第46話 勘違いは危機の始まり
突如として乱入した一人の巨漢。
だがしかし、彼の瞳の中に居たのは黒翼の剣士──ライアーであった。
「いや、ちょっと待っ……」
「この村は──やらせぬッ!!!」
「待って待って待って待って!!? 俺悪魔ちゃう俺悪魔ちゃう俺悪魔ちゃーーーう!!?」
「問答無用!!!」
「チャウチャーーーウッ!!!」
必死に弁明も虚しく、ブゥン!! と鈍い音を響かせる拳がライアーに命中した。
「わお゛ん!!?」
電子マネーを支払ったような悲鳴が響いた。
同時にライアーの体は一瞬にして消え、すぐさま村の周囲に設置された丸杭が弾け飛ぶ轟音が夜の村に木霊する。
それを見ていたリーンは、呑気に感嘆の息を漏らす。
「おぉ、良く飛んだな」
「次は貴様か……!!?」
「待て。私だ」
「っ……!!? 貴殿は……」
「黒騎士のリーンだ。村を襲撃してきた悪魔を掃討していた」
「そ、そうか! 恩に着る……しかし、あの悪魔は……?」
「いや、知り合いの罪使いだ。襲撃してきた悪魔ではない」
「……なんだと?」
銀髪の巨漢はたった今殴り飛ばした方を見やり、顔を蒼褪めさせる。
「……悪魔、じゃないのか?」
「悪魔はその下に伸びている方だ」
「なに?」
言われてから、ようやく巨漢は地面で伸びていたグラシャラボラスに気が付いた。
そして、なお一層のこと顔から血の気が引いていく。
「……さっきのは本当に悪魔ではないのか?」
「そんな見た目だったのは否めないがな」
「……」
今度は血の気が引く代わりに、滝のような汗がだらだらと顔を伝い始める。
──やってしまった。
顔がそうありありと告げていた。
「ライアー! リーンさん!」
この状況をどうしたものか。
そのような空気が漂う中、パタパタと足音を響かせて近づいてくる人影があった。
こじんまりしたシルエットの正体はアータンだ。片手に杖を握る彼女は、立ち尽くすリーン達の方へと急いで駆け寄って来る。
「大変なの!! ベアティちゃんが……ベアティちゃんが悪魔に連れ去られちゃった!!」
「なに!!?」
と、銀髪の巨漢が目を離した瞬間だった。
それまで沈黙を保っていたグラシャラボラスの両目が見開き、巨大な翼が土煙を巻き起こしながら羽搏かされた。
「っ、しまった!!?」
「──仕事は、こなしたみてぇだなぁ」
一気に飛翔したグラシャラボラスは、苦々しい表情で吐き捨てるように言い放った。
「殺し足りねぇが命令は絶対だぁ。ここは一旦退かせてもらうぞぉ……!」
「待てっ!!! 貴様、ベアティをどうするつもりだ!!?」
「死んでも喋るかよぉ……!」
高く舞い上がるグラシャラボラスは、すでに人の手には届かぬ場所に在った。最早魔法で狙撃することも困難である。
「あばよぉ!! また殺り合う機会があったら……」
「そんな機会はやらねえよ」
「あ──?」
振り向いた、まさにその瞬間だった。
背中に鮮烈な痛みが奔る。
「な……なに゛ぃーっ!!?」
それを己が斬られた痛みだと理解したのは、世界が真っ逆さまに映ってからだった。
墜落する最中、グラシャラボラスは自身を見下ろすように宙に立つ黒翼を垣間見る。
巨漢に殴り飛ばされたはずのライアーだ。
悪魔と見間違われた彼は、その鷹のような手に一振りの剣を握っていた。
「て、てめぇ……得物はたしかにシャックスが……!!?」
「いつ俺が剣一本しか持ってないっつったよ?」
「っ!!!」
してやられたと悪魔は歯噛みする。
その通りだ、相手は剣を一本奪われただけであり、予備を持っていないとは一言も発してはいない。
だが、剣を失ってからの執拗な肉弾戦を前に、グラシャラボラスの頭からは予備の武器という思考がすっぽりと抜け落ちてしまっていた。
まさにその虚を突かれたのだ。
「は、ははっ……してやられたぜ」
これにはグラシャラボラスも笑うしかなかった。
自嘲の笑み、そして畏敬の笑み。
自身を破った相手に対する、万感の思いが込められた笑みだった。
「完敗だ」
故に、グラシャラボラスは悟った。
「それじゃあ……最期はド派手に殺させてもらおうかぁーッ!!!」
「!」
「ネビロス様ぁー!!! おれ様の最期の殺戮、ご覧あれぇーっ!!!」
狂気の笑みを湛えたグラシャラボラスは、あろうことか鋭い爪の生えた手を自身の心臓に突き立てる。
明白な自傷……否、自殺行為だ。
しかし、それが単なる自死で終わるはずもなかった。
ドグンッ、と周囲に重く低い鼓動の音が鳴り響く。するとグラシャラボラスの胸を中心に、禍々しい色の魔法陣が広がった。
(不味い!!)
