6話目 蛮族襲来
「─来ました。」
村人の見張りよりも早く、外縁部にいたレベッカが告げる。
「迎え撃つぜ!」
「了解ッス。」
「ふぁ〜い。」
居眠っていたプリマを揺り起こし、サーマルは弓筒を背に担ぎ、大弓を手に取ると村の外縁へと走った。ペプシは、暗視を発動させる為、頭部を
「蛮族です! 蛮族が来ました!」
見張りに立っていた村人も、慌てて村へと駆け戻ってきた。蛮族を見たら逃げ戻るのは、打ち合わせ通りだ。 プリマは寝起きで回らない脳を必死に稼働させながら指示を出す。
「村人を全員起こしてくだひぁい。手筈通り、武器を持って待機をぉ......。」
「は、はいっ」
見張りの村人は慌てて家々へと駆けてゆく。
「来たッスね。けれど皆さん、決して飛び出さないように!」
村を囲う柵の外。 月明かりの下、森から出てわらわらと蠢く影があった。
夜目の利かないサーマルには、正確な数はわからない。けれど十体は軽く超えているだろう。
「本当に総出で全力で来たッスね……!」
その間にも、蛮族たちは村へと駆け寄り、雄叫びを上げた。フッドの姿は居らず、代わりに夜行性のゴブリンが大勢押し寄せる。大柄な影が何体か混じっており、それがボルグなのだろうと想像する。
(すごい数・・・・・・。それにボルグが複数体いるなんて!)
自分を含め、四人で本当に守り切れるんだろうか・・・・・・?
レベッカは、どうしようもない不安に駆られた。
「ギギャギャギャギャギャ!」
不快な声で叫びながら、蛮族たちは広く散開して突撃してくる。
勝利を確信しているのか、姿を隠すことなく、威嚇の声をあげまくっていた。
だが――その声も、村を囲っている柵に近づいたときに、急に悲鳴に変わる。
「落ちましたぜプリマ様ぁ!!」
何人かのゴブリンとボルグが、落とし穴にかかったようだった。蛮族たちの粗野な言語で、悪態やら罵倒やらの声が響く。
落ち着いて、手筈通りに!
マギスフィア起動。
「【フラッシュライト】」
呪文の声が響き、一斉に柵の周辺が魔法の白い光に照らし出された。蛮族たちの姿がはっきりと浮かび上がり、半数ほどが落とし穴に落ちているのが見える。
「でも、抜けてきてる・・・・・・・・か。」
落とし穴に落ちなかった数体が先頭となって、柵を抜けて村の中へと殺到しようとしていた。中には、翼を持って空を飛ぶ小柄な蛮族――グレムリンもいる。
蛮族たちは、仲間のことを気遣ったりなどしない。その分、無事だった者たちは躊躇せず略奪と殺戮への期待に胸を膨らませて飛び込んでくるのだ。
牧人達が固まっている正面から、蛮族は迫っていく。しかし、プリマはこれも予想の範囲内と新たな魔法の準備をする。
戦いの歌を神に捧げ、周囲に居るものに加護を与える、【
「ペプシさん!!!」
蛮族の群れは、突然前のめりに転倒した。柵を抜けたところの足下に軽く土に埋めてあったロープをペプシが引っ張り、蛮族はそれに気づかず転んだのだ。後続の蛮族も仲間の体に躓いて転び、あるいは動きを止める。
そして蛮族が団子になったところに、牧人達が石や槍等を投げつけた。神の加護を得た牧人の攻撃は、下級の妖魔程度なら十分通じる程度まであがっている。
「ギョ!?」
「ギゲェッ!?」
蛮族の悲鳴が重なり、小柄なゴブリンはそれだけで動かなくなったものすらいた。
「くたばれカスがぁ!!」
そこにペプシが追撃に入り、転倒したボルグに馬乗りとなりひたすら顔を殴りトドメを刺す。
「あ、ああ…………」
牧場主は驚愕し、思わず呻き声を洩らす。それは、あまりに一方的な戦いだった。 落とし穴によって散開していた蛮族たちの動きを封じ、あえて進入路を残すことで残りの蛮族を集結。そこに一斉に攻撃を仕掛け一網打尽にする。落とし穴にはまり抜け出せないゴブリンはレベッカとサーマルが処理。集結した蛮族が生き残ってもペプシの追撃で息の根を引き取る。
数で圧倒的に劣るのに、それをものともせず、むしろ狩りのように蛮族たちを殲滅していく。その手際に、茫然となってしまう。
「GRRRRRROAAAAAッ!!」
だが、外縁部から蛮族の中でも、大柄で重武装をしているボルグが地を震わす程の雄叫びを上げて突進を再開していた。
プリマが初めて焦りの声を上げる。
「…不味いです!あれは、
ゴブリン程度なら這い上がるのに苦労する深さだが、その巨体からか落とし穴を超えてきたようだ。足に多少の怪我があり、機動力は落ちているだろうが、レベッカを見据えると、乱杭歯を剥きだした歪んだがんだ笑みを浮かべる。あれがこの群れのリーダーなのだろう。
青肌の巨漢は大剣を軽々と大上段に構え──
──ドン!
