第2話
『その1、貴族の血を引いた黒髪少女、アミの場合』
その少女、アミがユキと出会ったのは、スラムの中だった。
父親はとある貴族の男性。しかし妾の子であり、蔑ろにされていた。さらにその父親が大きなやらかしを犯し、取り潰し、いわゆる没落。
妾の子であった彼女は誰からも救われることは無く、いつしかスラムへとたどり着いていた。
勤勉だった彼女は幼いながら、大人顔負けの知識を身に着けていた。それがある意味仇となり、自分の身でできる金稼ぎというものを思いついてしまう。
その日の食事にも困り、ついには幼い自分の体を売りに出そうとし、実際に男に買われようとしたとき。
「そいつは俺のもんだ! よこせ!」
アミを買おうとした男を殴り飛ばし、アミを連れ去ったのがユキだった。
なぜ連れ去ったのかというのが。
「ぐへへ、これは上玉だ。奴隷として高く売れるだろう」
とユキは言っていたが、明らかに下手な演技だった。
そうして自分の店へ連れ帰ったユキだったが。
「腹が減ってるのか? お前は大事な商品だからな。ほら、飯を食え」
毎日与えられた食事は、それはそれは暖かくおいしく。
「睡眠不足は美容の大敵だ。ちゃんとゆっくり寝ろよ」
羽毛で作られたフカフカのベッドに寝かされ。
「奴隷らしくぼろぼろの服を着てろよ。でも店を開いてるときだけで大丈夫だ。閉店時間になったら着替えて良い。店は適温を保っているから不愉快ではないはずだ。あ、でも奴隷っぽく振舞えよ」
毎日5時間ほど、檻の中で疲れたり絶望している演技をして、その後は自由。さらに7日に1日は丸一日が休みになる。
「毎日シャワーを浴びてきれにしろよ」
一般市民ではまずお目にかかれないシャワーを毎日浴びることができ。
「おいそこの野郎、てめぇにはこの奴隷はうらねぇぞ! てめぇは俺の商品を大事に扱わねぇのがわかってるからな」
身元に問題が無く、正当に人を扱う者にしか奴隷を売るつもりは無く。
「お、お前頭いいんだな。その長所を伸ばせば商品価値が高まるな」
望む勉強をすべてさせてもらえた。
「結局お前は売れなかったな...俺の友人に王都の図書館司書やってるやつが居る。そこで働きな」
本に囲まれるという天職である司書の仕事を斡旋してくれた。
そうして持前の知識を生かし、王国の歴史上最年少で司書長にまで上り詰めた。
ユキに出会ったことで、アミは最高に幸せを手にした。
「ああ、私はなんて幸せなんでしょう」
〇〇〇
『その2、捨てられたエルフの少女、セラの場合』
エルフの森で育ったセラは、エルフ特有の厳格で禁欲的な生活が嫌いだった。
ある日、人間の男女がまぐわっている姿を見たセラは、その行為に強い憧れを抱く。
しかしそのことが森の他のエルフたちにばれてしまい、責められたセラは自ら森を出た。
「でへへ。上物じゃねぇか」
そうして街に来た時、初めて出会ったのがユキだった。
ユキが奴隷と聞いて、セラは喜んだ。奴隷というのは、性的な用途で使われることも少なくない。
さらにエルフはその用途して需要があるためだ。一定年齢まで育つとエルフは老化が止まり、長い期間若々しくいられるため、需要が高いという。
しかし、ユキはというと。
「何、性的なことに興味がある。まだお前には早い。だかその意気はいいぞ。まずはエロい本でも読んで知識を蓄えろ」
性的な本を渡され、セラは広い世界を知った。
「そうだな、性的な知識だけじゃなく、広い教養を身に着けたほうがいい」
一般教養を手取り足取り学ばされた。
「セラ、そういうのは大人になってからだ」
夜這い仕掛けようとしたが、ユキにはたしなめられてしまった。
「喜べ! お前を買うっていう娼館が見つかったぞ!」
その報告にセラは歓喜した。そしてその娼館で働き始めると、その娼館の主は。
「あの奴隷商、上玉って言ってたけど、最上じゃない。エロいことに強い興味があるエルフなんて。安い買い物だったわ」
ユキのところで貰った本で学んだプレイ、そして身に着けた教養、元来からある性欲によって、瞬く間に夜の女王に上り詰めた。
そうしてついには王国でも特に権力のある貴族子息の心どころか、その両親や兄妹たちの心までわしづかみ。ついには結婚にまでこぎつけた。
ユキから学んだ教養により、過去を忘れるほど、どこに出しても恥ずかしくない嫁として家族親類内で評判になるほどだった。
「ふふ、わたくし、本当に幸せですわ」
〇〇〇
『その3、スラム出身の獣人少女、ビッタの場合』
ビッタはスラムの悪ガキの一人だった。
幼くして両親を亡くしたビッタは、悪ガキ仲間たちと共にスラムで盗みを働いて暮らしていた。
しかしある日盗みでヘマをしてしまい、ビッタは捕まった。そうしてリンチを受けていると、そこに現れたのがユキだった。
「その娘、俺が買った!」
そうして奴隷商のユキへと引き取られたビッタ。
「なるほど、お前は腕っぷしが強いのか。よし、俺が鍛えてやろう。転移時神から筋力は貰ってるからな」
そうして闘士としても非常に高い実力を持つユキにより、ビッタは鍛えられていった。
「その荒い言動は少し直さないとだ。人の恨みを買うのは損しかない。俺みたいな物好きじゃなければ、恨みは買わないに越したことはないぞ」
荒い言動はそのままに、それでいて人を傷つける言動ということはしないように強制された。
「お前面倒見がいいよな。他の奴隷たちの面倒を見てくれないか? 金はいくらでも使っていいぞ」
金を渡され、他の奴隷たちの世話を任される。世話をするのは楽しく、それでいて金を惜しげもなく出してくれ、面倒を見たことでお小遣いまで渡された。
「前にお前が物を盗んだ店、俺が謝って弁償までしておいた。お前は過去を気にせず奴隷っぽく振舞えよ」
ビッタの過去の行いの生産を、全てユキが行った。
「よし、お前の売り先が決まった。闘技場だ。ほら、選別の最上級装備と回復道具だ」
ユキによるしごきにより、もはや王国内でほぼ敵なしとなっていたビッタ。そこに最上級の装備が加わったことで、誰も彼女にかなわなかった。
瞬く間に闘技場のトップへと上り詰め、巨万の富を手にした。そしてスラムの近くに家を構え、毎日の食事に困っている子供たちを引き取り、食事を与える慈善活動を行っていた。
「ああ、なんてオレは幸せなんだ」
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