それを見たライアーは翼を羽搏かせ、墜落するグラシャラボラスを追う。
(上空で爆発させるわけにゃ……!!)
感じる魔力の波動より、相手が何の魔法を繰り出そうかは予想が付いた。
グラシャラボラスの罪魔法──爆発する羽根だ。人体に命中した時は言わずもがな、その脅威は命中する以前でも十分脅威足り得る。
もしも仮に無差別に上空で撒き散らされれば、それだけで村にどれほどの被害が出るか分かったものではない。
だが、爆発の──〈殺戮〉の権能が羽根だけに適用されるものとは考えにくい。
「フィクトゥス!!」
兎にも角にも、まずは魔力の収束を止めねば。
その一心で、ライアーはグラシャラボラス目掛けて剣を投擲する。イリテュムを奪い取られても尚、唯一手元に残っていた武器だ。
正確無比な投擲は、見事悪魔の心臓を貫く。
続けて接近したライアーは猛スピードで柄を握り、そのまま死体を地面に突き刺した。
激震と衝撃が周囲に奔り、絶命したグラシャラボラスの肉体は塵と消える。
しかし最後に残った翼は違った。
グラシャラボラスに収束していた魔力の波動を感知し、翼に生え揃っていた無数の羽根が光り輝き出す。
あの自死は魔力を発動する為の“溜め”ではない、“合図”だったのだ。
それを理解した時には、すでに翼は臨界寸前と言わんばかりの光を放っていた。
「伏せろーーーッ!!!」
「──退け!!!」
全員に注意喚起した瞬間、ライアーの体が弾き飛ばされる。
「馬ッ……!!?」
ライアーの目はたった今自分が立っていた場所に向く。
そこにはつい先ほど自分を殴り飛ばした銀髪の巨漢が居た。男はあろうことか、今まさに爆発しようとしている翼を抱きかかえ、その場に蹲ろうとしているではないか。
最悪の未来がライアーの脳裏に過る。
それは前世で聞き知った、手りゅう弾を抱きかかえて味方を庇う兵士の末路だった。
「待──!!」
ライアーは手を伸ばす。
しかし、視界が開いた掌を色濃く浮かび上がらせるほど白く瞬いたかと思えば、直後に全身を衝撃が襲った。
刹那、夜空が翻った。
***
俺達が悪魔と戦い、そしてグラシャラボラスが斃れた。
そうしてシルウァの村には束の間の静寂が訪れる──かと思いきや、そんなことはなかった。
「い、痛ぇ……!」
「誰か布持ってこい!」
「今止血してやるから待ってろ!」
村のあちこちから負傷した村人が、一軒の宿屋に向かって集まっていた。
何故ならばこの村に診療所はない。
小さな村では珍しい話ではないが、こういった非常時に緊急で治療を受けられる施設がないのは、重傷=死を意味する。
だが今回に限っては別だ。
宿屋には治療をできる人間が居る。
故に、怪我人を一か所に集めるのであればベッドの数が多い宿屋が好都合となり、怪我人は救いを求めてそこを目指していた。
「はい、次」
「あ、悪魔に引っかかれて血が止まらないんです……!」
「おねがい! お父ちゃんをたすけて!」
「ふむ……」
本来宿屋の食堂である一室に、腕を爪で裂かれた男とその息子が訪ねていた。
応対していたのは鎧を脱ぎ捨て、ピアスを開けまくった肉体美を惜しげもなく露出するリーンである。
彼女はじっくりと傷口を診察する。
「……骨までは到達していない。傷口も綺麗だ。これなら簡単にくっつく。だが菌が入っている可能性もある。今から傷口を消毒するから我慢しろ」
「は、はい……うぐぅ!!?」
「お父ちゃん!!?」
リーンは傷口に消毒液──という名の自前の火酒を浴びせる。
消毒として有用なアルコール度数は80%と言われているが、彼女が携行している火酒のアルコール度数はおおよそ90%超えだ。
それを普段あいつはストレートで飲んでいるようだ。肝臓が悲鳴を上げていそうで肝が冷えるが、そのような事情を露ほども知らない男は、ただひたすらに傷口に染みる痛みに苦悶の表情を浮かべていた。
「──〈
すかさずリーンが魔法を唱える。
すると、たった今火酒に濡れた傷口が淡い光に包み込まれる。みるみるうちに男の表情が和らいでいくかと思えば、十数センチにも渡る傷口は綺麗さっぱり消えてなくなっていた。
