ひまわり団地のカエルくん

三角ケイ

第1話 ひまわり団地のカエルくん

 おたまじゃくしからアマガエルになりたてのカエルくんが、ひまわり団地に越してきた。


「はじめまして、よろしくおねがいします」

「ようこそ、ひまわり団地へ。ここに住めるなんて君はラッキーだ。ここは腹と恋とスリルが満たされる超優良物件なんだ。まずは餌場を教えてあげるよ」


 先輩ガエルが機嫌よく案内してくれる。


 ひまわり団地が建っている場所は横長のレンガ造りの花壇の中で、花壇の直ぐ横には花も葉もつけない変わった木が立っていた。


 その木はひまわり団地よりも少し低く、木の頭頂部が白い球状になっていて、一つしかない枝は頭頂部よりも大きな半円の形をしていて、中が空洞になっていた。


「あの木の先が夜になると光り出して、虫がいっぱい集まってくるんだよ。だから夜は食い放題の時間なのさ」

「へぇ、すごいなぁ」


 先輩ガエルが言った通り、夜になると木の頭頂部はお日様みたいに光り出し、大小様々な虫が集まったおかげで、カエルくんはお腹いっぱい食べることが出来た。


 周りを見れば空腹が満たされた他のカエル達がポンポンのお腹で恋の歌を歌い始めていた。


「餌を探しに行く必要もないし、恋人探しにも困らない。なんて良い所だろう」


 ひまわりの葉の上で満足気にカエルくんは呟き、引っ越し疲れもあって、その夜はそのまま眠ってしまった。


 早朝。


 体の上に大量の水がいきなりかけられたカエルくんは慌てて跳ね起きた。


「何だ、この大きな生き物は!?」


 ひまわりの葉の上から落ちていくカエルくんは、そこに自分の何千倍も体が大きくて二足歩行で歩く生き物がいたのを見つけ、悲鳴を上げた。


 すると上の葉から先輩ガエルの声が聞こえた。


「言ったろ、ここは腹と恋とスリルが満たされる超優良物件だって。今からはスリルの時間さ」

「スリル?」


 郵便受けの隣にある花壇に水やりに来た人間に驚いて飛び上がり、そのまま落下したカエルくんは、朝の班で登校する子ども達にも驚いて落下。


 逃げようと郵便受けの上に飛び乗って配達に来た人間と鉢合わせて落下。


 昼下がりに散歩しにきた猫に驚いて落下を繰り返し、夕方にはヘトヘトになっていた。


「もう嫌。出ていく」

「残念。今から腹と恋の時間が始まるのに」


 木の頭頂部が光り出す。カエルくんは昨夜を思い、喉がゴクンと鳴る。


「出ていくの明日にする」

「ハハハ」


 カエルくんの言葉に先輩ガエルは笑った。

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