第2話 二人目

――――カランコロン


重たいドアを開き、とある客がやってきた。


「いらっしゃいませ。」


時計は、夜中の一時を回ろうとした時だった。


「し、失礼します....」


その客は、髪も汗で、びっしょりで、顔には、不安や困惑の表情が浮かんでいた。

(え....何この店....不気味なんだけど....)


なぜなら、その店には、席が一つしかなかった。そして、店の中は、天井からぶら下がっている電球がうっすらと光っているだけで、薄暗く、今にでも何かが出そうなそんな雰囲気だった。


(なんなのよ....せっかく、走ってここまできたのに....)



「お好きな席へどうぞ...。と言っても、席は一つしかありませんが....フフフ」


「は、はい....。」

その客は、すこし緊張していた。


そこで、初めて店主と思われる人物を視界に入れた。年を取っていて、小さい体の、帽子を深くかぶり、白い顎髭が特徴の男性だった。


そうしている内に、

「こちらが、メニューです。」


そういって、一つのメニュー表を、渡された。



メニュー:???   値段:???


「あの....メニューと値段が分からないんですけど...」


「この店は、お客様によって、メニューも異なり、値段は、お客様が決めてくださって構いません。また、お会計は、現金でもカードでもそれ以外でも構いません。」


「は、はあ....」

もっと、困惑した。なぜなら、

(''メニューも値段も分からない’’そんな店...どうかしてるでしょ....)


「それで、今日はいかがなさいました?」

そう声をかけられた。



「え、えっと....」

その客は迷っていた。


「その....つい先日、もし、悩みがあるなら、ここのカフェに行けばいいよって...今日も悩んでいたのですが、その言葉を思い出して...突発的に、家から近いもあって、走ってここまで....」


「なるほど。」


「それで、こちらに...」


「分かりました。ということは、お客様には’’何かしら’’のお悩みがあるため、こちらへやってきた....。そういう解釈で、良いですか?」


「はい.....。」


「そうですか。それでは、長丁場になると思うので、その前にこちらのコーヒーをどうぞ。いつもは、ホットコーヒーを出すのですが、今日は、アイスコーヒーにいたしましょう...」


「気を遣わせて、申し訳ないです...。」


「いえいえ、とんでもないです。では、こちらを。」

――――コトッ


そう言って、白いコップに、注がれたアイスコーヒーが、目の前に置かれた。

そのコーヒーは、渦まいて、意識が吸い込まれそうだった。

そうしていると、不思議と悩みを話したい...そんな気持ちになった。


「あ、あの....悩みを聞いてくれますか.....?」


「はい。もちろんです。」


「え、えーっと、私は、今社会人なんです。それで....悩みが、あって...」


「はい。」


「私は、どうしても、他人と比較し、自分が劣っているところがあると、すぐに自己嫌悪に陥ったりしてしまうんです。例えば....あの子は、背も高いし、顔もきれい。年収も私より高いし、かっこいい旦那もいる....とか、もちろん、本人に直接言ったりはしないですけど、心の中では、そんな事を思ったり....。自分でも、すごい性格が悪いなとは思うんです。しかも、大切な友達に対して、そんな事を思うなんて....それでも....」


その客の女性は、話している内に涙が出そうになった。自分の不甲斐なさに失望していた。’’こんなことを考えたってしょうがない’’そんなのは、分かっているのだ....。


「なるほど....」


そこで、沈黙が訪れた。


店内には、客の女性のすすり泣く声だけが、流れていた。


そうして、少し時間が経過すると客の女性も少し落ち着き、涙もおさまったところで、店主と思われる人物が口をひらけた。



「そうですか....それでは、一つ質問させてください。」



「はい...」



「あなたは、誰の人生を生きているのですか?」



「だ、誰って.....私の人生ですけど....」



「では、あなたの人生を幸せに出来るのは、誰でしょうか?その友達ですか?」



「――――っ...」



「その友達のような人生を生きることだけが人生なのでしょうか?もう少し、自分に焦点を当ててみてはどうでしょう。」



その客の女性は、気づいたのだ。自分は、周りばかりを気にしすぎるあまり、自分に目を向けることが、出来ていないと.....。自分は、自分なりの方向へ進めば良いのだと。そんな当たり前のことに気づけなかった。



そうして、自分の気持ちを整理させ、一段落がついた。


そうして、コップにまだ半分ほど残っていたコーヒーを一気に喉に流し込んだ。


「そうですよね...そんな当たり前のことを忘れていたきがします.....。ありがとうございます...」


「いえ、私は何もしていません。決断をしたのは、’’あなた’’です。それを、どうかお忘れなく。」



そして、もうそろそろ店を出ようかと思った。時刻は、すでに午前5時を回っていた。もうそんなに時間が経ったのかと少し、驚きだった。


「え..えーっと、代金を払いたいのですが...」


「はい。」


「なんでも構わないんですよね...?」


「なんでも構いません。」


「それでは....今、手持ちにあるのが、500円玉しかなくて、その残りは、私の時間を代金として払いたいと思います。」


「ほう...というのは...?」


「私の時間をあなたに捧げます。今度は、私があなたの悩みを聞こうと思います。その時間です。」


「フフフ...。そんな払い方をされたお客様は、初めてです....。確かに、頂戴いたしました。」



客の女性は、店主と思われる人物の顔は見えなかったが、口元はしっかりと笑っているのが確認することができた。



「すいません...。長い時間、失礼しました....。」


「とんでもない。またのご利用をお待ちしております。」


「はい!!えーっと...時間的に’’おやすみ’’でいいですかね...」


「そうですね...明るくはなってきましたが、わたしたちの夜は、眠らない限りは続くでしょう......。」


「そうですね...ありがとうございました...」


「ありがとうございました。おやすみなさい。いい夜を。」


――――カランコロン


その客の女性は、気持ちが軽くなり、足取りも軽くなったような、そんな気がした。


どうやら、朝日がのぼり、自分を’’照らしてくれている’’ように思えた。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜お読みいただきありがとうございました!!やっばり、書くのが難しい....

良かったら、星、♡、フォロー、コメントも是非!!

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