〈
聖堂騎士団においては
まあ、リーンくらいの魔力量ならあのぐらいの傷は屁でもないというわけだ。
「す、すごい……!」
「治療は終わりだ。だが、今失った血まで元に戻してやる余裕はない。今日のところは休息を取っておけ」
「あ、ありがとうございます! あなたは命の恩人です!」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「……どういたしまして」
子供の屈託のない笑顔にぎこちない笑みを返すリーン。
しかし、当然患者はそれだけではない。次々に悪魔の襲撃を受けた被害者が、宿屋の一室を借りた診察室へと運び込まれていく。
その数が30を超えたところで、一先ず怪我人の搬入は終わりを告げる。
静かになった部屋の中、リーンは仕事終わりと言わんばかりに余った火酒を一口含んだ。
「ふぅ……」
「流石だな、リーン。昔取った杵柄ってか?」
一息吐いた頃合いを見計らって部屋へと踏み入る。
俺は爆心地の近くに居たが、罪化していたおかげでこれと大きな怪我はしていない。ちょっとした打撲ぐらいで済んだ。
そんな俺を一瞥して安堵でもしてくれたのか、リーンは酒気交じりの息を吐いた。酒臭いが、ツラの良い女がするとそれでも魅力的になると言うのだから、この世は残酷なものである。
「……やんちゃな後輩が居たからな」
「そいつを治してやったってか?」
「いいや。よく私の背中を引っ搔かれてな」
「あれ。これ聞いてよかった話?」
相手が男でも女でもいかがわしい話の雰囲気だ。
先輩×後輩のシチュなのかい!?
それとも百合の花が咲いちゃうのかい!?
「まあ、にしてもだ」
冗談さておき、リーンと共にとある一室へと向かう。
扉を開ければ充満していたアルコールの匂いがムワリと漂ってくる。部屋には一人の人間が寝かせられており、その傍らの椅子にはこじんまりした人間が座っていた。
「アータン、どうだ?」
「ライアー……ううん。まだ目を覚まさないの」
「そうか……」
ベッドで眠る男を見守るアータンはそう告げた。
少しばかり彼女の声が掠れて聞こえるのは、今の今まで泣いていたからだろう。
「大丈夫、治療自体は済んでるんだ。すぐ目を覚ますさ」
「あれだけの爆発を押さえ込んで即死しないとは大した男だよ、そいつは」
「ホントだよ。一番びっくりしたの俺だもん」
本当にびっくりしたわ。
目の前で眠る銀髪の巨漢は、全身に包帯を巻かれてこそいるが、これといった四肢の欠損はない。村の地面を大きく抉った爆発の威力を考えればありえない頑丈さだ。
「爆発を押さえ込む瞬間一瞬罪化していた。そのおかげだろうな」
「なるほどなぁ。じゃあこいつが」
「ああ」
「?」
俺とリーンの話に、アータンは疑問符を頭上に浮かべる。
だが、『なんの話をしているんだろう?』とは思えど、今の彼女にそこまでの元気はないだろう。
というのも、
「この人……ベアティちゃんのお父さんなんだよね?」
「ああ。みたいだな」
「っ……! ……そっか」
悲痛な面持ちを湛えるアータンは、泣き腫らした目元を隠すように俯いた。
間もなく少女の肩はふるふると震え始め、小さな嗚咽が部屋中に響き渡る。
「私の……私のせいで、ベアティちゃんは……!」
「アータン……あれは俺達が悪魔を取り逃がしたせいで……」
「違うよ! 私が傍に居たんだもん!」
泣き叫ぶようにアータンは訴える。
「だったら私が守らなくちゃ……これで何かあったら、私……!」
そう言ってアータンは再び俯き、肩を震わせた。
今は下手に慰めても逆効果だな。
「アータン。今は状況を整理するぞ」
「ぐすっ……状況?」
「ああ。ベアティが連れ去られた時、何があったか教えてくれるか?」
「っ……うん」
アータンはゆっくりと当時の状況を振り返る。
「──あの時、宿屋には私の他にベアティちゃんとリキタスさんが居たの。ライアーに言われた通り二人を守ろうとして。そこに頭が鳥みたいな悪魔が現れたと思ったら、私とベアティちゃんがいつの間にか悪魔に掴まれてて……」