爆発的な踏み込みとともに真っ向唐竹割りで鉄塊剣を振り落とそうとした。
レベッカはまともに受ければ命が無いと、どうにか避けようと身を捻るが間に合わない。
「レベッカぁッ!!!」
サーマルは雄叫びにより、一瞬すくんでしまった腕を無理やり動かし矢を放つ。
その矢はサーマル自身も驚くほど綺麗な軌跡を描き、盾の隙間を縫い
こういうのを「剣の加護のおかげ」と冒険者はいうのだ。
これにより軌道がそれた凶刃はレベッカの鼻先をかすめ地面に突き刺さる。
チャンスを逃さないとばかりにレベッカも下段から斧を振りぬき追撃を測るが、
ボルグの盾に阻まれ、思ったようにダメージを与えられない。
怒り狂った
よけきれないと反射的に斧の柄で防御姿勢を取ろうとするが、それはあまりに悪手だった。
「……ぁ……れ?」
まずいと、本能が警鐘を鳴らした。そんな生きるか死ぬかの瀬戸際、不意に視界が真っ白になって身体を動かせなかった。さっきまで響いていた怒号は消え失せ周囲が静寂に包まれる。
次の瞬間、胴から総身に走り抜ける凄まじい衝撃。
鉄の塊のような剣がレベッカの胴をとらえたのだ。一瞬の浮遊感の後、背が地面に叩きつけられる。
追撃が来る!そう思いレベッカは、起き上がろうとついた手がそのままズルリと地面を滑る。バランスを崩してそのまま水たまりの中に身体が倒れた。
「っぐ……!ぁ……はっ!……はっ!」
水なんかじゃない、真っ赤で、滑り気のあるこれは、これは血だ。誰のなんて明らかなことを考えるのは現実逃避だ。裂けて、潰れた腹から溢れている。血溜まりは私の目の前でみるみるうちに広がっていく。
身体が動かない。頭の中にうるさいほどに鳴り響く心臓の音を聞きながら、視界が色を失っていくのを見守るしかない。
「……はっ!……はぁ……ぁ……」
心臓の音も次第に遠のいていく。そして──
「いいか、レベッカ」
地に伏せている自分に、誰かが声をかける。
這いつくばりながらも声のした方を見上げる。
槌だけで作った石造のような、ごつごつした印象を与えるドワーフがそこにはいた。
お父さん...?
そのドワーフは、幼子に対し斧の使い方を教えていた。
人間の女性が後ろから微笑ましそうにその様子をみている。
──これは、過去の記憶か。レベッカは両親が生きてた......幸せな思い出をみているのだ。
「斧というのは意外と技巧的な武器として使える。決闘や闘技場などで使える技も数多くある。だけどな──」
ドワーフが幼子に手作りであろう、木でできた模擬大斧を渡しながら続ける。
「斧で戦う上でそんなものは必要としない。」
幼子は木で出来た模擬大斧をブン、と振るう。
重さに体が持っていかれ、少しよろけてしまう。
「無理に〝重さ〟をコントロールしようとするとそうなる。」
ドワーフはお手本とばかりに大斧を巨木に叩き込む。
「重さに逆らわず、重さを導きなさい。それだけでいい。」
【
その言葉と共にハッと目が覚める。辺りには怒号と戦闘の音が広がっていた。
「レベッカ。目を覚ましたか!!!」
「【
『起きたらこっち来いやぁクソガキぃ!!何体かこっちに向かってきたぞ。』
「【
狂乱状態が解けた
(お父さん......見てて!)
