3話目 街への潜入

ドーデン地方、鉄道に繋がれた巨大な経済圏の様相を呈しているドーデン地方。

そんなドーデン地方最大の版図を誇る国にして、鉄道発祥の地として知られている、"鉄と鋼の盟主"キングスレイ鉄鋼共和国。 世界に鉄道の恩恵をもたらすため、線路を繋ぎ、列車を走らせ、管理している鉄道 ギルドの本拠地。

“鉄道の都”キングスフォール、“鉄鉱都市”ヒスダリア、 “架け橋の都市” グランティンの3つの国家級の大都市を有し、鉄道によってこれらを繋ぐことで広大な土地を1つの国として効果的に管理、運営している鉄道の"始まりの地"へようこそ!!


「へぇ、やっぱり大きい都市なんですねぇ~。」

人気のない路地裏で一人、観光向けのパンフレットを読んでいる。


彼女は簡素な服に身を包んでいるが、妙に目立つ衣と、その大胆に開いた胸元が目を引く。艶やかな四肢と整った顔立ちは、あまりに魅惑的であり、目を奪われた瞬間から、俺たちは気づかずうちに油断してしまっていた。


よく考えればわかるが、安物の薄い鎧に身を包み、武器らしい武器も持たず、格闘家には見えない細腕で現れた彼女を、あろうことか、またいい観光客カモを見つけたと判断したのだ。


とんでもない誤りだった。

俺らは3人の仲間と共に彼女を囲い、逃げられないよう退路を断った。

「な~嬢ちゃん、こんなところに居たら危ないよぉ?」

と、彼女の正面に立った男が口元に不気味な笑みを浮かべながら言う。


「俺らが安全な場所に送ってあげっからさぁ!」

もう一人が同調し、彼女の腕を取ろうと手を伸ばす。


「なっ?一緒に行こうぜぇ?」

俺も不敵な笑みを浮かべながら彼女を通りへ出さないように立ち塞がる。


「お優しいんですね」

女性は小さく微笑みながら言った。その声はまるで風に溶け込むように軽やかで、柔らかい。

この声をモノにしたい。下卑た笑いがこみ上げる。


それがどれほどの誤りだったか、気づいたのは次の瞬間だった。彼女はふわりと宙に浮かび、俺たちを見下ろすように微笑んでいたのだ。魔法の詠唱も、手にしているはずの発動体も見当たらない。ただ、その異様なまでの浮遊が、彼女にとって当然のようにさえ思えた。


俺たちは慌てて構え、刃を向けたが、彼女の音色が耳に響きはじめる。歌うような甘美な旋律。それはまるで戦意をかき立て、俺たちの筋肉に活力を送り込むかのように聞こえた。違和感を感じながらも、振り払うことができない。俺たちは、その音に誘われるように武器を強く握りしめた。

違和感を頭の隅に追いやり、どうにか彼女を地に伏せようと足掻き始める。

そんな異常な状況でも、俺たちは楽観していた。

彼女はただ浮いているだけだ。武器は持っていない。発動体やマギスフィアといった魔法の媒体も見えない。聖印は持っていたが使う気配はない事から神官プリーストでもないのだろう。俺は思った――時間稼ぎなのか?援軍でも呼ぼうとしているのか?


そのときに、音曲の調子が変わる。雄々しき旋律から、不安をじわりと胸に押しつけてくるものに。

強い音が混じるようになり、曲の終わりを予感させた。


「成った――」


彼女がそう呟いたのが聞こえた気がした。次の瞬間、突風が吹き荒れ、俺は壁に叩きつけられた。息が詰まる衝撃で膝から崩れ落ち、目の前が暗転する。必死に目を開けようとするが、視界がちらつき、何も見えない。


「何だ、これは……?」

かすれた声で問いかけると、冷たい声が答えを返してきた。


「〝春の強風〟の終律ですよ。フォースやゴッド・フィストも考えましたが、女神に手を煩わせるほどではないので」


彼女の声は、恐ろしいほどに美しく、冷酷だった。その言葉に、俺たちはようやく理解した。目の前の「カモ」は、狩られるべき存在ではなく、俺たちを操り狩ろうとしている存在そのものだったのだ。

仲間だと思っていた存在は俺を見捨てて我先にと逃げて行ってしまった。







――――――――――――――――――――――――――――――――――――――








彼女は静かに微笑みを浮かべ、宙に舞い上がったまま、男たちが恐怖に震える様子を見下ろしていた。冷たい視線の奥に漂うのは、ほんの少しの焦りと緊張。けれど、それを表に出すわけにはいかなかった。何もかもが計算づくであるかのように、優雅に、冷ややかに振る舞い続ける必要があった。


「〝春の強風〟の終律ですよ。フォースやゴッド・フィストも考えましたが、女神に手様を煩わせるほどではないので」

と、彼女は穏やかに告げたが、心の中では汗をかいていた。

荒っぽい相手をどうにか丸め込めたが、少しでも勘づかれたら一瞬で状況はひっくり返っていただろう。ほんのわずか、焦りの中で彼女は思った。(フォースくらい使っておけばよかったんじゃないの?女神様も多分許してくれたでしょ!?)