「……シャックスとかいう奴か」
自分の剣を奪ったコウノトリ頭の悪魔を思い出し、俺は苦々しく目を細めてしまった。
「あいつの罪魔法か」
「人と物を問わずに引き寄せる転移魔法か……珍しい」
「最初に仕留めときゃ良かったぜ」
しかし、すでに後の祭りだ。
再び俺達はアータンの語りに耳を傾ける。
「それでリキタスさんが悪魔に飛び掛かったんだけど、思いっきり蹴飛ばされて。でも、その間に私が悪魔に魔法で反撃したら……」
「怯んで拘束が放れた、と」
「うん。なんだけど、そのせいで悪魔が逃げてベアティちゃんが……!」
「大丈夫だ、アータン。今の話で大方分かった」
「え?」
きょとんとした顔で見上げてくるアータンの頭を撫でる。
これだけの情報を憶えていてくれただけでも十分だ。
「“連れ去った”ってことは“すぐに殺せない理由がある”の裏返しだ。どうやら悪魔には明確な理由があってベアティを襲ったんだろう」
「そうかな……?」
「俺達が相手した悪魔も『若い女は連れていけ』と言ってた。この可能性は十分高い」
けっして、ただの慰めなどではない。
冷静な分析の上で導き出した推論だ。時には理詰めで説明してこそ慰めてやれる時もあるというわけだ。
すると、不意にアータンの目尻に涙が浮かび上がってくる。
それは自身の不甲斐なさやベアティの安否を案じる不安からくる涙ではない。絶望的な状況で差し込んだ一筋の光より来た安堵からだろう。
しかし、俺はそれが零れ落ちるより前に彼女の目元に指を添える。そうして涙はせき止められ、零れ落ちることはなかった。
「だから大丈夫だ。ベアティは無事さ」
「ライアー……!」
「でも油断はできない。すぐに殺せない理由はあっても、どうして殺さないかはまだ分からないからな」
そう言ってから今度はリーンの方を向く。
滑らかな黒髪を靡かせる彼女はふむ、と耳たぶのピアスを指先で遊びながら桜色の唇を開いた。
「悪魔が生きた人間を欲する理由はおおかた
「そんな……!」
「
あくまで淡々と。
過去の事例から判明する事実を口にし、リーンはこっちを向いた。
彼女が言わんとしていることを理解し、俺はこくりと頷く。
「よし、アータン。その悪魔に襲われた場所まで案内してくれ」
「え? う、うん」
突然の頼みに戸惑いながらも、アータンは俺達を現場へと案内する。
しっかりと掃除された綺麗な廊下を歩んだ先で扉を開けば、そこの部屋だけ突き破られた壁の破片が霧散していた。
そして俺は現場の検分を開始する。
「ふむ……」
「ラ、ライアー? 何を探してるの?」
「おっ、あったあった。これだ」
「……血?」
俺が指差したもの。
それは床に残る血痕だった。
「アータン。悪魔には何で反撃した?」
「えっと、〈
「なるほど、じゃあこれが十中八九悪魔の血ってわけだ」
ただの〈水魔法〉なら兎も角、貫通力の高い〈水魔槍〉を至近距離で受ければ負傷は必至。
おそらくシャックスと呼ばれた悪魔は、獲物と油断していた少女から思わぬ反撃を受け、慌ててベアティだけを連れていったのだろう。
だからこそ現場に証拠を残したまま去ってしまった。
「この出血量から見るに悪魔の傷は浅くない。つまり、流血しながら飛び去ったわけだ。それなら地面に血痕が残っているかもしれない」
「! それならベアティちゃんの行方が……!?」
「鼻の良い従魔でもいれば、血の匂いを辿らせることだってできるだろうが……どうだ?」
俺がリーンの方に話を振れば、
「……村の猟師が猟犬を何匹か飼っていた。言えば貸してくれるかもしれんな」
「ヒュウ♪」
ビンゴだ。
ベアティへと繋がりそうな手がかりを前に、俺は指も慣らした。
「よし、善は急げだ。そのワンちゃん借りて血の臭いを追おう」
「そう上手くいくか? 犬の嗅覚なんてたかが知れているだろう」
「そこはあれだよ。頑張ってもらうしかないワン」
「語尾がなってないな。しつけてやろうか?」