「わかりました!ありがとうございます!!」
(重さに逆らわず)
身体を捻り、腰の回転を上半身に伝えていく。
その回転力は手を通じ、武器を動かす。
(重さを導け!!)
引き手を体の軸に持ち込み安定させながら楕円を描き刃先を導く。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」
狂乱状態にあった
頭から鮮血を吹き出しながら苦痛の声をあげる。
「あの一撃でも仕留められないっスか。」
矢を番え、割られた頭に向けて弓を放つ。
だが、すんでのところで躱されてしまった。剣の加護は二度は微笑まなかったみたいだ。
合流した
瞬間、ボルグの腕の筋肉が膨張し、体をねじる事で勢いをそのままに横薙ぎへと軌道を変える。
『ぬぉおおおおっ!?』
間一髪でその攻撃を避け、空いた胴体に連撃を叩き込む。
(人型なら狙うは腹の左上ぇ!!)
「うおおおおおりゃああああああああ!!!!!!」
腹の左上には胃、脾臓、大腸、膵臓、腎臓などの臓器がある。
効率的に敵を痛めつける術を経験で知っているペプシは咆哮を上げると共に、拳を叩き込む。
「GUUUUAAAAAA!!」
プリマは
「ギゥウ.....!!鬱陶しい......!!!
【ナップ】
眠りに誘う魔法だが、呪歌の影響により上手く詠唱できず、2人は魔法の効果を受けなかった。
「プリマさん!一撃貰います!」
狂乱状態となりパニックとなっている
レベッカは先程叩きつけた斧の遠心力を殺さず、それを利用し更に回転しその勢いのまま大斧を上段に構えた。
(重さに逆らわず)
膝の力を抜き、己の体重全てを乗せるように身体を真下に落としながら再び斧を落とす。
(重さを導け!!)
全体重と遠心力の乗った凶刃が
「Ga......Aa.......。」
全身を使った一撃は隙が大きく、他の敵から追撃されると対処は出来ないだろう。
だが、この依頼は1人で受けたわけじゃないのだ。
心に染みわたり勇気を奮い起させる呪歌。〝
呪歌は聞く者全てに影響を与える。これで仕留められないと敵にも利益を与えてしまう。
サーマルは〝
「──シッ!!」
限界まで引き絞った弓から放たれた矢が、
「GYAAAAAAAAAA!!」
「グレムリンが逃げようとしてるッス。」
『逃がすと思ってんのかアホンダラァ!!』
ペプシは、
「ペプシさん、あのグレムリンは交易共通語を喋っていました。
かなり知恵のある個体です。拠点や残りの魔物の数を聞き出しましょう。」
『おお?恐喝なら得意だぜぇ......!!』
「お、おいら悪い蛮族じゃないヨ。......役に立つし仲良くしようヨ?」
「それはそちらの態度次第っスね。」
「今晩中に片づけましょう。この村にほぼ全てのリソースを割いているなら、残りは拠点で留守をしている夜目の効かないフッドだけのはずです。」
そんな3人の会話をプリマは他人事のように聞いてる。いや、正確には聞いてるというより聞き流している。額からは冷や汗が流れ落ち、息も絶え絶え。会話が雑音として処理され頭に入ってこない。瞼が重く、白い靄が頭を埋め尽くす。
はて自分はいつの間に【ナップ】を喰らったのだろうか。抗いがたい眠気がプリマを襲う。慣れない旅路、作戦立案、村人の指揮とプリマの疲労は限界を超えた。
でも、ここで寝るともしかしたら自分が
そうは思いつつ、プリマは意識が落ち、静かに地面に倒れた。
「なる...ど。なら.......。」
「......れ?プリ....!!......!!」
( ˘ω˘)スヤァ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その頃、
「剥ぎ取り時に攻撃してくるこいつらうざ過ぎるんだが!!??」
「ちょっと先に倒すとしましょうか......そう言えばローグは?」
「おお~イ。さっきの番人の巣かラ卵持って来タゼ。」
「おお、その大きさの卵なら全員が腹いっぱい食べれるな。」
「だろゥ?いヤ~飯が今から楽し──[ゴテン!!]」
[バキャ!!](卵が割れる音)
「────この
「「「賛成!!!」」」
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