺の能力が最強だからいいけれど、レベルも魔法も無かったら勇者なんてただの能力の付いた一般人じゃん。
「あ、武器屋に着きましたね。下りますよ」
でもぶっちゃけ俺、魔物とか素手で塵に出来るから武器いらないんだけどな...まあでも恰好がつかないし、勇者といえば片手剣でしょ、それに乗っ取りますか。
武器屋も石造りの建物だった。窓は大きめに作られていて、これでもかと立派な鎧や両手剣などが、外から見えるようになっている。店の中の壁には、ずらりと盾やら防具などが並んでいる。傘立てのような所には鞘に収められた剣が刺さっていた。
これあれだ、前世の剣道具店に似てるかもしれない。わくわく感のベクトルが同じ方向だもの。
一通り店内を眺めると、リリーはカウンター越しに座っている気性の荒そうなハ...スキンヘッドのおっさんに話しかける。
「相変わらず売れて無さそうですね」
「うるせえやい、それだけ世界が平和ってこったろ?」
お、常連かな?こういう軽口を叩ける間柄ってなんかいいよね。
「それは良かったです。それじゃあこの男に合いそうな短剣かナイフかを何本か、後適当な装備を。それと、いつもの投げナイフを何十本かお願いします」
「あのナイフを打つの面倒なんだよな... 短剣に切り替えたらどうだ?」
「もうあるのでいりません。防具はなるべく早めに、安く、丈夫なものをお願いします」
牛丼かよ。
「ちょっと待ってろよ....」
壁際の低い位置にあるタンスを開けて中の武器を吟味し始める。本屋さんとかが本をストックしているあの引き出しを、店員さんが開けているところを見るのって少しわくわくするよね。
「ほれ、既製品だけど。とりあえず胸と頭を防御しておけば、お姫様に治してもらえるだろ?」
「... とりあえず着てみてください」
あ、はい。そうだよね、デバフ持ち勇者とか公表しづらいよね。
西洋の銀色の鎧をとりあえず付けてみる。チェストプレートとヘルメットだけで騎士になった気分... 重っ... 重すぎる、これじゃ戦えないですリリーさん!!
「... やっぱり防具はいいです、軽めで小回りが利く武器をお願いします」
「お、勇者様には防具もいらないほどの能力があるってか?」
はい、特技は禁欲です。
こういう時に心を読んでくれると便利、気まずい状況でも難なく切り抜ける事が出来る。というわけで、いたって普通の両刃の短剣を買ってもらう。リリーの投げナイフ?の調達も終わったようで。
「最初は西の街にいくんだよな?」
「はい、すぐに帰って来られると思います」
「そうか... 姫様を大事にしろよ」
おっさんがリリーの目をジッと見つめる。その目はどこか悲しそうで、何か言いたそうな...
「はあああ... 昔から姫様はリリーに振り回されてばっかりだからなあ... やっぱりいつも...」
「うわああああああ!!」
おっさんの声をかき消すようにリリーが叫び...それと同時に、ぶすりと肩に新品のナイフが刺さるおっさん。ナイフを投げた本人は怒りを露わにしながら店を出る。おっさんはやれやれといった顔で...いや普通に痛そうだ、治しに来てくれたスズに悪いななんて言っている。
リリーさん全ての場所でナイフを刺していませんかね?そんなリリーさんが恥ずかしがるなんて。おれ、気になります。
「おっさん大丈夫か?... ところでリリーになんて言おうとしてたんだ?」
「あ、ああ勇者様。そうだな、リリーに口止めされちまったからな。本人から直接きいてくれや」
「お、おおそうか。悪いな聞いちまって」
なんだこいつ、頭皮はゆるいのに口はかたいぞ。あと、「勇者様」だと?
「もしかして...新聞とか読まない人?」
「ん?文字を読むってのが面倒でな、最近はあまり客も来ないし...何か面白い事でもあったのか?」
「いや、大丈夫だ。これからも仲良くしよう、ひとまず四天王の一人を倒した後で、また」
やった、スズ以外にも俺を敬っている人がいる。おもらしとかへっぽことかが頭につかない勇者だ。俺は勇者だ、俺は勇者なんだ、最強で、魔王を倒す、かっこいい勇者だ。
あああああ良いな、異世界って良いな、マジ最高だ。
とりあえずここは目いっぱい格好をつける。もしもマントを羽織っていたらビュッという音が聞こえてきそうな勢いでドアへ振り向き、何も言わずに店の外に出る。すでに荷台に座っていたリリーと目が合うが逸らされる...
気分よく店の外に出た俺だが... 一つ肝心な事を忘れていた。店の中にはまだ馬鹿が居たことに...
「なあハゲ店主、あいつ昨日謁見の間でおもらししたんだぜ」
「ぶふぅうう!!」
耳をすませなくても、ドアの隙間からその声は漏れ出て来る。脳筋のネタばらしと、俺をさげすむように吹き出される笑い声が。
目を逸らしたはずのリリーは、ニヤニヤしながらこちらを黙って見ている。
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