「体罰反対だワァーン!!」
リーンが拳を鳴らして脅してくるものだから、とっさに部屋の隅に隠れて丸くなる。
こいつドSだから本当にやりかねなさそうで怖いんだよ……。
親しさと遠慮は比例するというか、俺を雑に扱って良いと思い込んでいる。まったく、困っちゃうわ。
なんて、今後の目途が立った時だった。
「──……それなら、俺に任せてくれ」
のそり、と扉の奥から人影が現れた。
「……嘘だろ?」
振り向いた俺達は、直後に愕然としてしまった。
現れたのはつい先程まで眠りについていた巨漢であった。全身を包帯で包まれた痛々しい姿を晒し、とてもではないが顔色も優れているとは言い難い。
にも拘わらず、まるで計っていたかのようなタイミングで参入してきた。
これはつまり、俺達の話を理解できる段階ですでに目を覚ましていた事実の証拠となる。
「おいおい……いくらなんでも頑丈過ぎるだろ」
「娘が連れ去られているんだ。この程度の傷……!」
「たしかに傷は魔法で治してやったが……」
これにはリーンも心底呆れたような顔を浮かべていた。
淡い桜色の唇もへの字を描いている。
「失った魔力までは回復してやれていない。そこは分かっているな?」
「無論だ」
「ここに来るまでの間に何があったかは知らんが、随分消耗していただろう。それでも行くのか?」
見透かすような眼光に晒され、銀髪の巨漢は押し黙った。
しかし、それもほんのわずかな時間だった。1秒にも満たぬ逡巡を経て、巨漢は強い意志の光を宿した瞳を見開く。
「ああ、行くとも。あの子は俺が救わねばならんのだ」
「……と、言っているが?」
どうする? とリーンは俺の方に視線を投げかける。
……あれ? これ俺に決定権ある感じ?
「俺は全然オーケーよ」
「! そうか……恩に着る!」
「恩に着るだなんて仰々しい。元はと言えば守り切れなかったこっちの責任もある」
「っ……恩に着る!」
「いや、着なくていいから」
「恩に着る!」
「そっかぁ、着たいかぁ……なら俺はもう止めない」
「諦めないでよ、ライアー」
アータンの冷静なツッコミが入るが、向こうがどうしても引かない以上、こちらが折れるしかあるめえ。
「お前達が救出に赴くというなら村には私が残る」
リーンは村への居残りを宣言する。
悪魔達が引き返してくる可能性はゼロとは言い難い。戦える人間が出払うわけにはいかない以上、信頼できる戦力の残留は妥当な判断だろう。
「それじゃあ俺とアータンとあんたでベアティの救出に向かうぞ。よろしくな」
「ああ。こちらこそよろしく」
「自己紹介が遅れたな。俺はアータン……の仲間のライアー」
「私の自己紹介奪われた?」
「こっちはライアー……の仲間のアータンだ」
「一回他人を挟む意味ある?」
ちょっとだけ元気が出たのか、アータンのキレの良いツッコミが宿屋に木霊する。
若干銀髪の巨漢は困惑しているものの、一応どっちがどっちかは判別がついたようだ。
「ライアーにアータンか。分かった、どうかベアティ救出に手を貸してくれ!」
「モチのロンよの国士無双よ」
「なにそれ……」
麻雀を知らないアータンに冷えた視線を投げかけられながらも、俺は眼前の巨漢をじっと見据えていた。
何故ならば確証を得たかったから。
「良ければあんたの名前も教えてくれ」
「む、そうだったな……すまん、つい焦って」
巨漢は丸太のような剛腕を差し伸べ、俺に握手を求めてくる。
そして、
「俺の名はベルゴ。元……騎士だ。多少は腕に自信があるので足を引っ張る心配は無用だ。よろしく頼む」
う~~~~~ん……。
やっぱりお前かぁ~~~~~……。
「よぉーーーーーしっ!!! 絶対ベアティ助けるぞぉおおおおお!!!」
「ライアー、すごいやる気だね……」
「やったるでぇ!!! ウチ、やったるでぇ!!?」
さもないと──アータンに次ぐ悲劇が起こるだろう。
そんなの……させへんで!
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