彼女には実際、まともな戦闘手段がない。武器も使えず、力もない。ただ、彼女が唯一持っているのは、その魅惑の声と神の声を聴き味方をサポートするといったことだけ。彼女が口ずさむ歌声は、人の心を惑わせ、相手の感情を操ることができるものの、目の前の状況を一変させるような直接的な攻撃力などはない。だからこそ、最初に彼らが怯んだときに、彼女は賭けに出たのだ。必要ない賭けでもあった気がするが。


内心で彼女は息を潜める。もしも男たちが、彼女のハッタリを見抜き、再び攻撃してきたら――めちゃダッシュでヒーヒー言いながらトンズラこくしかない。なので、ここで失敗しても引き下がるわけにはいかなかった。この街での潜入のため、彼女は何としてもこの場を乗り越えなければならないのだ。






「ふぅ……」


その後、静かに宙から降り立つと、私の前には男たちの無惨な姿が広がっていた。二人は怯えて逃げ出し、残った一人は気絶したままだ。


(いい事を思いついた。)


微笑みを浮かべ男に近ずき、再び呪歌を歌い出した。

私が扱う、吟遊詩人バードの使う楽曲には二つの種類がある。

一つは呪歌、人の心に呼びかけ、特別な感情を呼び起こす。 先程戦意を高めていたものだ。

そして、もう一つが終律。呪歌によって旋律を紡ぎ上げ、旋律の連なりを術式として完成させることによって、魔法使いたちと同様、直接的な力を行使する。 効果は限られるが、威力は魔法にも引けを取らない。


だが、これらの歌を紡ぐ際、私はサポートの呪歌しか歌えず、 相手を高揚させるという手段を取ったのだ。しかし、気絶している今なら関係ない。


私は呪歌を紡ぎ〝恋歌ラブソング〟を歌い出す。セイレーンの私が紡ぐ恋歌ラブソングは少し特殊で恋愛の感情を抱かせるのは同じだが少し強化される。

それは、私から要求されれば自身の生命に直接的に害を与えるものでない限り、それを全て受け入れてしまうというもの。

もし戦いが起こった場合、私を守るように行動し、それを傷つけるものがあれば無条件で敵とみなすちょっとした洗脳となっている。まぁ、だから歌なのだろう。



「さて、これで準備は整ったわね。」


私は気絶した男に対し、神聖魔法のアウェイクンを使い目を覚まさせた。混乱気味に目を開ける男は、すでに私の〝恋歌ラブソング〟に染まり始めていた。彼の視線は私に向けられ、その目は恋に落ちたかのように穏やかで、忠実に私の命令を待っている。


「ねえ、素敵な酒場を教えてちょうだい。そこなら私も安心して歌を歌えるし、あなたのために色々と楽しませてあげられるわ」


男はゆっくりと頷くと、目を輝かせながらこの町で彼女が使えそうな情報を教え始めた。その話に耳を傾けながら、心の中でほっと息をついた。(しばらくは戦闘はこりごりね。しばらくは、平和的に行動したいところだわ)








その後、彼女は男から得た情報を頼りに軽い気持ちで酒場に向かった。観光客を装い、この町の雰囲気を探るためにも、居酒屋で顔を売って少しずつ情報を集めるつもりだったのだ。けれど――


「貴方、神官ですよね? 話は聞いていたと思いますが、アタシ達と共に蛮族討伐に行きませんか?」


唐突に響いたその声に、彼女は一瞬凍りついた。今はただ気軽に潜入生活を楽しむだけのはずが、冒険者として蛮族討伐などという危険な任務に誘われるなんて! 


内心の動揺を必死に隠し、無理やり笑顔を浮かべながら断ろうとしたが、冒険者たちの目は期待に満ちている。周りの視線が重くのしかかり、断りにくい雰囲気に彼女はさらに追い込まれていった。


「ど、どうしてこうなるんですぅ~~~~~!!!!!」




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



プリマ・カンシオン(セイレーン)

主技能

吟遊詩人バード 神官プリースト

元々は普通の村人だった。だが、様子がおかしくなった村で神に捧げる奉納品生贄となってしまい誰にも助けられることなく海に沈められた。その際、セイレーンに拾われ、儀式を受けたことでセイレーンして蘇り一命を取り留める。本来は男を憎み、誑かし海に沈めるセイレーンなのだが、儀式時、信仰していた“と復讐の女神”ミリッツァの声が聞こえ、その恩寵のおかげで人間時のままの思考を持っている。セイレーンとなった今でも争いはあまり好きではなく、神官プリーストとなったことでより人間を守りたいという思いが強まっている。たまにローグやアルムと意見が衝突するが全て説き伏せてい要る。なんかポワポワしてる。

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