第5話

前回のあらすじ、城を出る。



「はい、全部荷台に積んで表にお願いします... 銀貨十五枚?高いです、銀貨十枚でいいですよね?... はい... は?あ、セクハラで訴えますよ?... はい... 銀貨十四枚?私は十枚だと言ったはずですが。はい、じゃあ交渉成立ですね」



まるで前世のド〇キのような、乱雑な陳列をしている店に来ていた。ボケ―っと、並べられている食料やら、装飾品やらを見ながらえげつない値切りの現場を聞いている。


値札を見ると、食パン一斤が銅貨1枚、干し肉がたっぷり五百グラム程で銅貨七枚だったり、少し高そうな銀色のネックレスが銀貨3枚と、恐らく銅貨が前世百円程で、銀貨が一万円なのか。


スズはジッと、カエルを模したブローチや、ちょうちょの形の髪飾りを眺めている。反対に、タイランはうろうろと食べ物を眺め歩いている。


俺も人のこと言えねえけどじっとしてろよ。



「なあリリーこのドーナツ食いて... うおっ!?」



タイランの方向にナイフが飛び... タイランが避けた先のハエを串刺しにし、壁に刺さる。


漫画かよ。店番のお姉さんも苦笑いしてるって。大丈夫だよね?俺、能力使えばこれに張り合うことができるんだよね?



「ケチだなあ、リリーは」


「とりあえぜ四天王の一人を倒すまではお預けです、そしたらあの馬鹿からたんまり報酬を貰いますので」



あ、四天王いるんだ。さも当然のように言ったけど俺聞いてない...



「あ、新しい杖も駄目ですよね。すいません、言ってみただけです」



スズにまで我慢させるのかリリーよ。あ、バツの悪そうな顔をしている、あの顔で言われたら断りにくいよなあ。


すると会話を聞いていた店番のお姉さんがギョっとして...



「あのう、もしかして勇者パーティーの方々ですか?」



あ、バレたぞ。どうすんだこれ。



「昨日の号外に書かれていた事って本当なんですか?」



お、この世界にも新聞あるのか。なにが書いてあったんだろうか。


するとリリーはため息をつき、肩に下げていたカバンから茶色がかった紙の束を俺に渡す。


ザッツ新聞紙ですね、レイアウトとかもまるまる前世のそれだし。部屋や鍛冶屋の広告が下にちょこっと載ってますね。


えーと、どれどれ?



『伝承は正しかった!異世界より勇者召喚!投げナイフに失禁後気絶!』



「んなんんんじゃっこりゃあああああああ!!」



新聞を両端から真っ二つに引きちぎる。視界の先には明らかな嘲笑を浮かべた店番のお姉さんが居て...



「ぷっ...」



こらえろよ!接客業だろうが!!



「がはははははっ!!」



タイランも笑ってんじゃねえ!!



「新聞です、あなたの世界にはありませんでしたか?」


「そういう事を言ってんじゃねえ!!ここに書かれている事は何かって聞いてるんだよ!」


「報道に誤りが?全て真実だと思いますが」



ぐっ...真実だから問題なんだよ。勇者を辱めるんじゃねえ、こちとら魔王ぶち殺すんだぞ。



「あのお、オムツとか追加しますか?うちは成人用もそろえていますので」


「... 今の所は大丈夫です」



一生いらねえよ、あんなことはもう二度と起きねえから安心しろ。


疑りの目を向けるんじゃねえリリー。



「おらあ、全部積んでやったぞ。サービスでオムツも、な?フフフ...」



て、店主まで俺の事を馬鹿にしやがった... オムツ勇者とか絶対にいやだ、俺が世界を救って見返してやる、土下座して謝らせてやる。




「はい、それではありがとうございました。また来ますね」


「二度と来るんじゃねえぞ」



灰色の石造りの店から出ると、次は武器屋に向かうようだった。タイラン以外は荷台へ乗り込み、タイランが荷台を引く。


タイランさん馬鹿力すぎんだろ、馬とかじゃだめなのか?それでも歩くより少し早い速度で動けているが...なんにしても俺が引くんじゃなければ何でもいいや。



「あなたに引かせるとなると、いつ街に着くかわかったものじゃありませんからね。脳筋には力担当の仕事をやらせるのが一番でしょう」


タイランさんがまた睨み付けていますよリリーさん。



「という訳で、武器屋に着くまでにこれからの旅路について説明しますね」


「四天王ぶっ殺して、その後に魔王をぶっ殺すんだろ?」


「はい、その通りです。具体的には、この国を東西南北で囲むようにして四天王の拠点があるので、その後に更に東にある魔王城へと海を越えて行きます」



なんだろう、桃太郎かな?ちょうど仲間も三人連れてることだし。



「ちなみに直で魔王じゃ駄目なのか?魔王城の具体的な位置が分からないとか?」


「は?何言ってるんですか?」



え?なんだこれ、地雷踏んだか?明らかに気温が下がってる...リリーだけじゃなく、スズも怪訝な顔でこちらを見ている...なんかやばい事情でもあるのか?タイランに至ってはわざわざ荷台を止めたぞ。


俺を現実に引き戻すように、下がった気温を引き戻すかのように三人がそれぞれ口を開く。



「かっこいいからですが?」


「も、物事には順序という物があります」


「すぐに魔王を倒してもつまらないだろうが」



…は?


再び荷台は動き出し、ガタン、ガタンと音がなる。

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